【完結】フィクション

犀川稔

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42.5話 偏狭なパラレル

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 朝起きてからも相変わらず母は何も言ってこなかった。唯一家を出る時に「いってらっしゃい。」とその一言だけかけられ恋は家を出た。玄関のドアを閉めてふと顔を上げると家から50mくらい離れたところに赤城が立っていた。
「え!え!なんでいるの!?」
「昨日電話で声が暗かったから、学校来るのも憂鬱だったべ?んだからちょっとでもレア感出してもらおうと...気分上げさせよう的なヤツ。」
 マスクを取りながら笑って話す赤城の顔を見て恋は目をうるうるさせて抱きついた。
「それ最高のヤツ!!嬉しい......ありがと!今日も大好き。......あ、おはよう。」
「うん、こんな時でも挨拶忘れないのめっちゃいいと思うわ。はよー。」
 安心する赤城の胸の中と言葉に心を落ち着かせ、切り替えて一緒に学校に向かった。

「恋、今日ってバイトよね?明日は?」
「うんそうだよ!明日は9時から17時までだよ!」
「そのあと会えそう?もし会えんなら飯行こうよ、職場まで迎え行く。」
 教室まで向かっている最中に赤城が聞くと恋は嬉しそうに頷いた。
「じゃ、またあとで。ふらっと話かけいきますんで~。」
「ありがとう!うん、わかった!」
 赤城と別れて席に着くとしばらくして仲川が恋に近づいてきた。
「おはー。何、今日も赤城んち泊まってきたん?」
「泊まってない!今日家の前まで赤城が迎えきてくれたんだ~!」
「おぉすげーな、朝からようやるわな。」
 自慢げに話す恋に対して、友達と話す赤城の方を呆れたような顔で見て仲川が言った。
「そうそう。昨日僕、付き合ってる人いるって親に言ったんだよね。」
「へー...え、は?母親に?」
「うん。」
「...それでなんて言われたの?」
 仲川のその問いに対して恋はため息を吐いて、机に顎を付けた。そして昨日の話をした。
「......なるほど?...まぁお前の親らしいと言うかなんと言うか。姉貴がお前の味方でいてくれてるのは救いではあるけど、俺の勘だともうひと揉めありそうな予感するわ。」
「だよねー...僕もさ~、ほんのひと匙くらいの確率で受け入れてもらえるか或いはまた荒れるか暴言吐かれるかするんだろうなーって思ってたのにマジの方で何も言われなくて結構動揺した。」
「...にしては結構冷静だよなお前。」
 淡々と話す恋不思議そうに見て仲川が聞いた。それに対して恋は「うーん。」と少し考えてから話した。
「付き合うのやめろって言われたとしても受け入れる気はないし、否定されても特に僕は赤城と関係変える気もないからさ。冷静と言うより向こうの意図が分からなすぎて接し方に困るのが本音かもしれない。」
「人ってここまで変われんだな...すげーわ、芦野がでかく見えるわ。」
「え、身長も体重もそう変わってないけど。」
「体積の話はしてないんだわ。あれよ、メンタル強くなったなってことだよ。ヨカッタヨカッタ。」
「めちゃくちゃ棒読みだし心がこもってないな!」
 恋が不服そうに仲川を見ると仲川は恋の頬をつねった。そしてその後相馬から寝坊したから休むと連絡が入って、そこから話を変えて話していると新山が声をかけてきて三人で屋上に向かった。

「なぁ赤城~...俺の話聞いてる?」
「うん俺もそれいいと思うよ。」
「おい、何がだよ。お前絶対一ミリも話聞いてなかっただろ。」
 恋の方を見つめてぼーっとしている赤城を見て佐々木とその周りの友達は突っ込んだ。その様子を傍観していた新山ニヤニヤして「あ、俺ちょっと芦野くんと話してこよ。」と言って離れていった。
「は?なんで?ちょ...おい。」
 赤城の言葉を一切聞かずに席に向かう新山を見て赤城はため息を吐いた。
「わ~お、あいつ度胸あんね。芦野くんに何話すんだか。」
「......知らね。まぁいいよ、興味ない。」
 肩を組もうとする佐々木の手を振り払って赤城は教室を出ると屋上に向かう三人を見て怪訝そうにスルーして自販機に向かおうとした。その時一年の女子数人に「先輩と話してみたい。」と言われ、怠くなり断ろうとしつつも何か企んだように少し微笑んでから女子たちに目を向けた。
「いいよ。美術室空いてる気するからそこ行こう。」
 そう言って歩き出すと彼女たちは嬉しそうに笑って赤城の後に着いて行った。

「新山くんどうかしたの?」
「ん?何がー?」
 不思議そうに聞いてくる恋を見て新山はヘラヘラ笑って答えた。
「あれ、何か話があったから呼び出したわけじゃなく...?」
「あー...どうせ赤城に見せつけたかったんだろ、お前。」
 見透かしたように話す仲川に「正解!」と笑って言って新山は手すりにもたれかかった。
「...?見せつける?どう言うこと......?」
「おい、お前が面倒なことするから芦野が混乱してんじゃねーか。どうしてくれんだ。」
「いやお前は芦野くんの親かよ。」
 仲川の突っ込みから話が膨らんでいき、仲川と新山は何事もなかったかのように話をし始めた。恋はぼんやりと新山の隣で手すりに体重をかけて下の階の方を見ていると、美術室で女子たちと話をする赤城の姿が目に止まった。しばらく見つめていると赤城も恋に気づいたのか目が合い話ながら赤城は口パクで恋に話しかけた。その口の動きを見て「僕、先に行く!」と言って恋は急いで屋上から出て行った。
 驚いてその背中を呆然見ている仲川。新山はチラッと下の階に目を移し窓際で話をする赤城を見て声を出して笑った。
「...何笑ってるんですか?」
「いやー?ただやり返されたなーって思ってね。あいつ手強いわ、マジで。」
 新山の話を聞き隣に来た仲川もまたその光景を見て笑った。
「あー...なるほど。典型的なバカップルってことっすね。」
 呆れたようにそう言い放つ仲川の背中を面白そうに新山は叩いているとそこに佐々木がやってきた。「で、お前の彼女はどんなヤツなの?」と笑って聞いてくる新山を怠そうに適当に遇らうと、佐々木と入れ違いに仲川は少し駆け足で教室に戻っていった。

 走って美術室に向かいドアを開けると中で赤城が座って待っていた。そこには赤城以外の姿はなく恋はキョロキョロと中を見渡した。
「恋、こっちおいで。」
 赤城がそう言って手を伸ばすとそばに近づき、恋はパタンと赤城の腕の中に身を委ねるとそのまま安心したように目を閉じた。
「可愛い。走ってきたの?」
「うん...めっちゃ走ってきた。赤城が来てって言うから......呼んでくれたの嬉しかった。でも女の子たちと話してた。」
「あの距離だったのによく分かったね。そ。恋が新山とイチャイチャしてたから俺も一年生の女子たちと仲良く話してた。」
 悪戯に笑って話す赤城の顔を見上げて恋は焦って口を開いた。
「ちがっ...、イチャイチャしてない!しかも仲川も居たから二人きりじゃない!」
「うん......俺も数人の女子話してたから二人きりじゃないよ。」
 そう答えると赤城は恋の手を掴んで窓際の床に移動して座り込み、向かい合わせになりよう自分の上に恋を乗せて跨らせた。
「......ごめん、なさい。」
「ん?なんで恋が謝ってるの。」
「赤城が女子と二人きりじゃなくても僕は嫌だって思った...から。でも僕は呼び出されたからなんか話あるのかなって思って、だから......」
 一生懸命説明する恋に微笑みかけ「うん、知ってる。」と言って赤城は首を掴んでキスをした。
 恋は抵抗することなくキスを受けると自分から舌を絡めた。赤城は驚きつつも嬉しそうに受け入れると自身も同じように絡めた。
「......っ、可愛いね。キス上手になったね。」
「...んっ、ほんと?嬉しい...赤城怒った...?」
「怒ってないよ。新山がわざと俺が見てる目の前で恋たちのこと連れて行ったのわかってたし...で、だから俺もわざとここの教室で話してた。気づいたら恋がこっち来てくれるかなーって思ってたら本当に来てくれたしそれに...」
 そう言って赤城がキスで疲れて目をとろんとさせる恋にそこから見える屋上を指差した。その先を見るとこっちを見てニヤニヤ笑っている佐々木と新山の姿があった。
「...っ!?......へ?」
「ちゃんと見せつけることできたし、これで当面の間はうぜーことしてこないでしょ。」
 焦ったように見つめる恋を見て赤城は愛おしそうに頭を撫でた。
「なーに、見られるの嫌だった?」
「嫌...とかじゃなくて。恥ずかし...こんな破廉恥なところ......見られて。」
「可愛すぎ...そんな可愛いこと言うなら俺調子乗ってもっかいしちゃうよ。」
 冗談混じりに笑いながら話す赤城に恋は頷き赤城の胸に一度もたれ掛かってから抱きしめて耳元で囁いた。
「......する、もっかい...したい。」
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