67 / 105
恐れていたこと ③
しおりを挟む
「どうして薬を盛った?」
母様に言われたなんて言えない。
「子供が……欲しかったから……」
僕の役目はカトラレル家のため、自分が捨てられないため、サイモンと番になって子供を授かること。
でも役目だからとかじゃなく、こんな仕方ではなく、いつかサイモンとの子供を授かりたかった。
愛し愛され、子供に恵まれたかった。
サイモンそっくりな子がいいな、なんて思ったこともあった。
けれど僕は、母様の言いつけと言い訳してサイモンに薬を盛った。
酷い酷い方法で、サイモンを傷つけた。
「なんだその答え。聞いて呆れる」
サイモンは『ふっ』と鼻で笑う。
「じゃあ、俺を避けていたのは?」
「薬を、盛ったから。もう会わせる顔がなかった」
薬を盛ったのは誰でもない僕だ。
僕に薬を盛られた時のサイモンの悲しそうな顔が忘れられない。
僕はサイモンにあんな顔をさせてしまうことを、したんだ。
あんなことをしておきながら僕は、サイモンに嫌われたくなかった。
あの優しかったサイモンが本当のことを知り、軽蔑されるのが怖かった。
サイモンが本当のことを知る前に、消えてしまいたいと思った。
なのに、僕はできなかった。
結局、自分が可愛くて何もできなかったんだ……。
「自分から盛っておいて、それはないだろう。で、遠くに行こうと思ったのは?」
「子供を授からなかったから……」
「!!」
サイモンの全身から怒りを感じる。
「そんなことで!?」
グッとサイモンにきつく腕を掴まれ、睨まれる。
いつもいつも大切に大切に触ってくていたサイモンとは思えない力。
痛い。
強く握られた手首も心も。
「子供を授からなかったから、出ていく?俺と一緒にいたのは、子供が欲しかったからだけだったのか?俺と一緒にいたいとか、そういうのではなかったのか?」
怒りに満ちていた瞳の奥が、一気に悲しみの色に染まる。
「家のことがあるから俺と結婚して、子供だけが欲しいから薬を盛って、授からなかったから出ていく。その間、俺のことは何も思わなかったのか?」
「……」
「ルーカス様には本当のことを言えて、俺にはいつまで秘密にしておくつもりだったんだ?ああ、そうか。言うつもりはなかったんだな。だってレオは黙って、俺の前からいなくなるつもりだったんだもんな」
「ちがうッ……」
咄嗟に言ったが、
「何も違わない。レオ、俺はレオのことが好きだった愛していた。だけど今はレオのことをどう思っているのか、わからない」
サイモンは掴んでいた腕を、振り払う。
「レオ、残念だ。本当に残念だよ」
それだけ言うと、サイモンは大股でルーカス様の部屋から出ていった。
母様に言われたなんて言えない。
「子供が……欲しかったから……」
僕の役目はカトラレル家のため、自分が捨てられないため、サイモンと番になって子供を授かること。
でも役目だからとかじゃなく、こんな仕方ではなく、いつかサイモンとの子供を授かりたかった。
愛し愛され、子供に恵まれたかった。
サイモンそっくりな子がいいな、なんて思ったこともあった。
けれど僕は、母様の言いつけと言い訳してサイモンに薬を盛った。
酷い酷い方法で、サイモンを傷つけた。
「なんだその答え。聞いて呆れる」
サイモンは『ふっ』と鼻で笑う。
「じゃあ、俺を避けていたのは?」
「薬を、盛ったから。もう会わせる顔がなかった」
薬を盛ったのは誰でもない僕だ。
僕に薬を盛られた時のサイモンの悲しそうな顔が忘れられない。
僕はサイモンにあんな顔をさせてしまうことを、したんだ。
あんなことをしておきながら僕は、サイモンに嫌われたくなかった。
あの優しかったサイモンが本当のことを知り、軽蔑されるのが怖かった。
サイモンが本当のことを知る前に、消えてしまいたいと思った。
なのに、僕はできなかった。
結局、自分が可愛くて何もできなかったんだ……。
「自分から盛っておいて、それはないだろう。で、遠くに行こうと思ったのは?」
「子供を授からなかったから……」
「!!」
サイモンの全身から怒りを感じる。
「そんなことで!?」
グッとサイモンにきつく腕を掴まれ、睨まれる。
いつもいつも大切に大切に触ってくていたサイモンとは思えない力。
痛い。
強く握られた手首も心も。
「子供を授からなかったから、出ていく?俺と一緒にいたのは、子供が欲しかったからだけだったのか?俺と一緒にいたいとか、そういうのではなかったのか?」
怒りに満ちていた瞳の奥が、一気に悲しみの色に染まる。
「家のことがあるから俺と結婚して、子供だけが欲しいから薬を盛って、授からなかったから出ていく。その間、俺のことは何も思わなかったのか?」
「……」
「ルーカス様には本当のことを言えて、俺にはいつまで秘密にしておくつもりだったんだ?ああ、そうか。言うつもりはなかったんだな。だってレオは黙って、俺の前からいなくなるつもりだったんだもんな」
「ちがうッ……」
咄嗟に言ったが、
「何も違わない。レオ、俺はレオのことが好きだった愛していた。だけど今はレオのことをどう思っているのか、わからない」
サイモンは掴んでいた腕を、振り払う。
「レオ、残念だ。本当に残念だよ」
それだけ言うと、サイモンは大股でルーカス様の部屋から出ていった。
25
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
欠陥Ωは孤独なα令息に愛を捧ぐ あなたと過ごした五年間
華抹茶
BL
旧題:あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。
もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。
だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。
だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。
子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。
アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ
●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。
●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。
●Rシーンには※つけてます。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
βな俺は王太子に愛されてΩとなる
ふき
BL
王太子ユリウスの“運命”として幼い時から共にいるルカ。
けれど彼は、Ωではなくβだった。
それを知るのは、ユリウスただ一人。
真実を知りながら二人は、穏やかで、誰にも触れられない日々を過ごす。
だが、王太子としての責務が二人の運命を軋ませていく。
偽りとも言える関係の中で、それでも手を離さなかったのは――
愛か、執着か。
※性描写あり
※独自オメガバース設定あり
※ビッチングあり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる