23 / 37
ダレン外伝⑤
しおりを挟む
ザビートはただ、じっと聞いてくれていた。
「ジミーに言われたよ。悪いことをしたら謝ればいい。……子供の頃は何も考えずにすんなり言えた謝罪も……今は……」
「……謝りたいのか?」
「謝り……たい。けど、それは俺の自己満足なんだ。もしも仮に両親が俺に謝ってきたら……ふざけるなって、殴ると思う。それなら彼女だって同じだろう」
沈黙。
「……これは、俺の個人的な意見だ。謝ることで相手が満足するならいくらでも謝ればいい。お前の顔を見て嫌な記憶を思い出させてしまうなら、一生後悔して、一生考えて、それでも生きていくんだ。相手に悪かったと思うだけ、誰かを助けてやるんだ。人間、どこで繋がってるかわからない。自分が助けた誰かが、その人を、その人の大切な人を救ってくれるかもしれない。俺は……そうやって生きてる」
ザビートの瞳が少し陰ったように見えた。
きっと彼も、謝ることのできない何かを抱えているのだろう。だから、見ず知らずの俺に親切にしてくれたんだな……。
なんだが、胸が苦しくなる。
無性に……泣きたくなった。
×××
ザビート達に助けられてから2ヶ月が経った。
俺は今日、この村を出発する。
「世話になった」
「気にするな」
別れの挨拶なのに、ザビートはいつも通りぶっきらぼうだ。なんだか安心する。
「エレンおじさん!近くに来たら寄ってくれよな。約束だぜ」
「エレンさん。今までたくさん勉強を教えて頂き、ありがとうございました」
「そんな、大したことは教えていないよ」
「いいえ。エレンさんのお陰で、俺もジミーも本を読めるようになりました」
「この短期間で読めるようになったのはパリスが努力した結果だ。頑張ったな」
「はい!」
子供らしいキラキラした笑顔に、心が癒される。
「これ、お弁当だよ。冒険者ギルドのある村は遠いからね。気を付けるんだよ。小まめに休憩なり、水分補給なり忘れるんじゃーーー」
「テッサ」
テッサの言葉をザビートが遮った。
世話好きでおしゃべりで、お節介。
ザビートが口を挟まなければ、30分は喋り続けただろう。
「ハハハ!すまないね。じゃ、元気で」
豪快な笑いが、周りを明るくする。
この家族に出会えて良かった。
本当にありがとう。
一家は俺の姿が見えなくなるまで手を振ってくれていた。
×××
冒険者ギルドに顔を出すと幽霊を見たように驚かれた。まぁ、死んだと思ってた奴が帰ってきたのだから仕方ないだろう。
「えっ、エレン……」
俺を見捨てたパーティーのリーダーがちょうどギルドにいたので探す手間が省けた。
「よっ、良かった!サラマンダーに吹っ飛ばされて崖に落ちたから、もうダメだと思ってたんだ。生きて帰ってきてくれて嬉しいよ」
白々しい奴……。
「ちょうど良かったよ」
俺は人の良さそうな顔を心がけながら、リーダーに近付いた。そしてーー
「ギルドマスターに説明するから、お前も来い」
胸ぐらを掴んで受付に引きずって行った。
「はっ、離せよ!この死に損ないが!」
×××
俺はサラマンダー討伐での出来事を詳細に、ギルドマスターに話した。
「出鱈目だ!エレンはサラマンダーの攻撃を受けて崖から落ちたんだ。救出に行きたくても深い崖だったから……死んだと思って……」
あくまでも『見捨てた』とは認めないようだ。
「ダレン、服を脱いでくれ。体の傷が見たい」
ギルマスの指示に従う。
俺は上半身の服を脱いで肌を見せた。
剣の切り傷や右腕に火傷の跡がある。
「崖から落ちたと言うが、どうして落ちた。落ちたのは前からか?」
「しっ、しっぽが腹に入った拍子に吹っ飛んだんだ。背中から落ちて行ったはずだ」
「ふむ……。エレン、ありがとう。服を着てくれ」
そういうと、ギルマスは職員にパーティーメンバーを全員呼ぶように指示を出した。
しばらくしてギルマスの執務室にパーティーメンバー全員が集められた。
「えっ、エレン?!」
みんな幽霊を見るような顔だ。
中には、苦虫を噛み潰したような顔をする奴もいる。
不自然に視線をそらす者も。
「全員、犯罪者の印を押すから手を出せ」
ギルマスの冷たい声が響いた。
「な?!」
「どう言うことよ!」
「何で私達が犯罪者なの?!」
「どう言うことだよ!!」
一様に混乱と抗議をするメンバー達。
「黙れ」
ギルマスの低く威圧感のある声に、一同息を飲んだ。
「テメーらが仲間を見捨てたからだよ」
「だから見捨ててないと説明してるだろ!エレンはサラマンダーのしっぽに弾かれて崖に落ちたんだ。そんなの死んだと思って当然じゃないか!」
リーダーが食い付く。
「その汚ねぇ口を閉じろ。クズ。サラマンダーの背びれのようなトゲは高温で、触れただけで大火傷だ。そのトゲ、しっぽには全面的に生えているんだ。腹をしっぽに弾かれた?エレンの腹に火傷はなかっただろうが!」
あぁ、だから服を脱いで確認したのか。
「わっ、私は反対したのよ!重傷のエレンを置き去りにするなんて。それをリーダーが」
「おい、やめろ!」
「そっ、そうだぜ!リーダーがエレンを前から気に入らないってぼやいていたんだ。だからみんなエレンを煙たがってたんだ!」
「置き去りにしようって言ったのはリーダーよ」
口々に『自分は悪くない』『リーダーが指示した』と責任を擦り付け始めた。
醜いな……。
こんな連中を仲間だと思ってたのか……。
俺の中で怒りよりも呆れと虚しさか広がった。
「ピーピーうるせーな!!仲間を見捨てた時点でテメーらみんな同罪だよ」
ギルマスの一喝でパーティーメンバーは全員諦めたのか、項垂れて何も言わなくなった。
あとは粛々と全員の手の甲に犯罪者の印を押され、各冒険者ギルドに報告が上がった。
『歯牙の祭り』パーティーは仲違いして解散した。
冒険者として致命的な烙印を押されたメンバーは、もう冒険者として活躍するのは難しいだろう。
とぼとぼとメンバー全員が執務室を出たのち、俺も部屋を出た。
「エレンさん」
「!お前は……」
廊下で声をかけてきたのは、俺がパーティーを追い出した奴だった。
「ジミーに言われたよ。悪いことをしたら謝ればいい。……子供の頃は何も考えずにすんなり言えた謝罪も……今は……」
「……謝りたいのか?」
「謝り……たい。けど、それは俺の自己満足なんだ。もしも仮に両親が俺に謝ってきたら……ふざけるなって、殴ると思う。それなら彼女だって同じだろう」
沈黙。
「……これは、俺の個人的な意見だ。謝ることで相手が満足するならいくらでも謝ればいい。お前の顔を見て嫌な記憶を思い出させてしまうなら、一生後悔して、一生考えて、それでも生きていくんだ。相手に悪かったと思うだけ、誰かを助けてやるんだ。人間、どこで繋がってるかわからない。自分が助けた誰かが、その人を、その人の大切な人を救ってくれるかもしれない。俺は……そうやって生きてる」
ザビートの瞳が少し陰ったように見えた。
きっと彼も、謝ることのできない何かを抱えているのだろう。だから、見ず知らずの俺に親切にしてくれたんだな……。
なんだが、胸が苦しくなる。
無性に……泣きたくなった。
×××
ザビート達に助けられてから2ヶ月が経った。
俺は今日、この村を出発する。
「世話になった」
「気にするな」
別れの挨拶なのに、ザビートはいつも通りぶっきらぼうだ。なんだか安心する。
「エレンおじさん!近くに来たら寄ってくれよな。約束だぜ」
「エレンさん。今までたくさん勉強を教えて頂き、ありがとうございました」
「そんな、大したことは教えていないよ」
「いいえ。エレンさんのお陰で、俺もジミーも本を読めるようになりました」
「この短期間で読めるようになったのはパリスが努力した結果だ。頑張ったな」
「はい!」
子供らしいキラキラした笑顔に、心が癒される。
「これ、お弁当だよ。冒険者ギルドのある村は遠いからね。気を付けるんだよ。小まめに休憩なり、水分補給なり忘れるんじゃーーー」
「テッサ」
テッサの言葉をザビートが遮った。
世話好きでおしゃべりで、お節介。
ザビートが口を挟まなければ、30分は喋り続けただろう。
「ハハハ!すまないね。じゃ、元気で」
豪快な笑いが、周りを明るくする。
この家族に出会えて良かった。
本当にありがとう。
一家は俺の姿が見えなくなるまで手を振ってくれていた。
×××
冒険者ギルドに顔を出すと幽霊を見たように驚かれた。まぁ、死んだと思ってた奴が帰ってきたのだから仕方ないだろう。
「えっ、エレン……」
俺を見捨てたパーティーのリーダーがちょうどギルドにいたので探す手間が省けた。
「よっ、良かった!サラマンダーに吹っ飛ばされて崖に落ちたから、もうダメだと思ってたんだ。生きて帰ってきてくれて嬉しいよ」
白々しい奴……。
「ちょうど良かったよ」
俺は人の良さそうな顔を心がけながら、リーダーに近付いた。そしてーー
「ギルドマスターに説明するから、お前も来い」
胸ぐらを掴んで受付に引きずって行った。
「はっ、離せよ!この死に損ないが!」
×××
俺はサラマンダー討伐での出来事を詳細に、ギルドマスターに話した。
「出鱈目だ!エレンはサラマンダーの攻撃を受けて崖から落ちたんだ。救出に行きたくても深い崖だったから……死んだと思って……」
あくまでも『見捨てた』とは認めないようだ。
「ダレン、服を脱いでくれ。体の傷が見たい」
ギルマスの指示に従う。
俺は上半身の服を脱いで肌を見せた。
剣の切り傷や右腕に火傷の跡がある。
「崖から落ちたと言うが、どうして落ちた。落ちたのは前からか?」
「しっ、しっぽが腹に入った拍子に吹っ飛んだんだ。背中から落ちて行ったはずだ」
「ふむ……。エレン、ありがとう。服を着てくれ」
そういうと、ギルマスは職員にパーティーメンバーを全員呼ぶように指示を出した。
しばらくしてギルマスの執務室にパーティーメンバー全員が集められた。
「えっ、エレン?!」
みんな幽霊を見るような顔だ。
中には、苦虫を噛み潰したような顔をする奴もいる。
不自然に視線をそらす者も。
「全員、犯罪者の印を押すから手を出せ」
ギルマスの冷たい声が響いた。
「な?!」
「どう言うことよ!」
「何で私達が犯罪者なの?!」
「どう言うことだよ!!」
一様に混乱と抗議をするメンバー達。
「黙れ」
ギルマスの低く威圧感のある声に、一同息を飲んだ。
「テメーらが仲間を見捨てたからだよ」
「だから見捨ててないと説明してるだろ!エレンはサラマンダーのしっぽに弾かれて崖に落ちたんだ。そんなの死んだと思って当然じゃないか!」
リーダーが食い付く。
「その汚ねぇ口を閉じろ。クズ。サラマンダーの背びれのようなトゲは高温で、触れただけで大火傷だ。そのトゲ、しっぽには全面的に生えているんだ。腹をしっぽに弾かれた?エレンの腹に火傷はなかっただろうが!」
あぁ、だから服を脱いで確認したのか。
「わっ、私は反対したのよ!重傷のエレンを置き去りにするなんて。それをリーダーが」
「おい、やめろ!」
「そっ、そうだぜ!リーダーがエレンを前から気に入らないってぼやいていたんだ。だからみんなエレンを煙たがってたんだ!」
「置き去りにしようって言ったのはリーダーよ」
口々に『自分は悪くない』『リーダーが指示した』と責任を擦り付け始めた。
醜いな……。
こんな連中を仲間だと思ってたのか……。
俺の中で怒りよりも呆れと虚しさか広がった。
「ピーピーうるせーな!!仲間を見捨てた時点でテメーらみんな同罪だよ」
ギルマスの一喝でパーティーメンバーは全員諦めたのか、項垂れて何も言わなくなった。
あとは粛々と全員の手の甲に犯罪者の印を押され、各冒険者ギルドに報告が上がった。
『歯牙の祭り』パーティーは仲違いして解散した。
冒険者として致命的な烙印を押されたメンバーは、もう冒険者として活躍するのは難しいだろう。
とぼとぼとメンバー全員が執務室を出たのち、俺も部屋を出た。
「エレンさん」
「!お前は……」
廊下で声をかけてきたのは、俺がパーティーを追い出した奴だった。
198
あなたにおすすめの小説
婚約破棄のお相手は
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、ギリアム王子が平民の婚約者に婚約破棄を宣言した。
幼い頃に「聖女では」とギリアムの婚約者として引き取られたものの、神聖力が発現しなかったロッティナ。皆は婚約破棄されるのも当然だと思っていたが……。
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
聖女を追い出しても平気だと思っていた国の末路
藤原遊
ファンタジー
聖女が国を去った日、神官長は分かっていた。
この国は、彼女を軽く扱いすぎたのだと。
「聖女がいなくても平気だ」
そう言い切った王子と人々は、
彼女が“何もしていない”まま国が崩れていく現実を、
やがて思い知ることになる。
――これは、聖女を追い出した国の末路を、
静かに見届けた者の記録。
「可愛げがない」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、領地経営をしていたのは私です
希羽
恋愛
「お前のような可愛げのない女との婚約は破棄する!」
卒業パーティの会場で、婚約者である第二王子デリックはそう宣言し、私の義妹ミナを抱き寄せました。 誰もが私が泣き崩れると思いましたが――正直、せいせいしました。 だって、王子の領地経営、借金返済、結界維持、それら全ての激務を一人でこなしていたのは「可愛げのない」私だったのですから。
「承知しました。では、あとはミナと二人で頑張ってください」
私は手切れ金代わりに面倒な仕事を全て置いて国を出ました。 すると、国境で待っていたのは、隣国ガルガディア帝国の冷徹皇太子ことクライド様。なぜか彼は私を溺愛し、帝国で最高の地位と環境を与えてくれて……。
「君の回復魔法は痛い」と追放されたので、国を浄化するのをやめました
希羽
恋愛
「君の回復魔法は痛いから」と婚約破棄され、国外追放された聖女エレナ。しかし彼女の魔法は、呪いを根こそぎ消滅させる最強の聖なる焼却だった。国を見限って辺境で薬草カフェを開くと、その技術に惚れ込んだ伝説の竜王やフェンリルが常連になり、悠々自適なスローライフが始まる。
一方、エレナを追放した王国はパニックに陥っていた。新しく迎えた聖女の魔法は、ただ痛みを麻痺させるだけの「痛み止め」に過ぎず、国中に蔓延する呪いを防ぐことができなかったのだ。
原因不明の奇病、腐り落ちる騎士の腕、そして復活する魔王の封印。
「頼む、戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう遅い。
私の店は世界最強の竜王様が警備しているので、王家の使いだろうと門前払いです。
※本作は「小説家になろう」でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる