ノンフィクション

犀川稔

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30話 おれの家族

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 新山さんは今日、兄貴たちと昼を食べに行くらしい。
 朝起きてリビングで寛いでいたおれに兄貴がそう教えてくれた。その少し後に、起きたとL◯NEをくれた新山さんもまたおれにご飯に行くことを知らせてくれた。
 別に流石のおれでも多少は弁えている部分もあるわけで兄貴たちの中に割って入ろうとは思ってないけど、おれは正直新山と毎日でも会いたいと思ってる。それなのに会えない時間もある中で堂々と新山さんと会えている兄貴が心底羨ましい。おれも連れていってと言いたい気持ちをグッと堪えて兄貴を適当に遇らい家から出すと、声にならないこの感情を枕にぶつけた。
 新山さんはマメだからバイトの休憩中も然り、友達と会っている時も時間を見つけてはおれに連絡をくれる。今までの付き合ってきた相手も似たような優遇を受けていたのだと思うとマイナスな気持ちが芽生えるけど、今はおれだけだと逆にプラスに捉える術をおれは学んだ。だから多少は嫉妬を抑えることはできるようになったし一緒にいる時もチラチラと新山さんを見る女子たちの視線もシャットダウンできるようにもなってきた。
 そんなおれだからなのか、なんとなく直感と勘で今日の新山さんはいつもとなんだか違うようなそんな気がしている。言葉では表現しづらいけれど、悪く言えば無愛想。よく言えば自分の気持ちを制御しているような、そんな感じがしていた。
 おれの勘違いなら良いと思っていたけれどやっぱりおれの予想は的中していたんだと思う。
 今日空いた時間で少し会えないかとおれが聞いたL◯NEの返信が「会える。」だけだった。普段の新山さんなら前のめりに何時にどこにするかとか何時まで空いてるかとかそう言う細かいところまで聞いてくるから、おれの疑問はこの時に確信に変わった。
 次の連絡が来るのが気になって一向に課題が進まないけれど、そんなことはどうでもよくておれは新山さんが心配で仕方なかった。帰ってきた兄貴に聞くのも手だと思ったけれど確か兄貴は今日出かけた足でそのままバイトに行くと言ってたからそう言うわけにもいかずおれにできることは返事を待つことといつ会うとなってもいいように出れる準備を整えておくことだけだった。
 数時間が経過して我慢ができなかったおれはうざいと思われるのは承知で追いメッセージを送った。
 数分後に既読が付くと、それを見たおれは思わず電話をかけた。電話越しの新山さんは弱々しい声をしていて何かあったのだとすぐにわかった。そして「会いたい。」と言う新山さんの言葉を聞いておれは勢いよく家を飛び出した。
 不謹慎かもしれないけれど、内心嬉しかった。
 新山さんの中で何かあったとした時に、会いたいと思ってくれるその相手がおれだったことに安心感をおぼえた。誰かの代わりとかじゃない。ただ純粋に自分を求めようとしてくれる新山さんにおれは正直に面と向かって向き合いとまで思えた。

 おれの家族は至って普通で家族仲も決して悪いわけではなかった。しかしそれは仲が悪くなるほど接触をしていないからだと言われたら全くその通りかもしれない。
 父親はおれが幼い頃から一年を通して家を空けていることが多く、夏休みや冬休みといった長期休みに家族みんなで旅行やお出かけをしている友人たちがとても羨ましいと思った。
 しかし母親はそんな気持ちを抱いていたおれを察していたのか、一人でおれと兄貴を連れて色んな所に連れて行ってくれたから決して寂しいと言う感情は抱かなかった。
 そんな生活は小学校を卒業したあたりから徐々に変わっていった。
 元々看護師をしていた母親はおれが中学に上がると同時にパートとしてまた前職に復帰した。最初は週に数日出ていた仕事もだんだんと出勤する日数が増えていき、二年に上がる頃には正社員として雇用形態を変えていた。
 その話を母親にされた時は然程驚かなかった。いつかはそうなるだろうと予想はしていたし、ただそれが思っていたよりも早かっただけに過ぎなかったから。一年の時はただ一言「おめでとう。」と言ってくれていた誕生日を祝福する言葉も二年に上がった後からは消えていき、数日後に兄貴の口からおれが誕生日だったと聞きつけた母親から「遅れてごめん。」と一万円を受け取るそんなカタチに変わっていった。別に期待はしていないから傷ついたとかはなかった。ただこれがおれの家族の在り方と言うだけだ。
 食事だって作れる時は母親が作り置きと置き手紙を残しておいてくれるし時間がない時はおれと兄貴の分のお金を置いておいてくれる。バイトをしていないおれのために、毎月お小遣いだって用意してくれるしたまに顔を合わせる時だって大変なはずなのに明るく笑顔を見せてくれる。だから我儘を言うつもりはない。ただ一つだけ...欲を言ってもいいのなら、家族じゃなくともおれのことを周りよりも大事に...特別扱いしておれのことを優先してくれる。そんな人が欲しかった。
 そのうち、恋愛をすればそんな人ができるのではないかと思っていたけれどおれの考えは浅はかだった。
 初めて付き合った子も、その後付き合ってきた女子もみんなおれの理想からはかけ離れていた。それは相手がおれと同じ「自分を優先」を求めていたからだ。
 言葉をよく言えば双方同じ主観で、相性が良く聞こえるかもしれない。でもそれは綺麗事だった。同じ欲を持つ人が引き合わされば、待っているのは不協和音だ。
 自分の欲を満たすために相手にも自分と同じ、もしくはそれよりもより高いものを要求する。しかしそのベクトルには少なからず考え方の違いがあって、その釣り合いが一度崩れると一気に関係は壊れていく。
 それを繰り返していけば自然と恋愛をするのが億劫になっていき、そんな相手が存在すること自体が幻なのかもしれないとまで思えてしまう。だからおれは告白を断ることも相手に期待をすることも全て諦めていた。
 そんな時に出会ったのが新山さんだった。
 第一印象も最悪で最初は兄貴と同種と言うだけで毛嫌いしていたしあまり関わりたくないとまで思っていたけれど、そんなおれに対しても諦めずに新山さんは目を向けてくれた。
 それに加え、無謀すぎるほどに何年も前におれとした約束を律儀に覚えていてあの時のおれも今のおれも全部まとめて受け入れてくれた。そんなところが全部好きで苦手だった人付き合いも最近はできるだけ進んで取り組むようにもなった。
 おれをこんなにも変えてくれた新山さんには感謝してもしきれないからその分おれは...おれも新山さんを変えるほどの力はないかもしれないけど、ほんの少しは支えになりたいと思ってる。

 今はおれのそばでゆっくり休んで。
 あわよくば、ずっとずっとおれの隣にいてほしい。
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