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本編
8. あんた達分かってんの!
しおりを挟む「反省せず逃げ出したと聞かされましたからね。もう少し、あなたには置かれている状況の認識を改めていただきたいと思いまして」
答えたエリザベートの言い回しが気に入らないとメアリーが睨み返す。
「はぁあー?」
見張りのメイドを嫌がり、右足首を挫いてまで二階の窓から逃げ出した。そして、治療を受けている間続けられた小言に、怒りのゲージは満タンなのだ。
異性がいないとこういう態度になるのかと感心するエリザベートに変わって、アイリーンが今回の核心を告げる。
「あなたの主張したいこと、夢幻に縋りたくなる気持ちも分からなくはないのですよ、わたくし達二人だって、ある乙女ゲームをクリアーした経験がありますからね」
「なーーーっ!? ということは、あんた達二人も、元は日本人ってことーーー!?」
想像すらしていなかった情報に、転生に浮かれて大失態を演じたメアリーが大声で驚いてみせる。
「そうですよ。そして、あなたよりこの世界のことを分かっているつもりですから――」
何故なら転生するときに、応対してくれた神様からある程度の事情を聞いている。
そんな情報を続ける前に、エリザベートの言葉を遮ったメアリーが怒鳴る。
「やっぱり、あんた達が邪魔したのね! さっさと、あたしをここから出しなさいよ!」
モブ役に転生していた相手に邪魔されたと受け取ったらしい。
しかし、出せと言われて国家転覆を謀ったと見做されるほどの極悪人を自由にするはずもなく。
「……こちらから、わざわざ邪魔をしたつもりはありませんけどねぇ」
「そうですよね、第三王子と勝手に自滅しただけですから……」
侯爵令嬢二人は顔を見合わせて、駄目かもしれないわねと溜め息を吐きたくなってしまう。
「あたしがこの世界の主役よ! あんた達程度が邪魔して良いと思ってんの!」
このような主張を繰り返すメアリーも、実は転生するときに神様と会話した記憶を思い出している。
しかし、ストーリーに負けない躍進を願う、健やかな成長を期待して見守っているという、たったそれだけの言葉を彼女は都合良く解釈しすぎているのだ。神様が都合良く整えてくれていると勘違いするほどに。
「日本で発売された乙女ゲームでは確かに主役でしたけどね、こちらの世界では別にあなたが主役というわけではないですよ」
「はあぁぁぁ~~~?」
エリザベートの言い分に、そんなわけないでしょうとメアリーが馬鹿にしたような表情になった。
出逢いの瞬間からストーリーに則っていたわけでもなかったのに、全てが主役だから上手く運んでいたと思い込んでいるから。
しかし、賢者候補の眼鏡子爵令息や大金持ちの留学伯爵令息には、同級生として同じ空間で過ごしていたはずなのに、攻略対象者だったと気が付いていない。ちょっと色仕掛けしてみて、相手にされなかったから早々に興味を失ったとも言えるが、考え直す機会を手放しているのだ。
「こちらの世界が乙女ゲームを具現化した世界ではないと、転生に適した者を探すためのツールとして世に出た物語に過ぎないと、そう説明されているはずなのですけどね。この世界には多くの転生者がおり、あなたはそのうちの一人に過ぎないと」
「はんっ」
付け加えられたアイリーンの言葉にも、何を言い出したのかとメアリーは疑いの目を向ける。ただのモブ役が都合良く解釈しているんじゃないわよと。
「何度も思いましたけど、本当に人の話を聞いていないのですねぇ……。改めて言いますけど、乙女ゲームの世界観とこちらの世界は別物です」
そもそも、呆れたエリザベートの生まれたリルフレア公国ですら、乙女ゲームには魔法学院の名前としてだけ使われていた。
国家として扱われていたら、彼女の勘違いは起こったのか起こらなかったのか。
「あなたは、乙女ゲームの主人公として扱われていた、メアリー・プリアという人物に転生しただけ。そう伝えられているはずなのですよ」
神々の思念を受け止めやすい体質、聖属性の魔法に素養のある少女を教会が認定して、敬うべき聖女と扱われてきた。
メアリー・プリアはほぼ空っぽの状態、外部の刺激に反応を示さない人形のような状態で産まれてきてしまったため、適合しやすい魂の持ち主が探された。
そうして見付け出された、日本で魂となるタイミングの良かった彼女が、たまたま呼び掛けた神々の思い描いていた成長をとっても、とってもあり得ない方向へ外れていく女性だったというだけだ。
ちなみに、同じ乙女ゲームを起点として世界を渡った日本人は、彼女達三人以外にも多数確認されている。名前を覚えていた学術都市へ学びに来ている転生者もいるわけだが、彼等と出会っていれば運命は変わっていたのかいないのか。
そんなの関係ないと、我が道を行くだけだった気がしないでもないか。
ちなみに因みに、初代皇帝とは戦乱の大地を纏め上げていく戦略シミュレーションゲームを通じて世界を渡った転生者だったと、リルフレア侯爵家に愛娘が書き上げた立志伝が残されている。
攻略を忠実に再現するわけでもなく、エンディングを上回るほどの偉業を成し遂げられる、そんな剛毅な人物が主役の立場に転生しただけで。
「向こうと変わらない現実があるだけで、死ねば終わりなんですよ。そのことくらい、理解したらどうですか?」
アイリーンの死ぬという言葉に、失敗させられたと思い込んでいるメアリーが僅かに怖じ気づきそうになった。
それでも、あんた達の所為だという苛立ちを燃え上がらせる。
「そうやって二人して騙したいのかもしれないけど、あたしはこの世界の主役なんだから、思い通りになって当然でしょ!」
二人掛かりで教えて上げるという、上から目線にも腹が立ってくる。
「聖女のあたしは、神様に選ばれているんだからね! そこんとこ、あんた達分かってんの!」
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