時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

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「お前はもっと自分が成長することを考えろ」

香恋ちゃんに向けて、静かだけど厳しい声が発せられた。

「誰かを羨んだりひがんだり、おとしめたりしても、何も変わらない。結局、自分がどうあるか、じゃないのか」

チーフだった。

私をかばうように前に立った高野チーフは、淡々と香恋ちゃんに語りかける。
遠巻きに見ていた人々が、動きを止めて静まり返った。

チーフの言葉が刺さった。

『お前は、強いな』

強くなりたいと思った。
成長したい。
自分として、もっと。

『いらないものは、処分しなきゃね』

必要とされたい。
役に立ちたい。

大切な人を大切にできる強さが欲しい。

派手な泣き声を上げていた香恋ちゃんがぴたりと泣き止んだ。

「…ごめんなさい」

顔を上げた香恋ちゃんは、涙の膜に揺れる瞳で、初めてまっすぐに私を見た。
蚊の鳴くような謝罪の言葉は、本心から出たものだと信じたかった。

「…うん」

頷くと、香恋ちゃんは唇を震わせて涙を落としながら、うなだれた。

「香恋ちゃんっ! 大丈夫だよ。俺、ちゃんと香恋ちゃんのこと導くからっ‼」

シュート先輩に無駄に力強く励まされる香恋ちゃんに、

「…あのドレス100万だから。今年のボーナスはないと思え」

チーフがしれっと言い放つ。

「え、…えええ―――っ‼」

顔面蒼白になって大声を上げる香恋ちゃんは、

「だ、大丈夫だよ。…導くから。痛いけど、…」

無意識なのか、シュート先輩の腕をひたすら雑巾絞りにしていた。


「ここ、帰ろうか」

待ち合わせたホテルのエントランスで、スマートに立っている千晃くんは、奇跡みたいにきれいで、その姿を目に焼き付けた。

長い手足。柔らかな髪。
くっきり二重。整った鼻筋。
澄んだ瞳。艶やかな唇。

ありとあらゆるパーツが完璧で配置も申し分ない。

神様に愛された外見と天性の才能を持つ千晃くんが、
私を見つけて優しい微笑みを投げる。

「千晃くん、…」

やっぱり。どうして。
千晃くんを見ると泣きたくなる。

微笑んだまま、千晃くんが私の手を取った。

夜の街を千晃くんと2人で歩く。

合わせてくれる歩調。滑らかな手の感触。
少しひんやりした体温。絡められた指と指。

『手つないでやろうか』

初めて手をつないでくれた時を思い出す。
千晃くんの温もりだけが命綱だった。

つないでくれたこの手が、私の全てだった。

「千晃くん、…」

言葉が出なくて、何度も確かめるように名前を呼ぶと、

「…うん」

千晃くんの甘くかすれた声が応えてくれる。
つないだ手に力を込めたら、優しく握り返してくれる。

ぴったりと、最初から決まっていたように、
自然と一つにつながる手と手。

千晃くんがいる。確かにここにいる。
私に愛を教えてくれて。私に幸せを教えてくれた。

千晃くんは確かにここにいるのに。
胸が張り裂けそうに痛い。

千晃くんの完璧に整った横顔は揺るぎない。

神様。
もしも、ひとつだけ願いが叶うなら。

どうか時間を止めて。
この一瞬を永遠に変えて下さい。

神様はいつも。
たったの一度も。

願いを叶えてくれない。
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