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45.会えなくて死にそう
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「へぇ、思ったよりすごいじゃん。竜人っててっきりフィルと同じく武力特化だと思い込んでたけど、そんなことないんだね!」
「フィル兄上のような竜人ばかりではありませんよ、魔女殿」
目の前で交わされる会話を聞き流しながら、フィルは「退屈だ」という感情を隠す気はなかった。クレットからはたまに睨まれるが、イングリッド相手に取り繕っても意味はないと知っている。彼女は正しく研究バカなのだ。とにかく探究心が旺盛で、見慣れぬ魔物を仕留めると、他の魔物のことなど考えもしないで解剖しようとしたり、同じ場所で戦う魔術師が彼女の知らない魔術を使えば、戦闘中でも構わず質問を浴びせかけたりする。だというのに行使される魔術は正確無比で、フィルですら討伐に苦労したロックタートルをあっという間に倒し「単なる温度差の利用だよ」などとこともなげに言い捨てたりもする。
(はぁ……、ユーリに会いたい)
クレットはイングリッドに話を合わせられるらしく、ネラル遺跡の碑文だの、デベロ文書の欠落部分の補稿だの、フィルにとっては謎の単語が飛び交うやり取りをしていた。
「ところで、その紙束なんだけど、なぁに?」
「あぁ、こちらですか。さすが魔女殿は目敏いですね」
資料室の机の上、「未分類」と書かれた箱に入った紐綴じの紙束には『あがり症のあなたに教える3つのこと』というタイトルがお世辞にも綺麗とは言えない字で書かれていた。
「最近、手に入れた訳文なので、内容精査と分類待ちなんですよ。よろしければ内容をご覧になりますか?」
「ふぅん? 興味深いタイトルだけど、いったい誰の……ん、んんっ!?」
始めこそ興味も薄そうにパラパラとめくっていたイングリッドは、だんだんと食い入るように紙束を舐めるように見つめ始めた。
「ちょ、ちょっと待って! これマジもん!? ねぇこれ欲しいんだけど!」
「さすが魔女殿、その価値がおわかりになりますか」
「モノホンだったらとんでもないヤツじゃん! 入手経路は!?」
「さすがにそれをお教えするわけには……」
「う~~~! じゃぁ、せめて写本! 写本作らせて!」
「まさか、無料でとは言いませんよね? これだけの貴重な品ですよ?」
そこから始まった値段交渉を、資料室の入り口でフィルは眺めていた。頭の中はもう、どうやってイングリッドを早く追い出してユーリとの日々を取り戻すか、ということしか考えていない。
(ユーリが彷徨い人であることを隠すためとはいえ、案内役の俺すら近づけないというのはさすがにやり過ぎじゃないか?)
ユーリが彷徨い人であることがバレてしまえば、絶対にイングリッドはユーリに執着する。それぐらい彷徨い人は貴重かつ希少なものなのだ。特に好奇心・探究心の塊であるイングリッドにとっては、彼女を満足させるに足る知識の持ち主とも言える。
(あぁ、絶対俺が案内役になるより、クレットの方が向いてるよなぁ……)
値段交渉が終わり、早速複写しようとしているイングリッドに、今度はクレットの方が質問攻めにしていた。
だが、フィルにとっては失伝した複写魔術もどうでもいいし、廃れた理由にも興味はなかった。複写するたびに原本のインクが半減すると言われても「そうか、大変だな」ぐらいにしか思えないのだ。
「それで、クレット殿はこの訳文の原本は実在していると思うか?」
「そうですね。実在していれば、失われたラカダ文明、そこで使われていた言語の研究に大きく役立つと思うのですが、何しろ手がかりがないものですから」
「やはり貴殿もラカダ文明のものだと思うのだな?」
「勿論です。もちろん可能性が高いというレベルですが、彼の文明由来と言われているラクダーヤーマについての記載もありますし」
「そうだな! それに登場する建物もラクディリア建築のように思えるし」
「なるほど、魔女殿はそこに着目しましたか」
再び始まった学術的な話を聞き流しながら、フィルは遠い目で窓の外を見た。今日も綺麗に晴れていた。
「フィル兄上のような竜人ばかりではありませんよ、魔女殿」
目の前で交わされる会話を聞き流しながら、フィルは「退屈だ」という感情を隠す気はなかった。クレットからはたまに睨まれるが、イングリッド相手に取り繕っても意味はないと知っている。彼女は正しく研究バカなのだ。とにかく探究心が旺盛で、見慣れぬ魔物を仕留めると、他の魔物のことなど考えもしないで解剖しようとしたり、同じ場所で戦う魔術師が彼女の知らない魔術を使えば、戦闘中でも構わず質問を浴びせかけたりする。だというのに行使される魔術は正確無比で、フィルですら討伐に苦労したロックタートルをあっという間に倒し「単なる温度差の利用だよ」などとこともなげに言い捨てたりもする。
(はぁ……、ユーリに会いたい)
クレットはイングリッドに話を合わせられるらしく、ネラル遺跡の碑文だの、デベロ文書の欠落部分の補稿だの、フィルにとっては謎の単語が飛び交うやり取りをしていた。
「ところで、その紙束なんだけど、なぁに?」
「あぁ、こちらですか。さすが魔女殿は目敏いですね」
資料室の机の上、「未分類」と書かれた箱に入った紐綴じの紙束には『あがり症のあなたに教える3つのこと』というタイトルがお世辞にも綺麗とは言えない字で書かれていた。
「最近、手に入れた訳文なので、内容精査と分類待ちなんですよ。よろしければ内容をご覧になりますか?」
「ふぅん? 興味深いタイトルだけど、いったい誰の……ん、んんっ!?」
始めこそ興味も薄そうにパラパラとめくっていたイングリッドは、だんだんと食い入るように紙束を舐めるように見つめ始めた。
「ちょ、ちょっと待って! これマジもん!? ねぇこれ欲しいんだけど!」
「さすが魔女殿、その価値がおわかりになりますか」
「モノホンだったらとんでもないヤツじゃん! 入手経路は!?」
「さすがにそれをお教えするわけには……」
「う~~~! じゃぁ、せめて写本! 写本作らせて!」
「まさか、無料でとは言いませんよね? これだけの貴重な品ですよ?」
そこから始まった値段交渉を、資料室の入り口でフィルは眺めていた。頭の中はもう、どうやってイングリッドを早く追い出してユーリとの日々を取り戻すか、ということしか考えていない。
(ユーリが彷徨い人であることを隠すためとはいえ、案内役の俺すら近づけないというのはさすがにやり過ぎじゃないか?)
ユーリが彷徨い人であることがバレてしまえば、絶対にイングリッドはユーリに執着する。それぐらい彷徨い人は貴重かつ希少なものなのだ。特に好奇心・探究心の塊であるイングリッドにとっては、彼女を満足させるに足る知識の持ち主とも言える。
(あぁ、絶対俺が案内役になるより、クレットの方が向いてるよなぁ……)
値段交渉が終わり、早速複写しようとしているイングリッドに、今度はクレットの方が質問攻めにしていた。
だが、フィルにとっては失伝した複写魔術もどうでもいいし、廃れた理由にも興味はなかった。複写するたびに原本のインクが半減すると言われても「そうか、大変だな」ぐらいにしか思えないのだ。
「それで、クレット殿はこの訳文の原本は実在していると思うか?」
「そうですね。実在していれば、失われたラカダ文明、そこで使われていた言語の研究に大きく役立つと思うのですが、何しろ手がかりがないものですから」
「やはり貴殿もラカダ文明のものだと思うのだな?」
「勿論です。もちろん可能性が高いというレベルですが、彼の文明由来と言われているラクダーヤーマについての記載もありますし」
「そうだな! それに登場する建物もラクディリア建築のように思えるし」
「なるほど、魔女殿はそこに着目しましたか」
再び始まった学術的な話を聞き流しながら、フィルは遠い目で窓の外を見た。今日も綺麗に晴れていた。
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