婚約破棄が成立しない悪役令嬢~ヒロインの勘違い~

鷲原ほの

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本編

7. まだ理解が足りませんか?

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 リグレット王国を含む周辺の王家は、他の貴族の婚約交渉をいたずらに遅らせないよう、出逢いの場ともなる魔法学院へ入学する前に婚約者を発表してきた。
 そういう慣例から相手を教えられていない、教えられるはずがないにも関わらず、当然自分にも婚約者がいると王子は思い込んでいた。そこへ転生者メアリーの勘違いが絡んできたことから、彼等の中で見事な妄想が加速していったわけだ。

「破談にするような手続きも必要ありませんし、ここまで飛び出してきた数々の問題発言から、国王陛下もそこの男爵令嬢と好きにすれば良いと認めてくださるかもしれませんわよ」
「え、そんなの意味ないじゃない……」

 エリザベートの言い回しから、意味ありげに向けられた視線から、悪役令嬢の逆転物を読んだことのあるメアリーが転落の可能性を初めて認識した。

「舞踏会の開始を遅らせることも問題となるでしょうから、段取り通りに進めますわ」
「「「……は?」」」
「では、――《魔法鎖の束縛チェーンバインド》」

 合図を受けて潜んでいた騎士達が動き出し、王子達が暴れないようにエリザベートは拘束の魔法を唱えた。
 突然右手を上げた彼女を見ていた対象者それぞれの足元に魔法陣が光りだし、そこから魔力の鎖が数本絡み付いていく。

「「「な、何だ!」」」
「何よぉ~」
「何をする!」

 発光する魔力の鎖に絡み取られて、驚きの表情のまま抜け出そうと王子達は身体を揺すり始めた。
 しかし、あっという間に騎士達が取り囲み、一人一人拘束していく。

「目に余る問題行動を起こしたあなた方には、魔法学院の風紀を任された者として、このまま寄宿舎にて謹慎とすることを言い渡します」

 晴れ舞台である舞踏会へ立てないことの意味は分かったようだ、取り巻き達が青ざめていく。

「……おそらく、即時の帰国が命じられることになりますから、そのときまで大人しくしておいてくださいな」
「くそっ!」

 顔を赤くして、拘束するなど許されないとアルフォンス王子が身体を捻り続ける。
 しかし、力一杯反抗しようとするも、取り囲んだ騎士によって魔力の作用を阻害する腕輪まで装着されては、もはや彼等が逃げ出すことは不可能だ。
 全員が魔法の扱い、魔力に抵抗する術を不得意としているのだから尚更に。

「あらあら、未だにご自分の立場を理解なされていないようですけど、魔法学院を卒業して、大人として貴族の社会に出ていれば、あなた方の行いは帝国侯爵家に対する侮辱行為として即刻処刑となってもおかしくないほどの暴挙です。それだけの暴言を口にしていたことくらい、理解しなさい!」
「「「ひぃっ……」」」

 エリザベートの叱責する発言へ合わせるように、護衛していた騎士二人が剣の柄へ手を添え怒気を放った。

「魔法学院を卒業していないということにして、帰国後にご実家の方で躾をしていただくという処罰で、今日の出来事を収めると申し上げているのです。ですから、大人しく従っていただきたいものですね」
「国際問題を引き起こした罪人として乱暴に束縛されないだけ、配慮していただいていると思われた方が良いですよ」
「俺様は、リグレット王国の王族だぞ! そのような扱いなど――」

 交ざってきたアイリーンの諫言かんげんに、相変わらずのアルフォンス王子が王族としての驕りを発動しそうになる。
 ちなみに、被害を受けたエリザベートが、リルフレア侯爵家が厳しい処罰を求めなかったとして、王国側へ引き渡された彼等がお咎め無しに終わることはない。
 悠々自適に暮らせる明日など、訪れるはずがない。

「今年度は、ワルタナ王国の王族も卒業生として名を連ねておられますわ。ご両親の王太子殿下妃殿下が舞踏会へ列席されておりますし、国際問題をますます大事となさりたいのですか?」

 突然巻き込まれた大柄な学院生が、アルフォンス王子から自らの存在が見分けられやすいように手を振った。

「ぐっ……」
「それから、このような場では王族と言うより帝国伯爵家の令息ですから、帝国侯爵家より立場は下だと、先程はっきりとお教えしたはずですが、まだ理解が足りませんか?」
「ぐぬぬ……」

 エリザベートの静かな口調に、なんとか言い返したい王子だったが、武闘派の王族を引っ張り出されて、目が合ってしまい萎縮していった。
 異教徒と戦う王国としての繋がりと剣術で打ち負かされた過去が、彼の脳みそからワルタナ王国の存在を消し去ることを許していなかった、辛うじて。
 ちなみに、苦手意識から彼を避けていたことで、帝国貴族の存在を理解する機会を逸していたことになる。
 下に見ていた講師陣の注意など、確実に右の耳から左の耳へ抜けていっていたのだから。

「お分かりになったのなら、大人しく騎士の言葉に従っていただきたいですね。……無用な痛みを知らないで済みますよ」

 ほれぼれする笑顔でぼそりと加えられたエリザベートの脅す言葉に、男子学院生達は力無くうな垂れる。
 しかし、メアリーだけは騒いでいないがこんな状態は面白くないと、こんな結末は許せないと悪役令嬢を睨み続けている。

「……連れて行って」
「「「はっ!」」」


   ★   ★   ★


 話題をさらった舞踏会直前の暴挙、悪役令嬢婚約破棄騒動から二日。
 石壁に囲まれたじっとりとした空間にて、侯爵令嬢二人と男爵令嬢一人が鉄格子を挟んで向かい合う。
 ここは、貴族の令息令嬢が暮らす寄宿舎ではなく、逃亡を許さぬ公国騎士団の地下牢である。

「何しに来たのよ!」
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