20 / 124
blue.19
しおりを挟む
カタン、という物音がして、思わずびくりと身体を震わせてしまった。
「…のい?」
暗がりの中で、和泉さんの低い声が聞こえた。
和泉さんちのリビングのソファーにお布団を敷いてもらった。
麻雪さんは璃乙くんと寝室に引き上げてしまい、静かなリビングで膝を抱えて座っていた。
「…はい」
深夜をとっくに過ぎている。
和泉さんがこんな時間まで仕事してるのも、私のせい。
「驚かせて悪かった。…眠れないのか」
和泉さんがゆっくり私の方に近づいてくる。
その気配だけで泣きそうになってしまう。
「アイツは支所に異動させる。もう二度とお前には近づかせないから。…心配するな」
和泉さんがソファの前にひざまずいて、私の頭にそっと手を置く。
大きな手。温かい手。
この手は。
「…はい」
別の人のもの。
声が震えないように細心の注意を払って息を吐いた。
泣いたらダメ。心配させてしまう。
「…のい」
暗さに慣れた視界で、和泉さんがその漆黒の瞳を痛そうに細めるのが見えた。
「…一緒に寝るか」
私の髪を撫でた大きな手が、私をそっと引き寄せた。
「は、…え、…は?」
和泉さんはそのまま私を軽々と抱き上げ、リビングを横切る。
「え、…いや、…え?」
目の前で起こっている出来事に頭がついていかない。
和泉さんは隣接する部屋に入り、ベッドの上に私を降ろした。
璃乙くんがいるからか、和泉さんの部屋は独立しているようだ。
モノトーンのインテリアと難しそうな本がずらりと並んだ本棚が目に入る。
乾いた紙の匂い。柔らかい羽毛の感触。
清潔なシーツの肌触り。私を支える力強い腕。
「ま、…麻雪さん、が、…」
どう考えてもこれはアウトだよね。
和泉さんは、あんな事があって私を心配してくれてるだけだろうけど、
いくら何でもこれはアウトだよね。
「…平気だろ」
和泉さんは小首をかしげて考える素振りをしてから、あっさり言い放った。
いや、多分、平気だと思ってるの世界中で和泉さんだけです。
絶対ダメです。こんなの。
こんなの。許されない。
そう思うのに、わかってるのに。
包まれた和泉さんの腕の中が温かくて優しくて安心して。
ずるいのに、泣けてきて、振りほどけなかった。
「のいは、…」
和泉さんが大きな手で私の髪を撫でる。
「…男と寝たことないのか」
えええ―――っ、
なんか速攻バレた―――ってか、モテない認定された―――っ
いたたまれないやら恥ずかしいやら、
もういっぱいいっぱいで逃げようとする私を和泉さんがしっかり抱きしめた。
規則正しい和泉さんの心臓の音が聞こえる。
「…愛しいな」
和泉さんの吐息のようなハスキーボイスが振動と共に伝わり、どうしても涙がにじむ。
ゴミみたいな私のこと、救ってくれてありがとう。
ゴミみたいな私のこと、抱きしめてくれてありがとう。
神様。麻雪さん。ごめんなさい。
今だけ。少しだけ。和泉さんを貸して下さい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
「…のい?」
暗がりの中で、和泉さんの低い声が聞こえた。
和泉さんちのリビングのソファーにお布団を敷いてもらった。
麻雪さんは璃乙くんと寝室に引き上げてしまい、静かなリビングで膝を抱えて座っていた。
「…はい」
深夜をとっくに過ぎている。
和泉さんがこんな時間まで仕事してるのも、私のせい。
「驚かせて悪かった。…眠れないのか」
和泉さんがゆっくり私の方に近づいてくる。
その気配だけで泣きそうになってしまう。
「アイツは支所に異動させる。もう二度とお前には近づかせないから。…心配するな」
和泉さんがソファの前にひざまずいて、私の頭にそっと手を置く。
大きな手。温かい手。
この手は。
「…はい」
別の人のもの。
声が震えないように細心の注意を払って息を吐いた。
泣いたらダメ。心配させてしまう。
「…のい」
暗さに慣れた視界で、和泉さんがその漆黒の瞳を痛そうに細めるのが見えた。
「…一緒に寝るか」
私の髪を撫でた大きな手が、私をそっと引き寄せた。
「は、…え、…は?」
和泉さんはそのまま私を軽々と抱き上げ、リビングを横切る。
「え、…いや、…え?」
目の前で起こっている出来事に頭がついていかない。
和泉さんは隣接する部屋に入り、ベッドの上に私を降ろした。
璃乙くんがいるからか、和泉さんの部屋は独立しているようだ。
モノトーンのインテリアと難しそうな本がずらりと並んだ本棚が目に入る。
乾いた紙の匂い。柔らかい羽毛の感触。
清潔なシーツの肌触り。私を支える力強い腕。
「ま、…麻雪さん、が、…」
どう考えてもこれはアウトだよね。
和泉さんは、あんな事があって私を心配してくれてるだけだろうけど、
いくら何でもこれはアウトだよね。
「…平気だろ」
和泉さんは小首をかしげて考える素振りをしてから、あっさり言い放った。
いや、多分、平気だと思ってるの世界中で和泉さんだけです。
絶対ダメです。こんなの。
こんなの。許されない。
そう思うのに、わかってるのに。
包まれた和泉さんの腕の中が温かくて優しくて安心して。
ずるいのに、泣けてきて、振りほどけなかった。
「のいは、…」
和泉さんが大きな手で私の髪を撫でる。
「…男と寝たことないのか」
えええ―――っ、
なんか速攻バレた―――ってか、モテない認定された―――っ
いたたまれないやら恥ずかしいやら、
もういっぱいいっぱいで逃げようとする私を和泉さんがしっかり抱きしめた。
規則正しい和泉さんの心臓の音が聞こえる。
「…愛しいな」
和泉さんの吐息のようなハスキーボイスが振動と共に伝わり、どうしても涙がにじむ。
ゴミみたいな私のこと、救ってくれてありがとう。
ゴミみたいな私のこと、抱きしめてくれてありがとう。
神様。麻雪さん。ごめんなさい。
今だけ。少しだけ。和泉さんを貸して下さい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
0
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
守護契約のはずが、精霊騎士の距離が近すぎて心拍がもちません―― 距離ゼロで溺愛でした。
星乃和花
恋愛
【完結済:全8話】
ーー条項:心拍が乱れたら抱擁せよ(やめて)
村育ちの鈍感かわいい癒し系ヒロイン・リリィは、王都を目指して旅に出たはずが――森で迷子になった瞬間、精霊騎士エヴァンに“守護契約”されてしまう!
問題は、この騎士さまの守護距離が近すぎること。
半歩どころか背後ぴったり、手を繋ぐのも「当然」、心拍が乱れたら“抱擁条項”発動!?
周囲は「恋人だろ!」と総ツッコミなのに、本人たちは「相棒です!」で通常運転。
守護(と言い張る)密着が止まらない、じわ甘コメディ異世界ファンタジー!
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる