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三
29話 保身とエゴ
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俺の話を聞いて驚くわけでもなく茶化すわけでもなくただ妹は「あ、やっぱりそうだったんだ。」とだけ言い、この話は流れていった。
受け入れられたのか引かれたのかよくわからないけれど、あまり深く踏み入った質問をされるのはごめんだったから正直助かったと思ったのが本音だった。
家に帰ると俺と妹が一緒に帰ってきたのを見た母親は気分を良くしたのか「何か甘いものが食べたいわ。」と大きな声で独り言を言った。それに対して俺がスルーをすると妹は「一緒に買いに行く?」と母親に投げかけた。
何も言わない俺をキョロキョロ見ては「誰かが買ってきてくれると思ったのに。」とボソボソ小言を言うと妹はため息を吐いた。
「...あのさ、お母さん。何が目的かはなんとなく検討はついてるけど、そんなことしてもお兄ちゃんは出ていくの辞めないだろうし後でお父さんはお金渡すと思うよ。お父さんから言うなって止められてたからお兄ちゃんには言ったことなかったけど、お父さんお兄ちゃんが毎月家に入れてくれてたお金全部使わずに貯めてくれてるんだよ。このお金はお兄ちゃんが頑張って稼いだお金だから自分に使ってほしいって言ってた。だからどう足掻いてもお兄ちゃんは引っ越しできるだけのお金はあるし今更邪魔したって止められないの理解してよ。」
妹の話を聞き俺は驚いて動きを止めた。母親も想定外の出来事に言葉を失っていたけれどその表情は俺と良く似ていた。
「えっ、えっ。じゃ...じゃあ愛美ちゃんもパパも、秋冬が家出するのを応援してるって言いたいの!?なんでこんな家族を見捨てる人のことを背中押せるの。信じられないわ!」
「家出じゃないよ、独り立ちだよ。高校卒業してからはお兄ちゃんも社会人になるんだしどんな選択を取ってもお兄ちゃんの自由だよ。それを阻止するのは間違ってるし絶対しちゃダメなことだよ。」
キッパリとモノを言う妹に尻込みしていると母親は案の定、いつも通り自暴自棄になったように「なんでみんなして私を責めようとするの?」と言葉を漏らし俯いた。
そんなことをしていると玄関の扉が開き買い物に出ていた家政婦さんが帰ってきて家族で話し合っていたその場に鉢合わせ、気まずそうにしていた。
「あ、中島さんおかえりなさい!ちょうどよかった。お母さんが甘いものが食べたいみたいで。何か冷蔵庫にあったりしますか?」
一瞬にして表情を明るくさせた愛美が家政婦さんを気遣い話題を逸らすと、家政婦さんもそれを察してすぐに準備すると言ってキッチンに向かった。その隙に愛美からアイコンタクトを受けた俺は自室に戻り部屋着に着替えてベットに横になった。
自分が知らないうちにあんなにも鈍臭くてヘラヘラしていた妹が頼りになるしっかり者になっていて俺は心底驚いた。それに加えて周りにも気を遣える人になっていたなんて...。
妹は千隼と同じ歳で今年高校に上がったけれど今まで家の事や母親のこと、そしてバイトでいっぱいいっぱいになっていて正直妹のことをしっかり見れていなかったのかもしれない。それに父さんのことも。
新山は先ほど愛美が言っていた話を思い出してつい最近、怒りに身を任せ冷たい態度をとってしまった父親に対しての自分の悪態を反省した。
「...母さんと妹のことしか頭にないと思っていたけど、父さんはちゃんと俺のことも考えてくれてたのか。なのに俺は......。」
今更謝るのは性に合わないと思う気持ちとせめて父さんとだけはちゃんと話をできる環境にしておきたい気持ちが入り混じり自分の醜いプライドとぶつかり合った。
そんなことを考えているとメッセージが届き、携帯の画面がパッと明るくなった。
「新山さん何時頃来れそう?もし厳しかったら全然なしでも大丈夫だかんね。」
千隼からの連絡だった。
帰り道に今日会えるかどうかのL◯NEが届き「会える。」と言ってから連絡を返してなかった俺を心配して連絡をくれたようだった。
俺自身がとっつきにくくなったからなのか余裕がないからなのか。ここ数日、友人を含めて千隼や家族に気を遣われすぎている気がする。今まで周りに対して無関心に生きてきたから気づかなかっただけなのかもしれないけれどそのことに気づいてしまった今、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
こんな時に自分の気持ちを全て吐き出せる人がいたらと思ってしまうけれどそれは相手にとって厄介だと思われてしまうだろうか。そしてその相手がもし千隼だとしたら___。
ごちゃごちゃと頭の中を乱す面倒くさい感情に頭を抱えているとしばらくして今度は電話がかかってきた。
「......もしもし...新山さん?なにかあった...?大丈夫?」
少し焦ったような優しい声で聞こえてきたその声は押し潰されそうになる俺の心を引き上げ救い出そうとしてくれるようだった。
「...ううん、大丈夫。......ごめん、やっぱ大丈夫じゃないかも。千隼に早く会いたい。めちゃめちゃに弱音でごめん。」
導かれるように本音を伝えると、バタバタと激しい雑音が聞こえた後で「今すぐ新山さんの家の方に行く。」と言い電話を繋いだまま息を切らして千隼は俺の元に向かって来てくれた。
ポケットに財布と鍵を仕舞うと急いで俺も家を出た。外に出ると家の中よりも多少は息を吸うのが楽になり一気に気疲れしたようにその場で蹲った。
間も無くして新山の家に前に着いた千隼はそこで座り込み堕落している新山を見つけて急いでそばに駆け寄った。
「新山さん!?大丈夫?...どこか痛い?」
そう声をかける千隼の方をゆっくりと向いた新山の顔は無表情で明らかに顔色が悪かった。
「新山さん...。コンビニ行こうよ、おれアイス食べたい。一緒に食べよう?」
気落ちさせないようにと明るく話しかける千隼の笑顔を見て気持ちを落ち着かせた新山は、その問いかけに頷くと差し出された手をとって立ち上がった。
そして何を言うわけでもなく、ただ満足するまで新山の手を繋いでいた千隼に新山は口を開いた。
「今日家泊まっていい?自分の家に戻る気になれないんだわ。」
申し訳なさそうに言った新山を見て温かい笑みを浮かべると千隼は繋いでいた手を強く握った。
「もちろん。むしろ今の状態で帰すわけがないじゃん...。新山さんの気が済むまでおれの家に居てよ。おれだってずっと新山さんといれるし新山さんだって家から出れるしwin-winじゃん!」
何を言っても肯定し明るく振る舞ってくれる千隼に新山は「ありがとう。」と返すと寄ったコンビニで袋いっぱいにアイスやお菓子を千隼に買った。
千隼はそんな新山に「こんなに食べれないよ。」と笑って言うと新山も薄い笑みを浮かべた。
家に着くと誰も居ない家の玄関で、ドアが閉まると同時に新山は千隼の手を引きキスをした。
受け入れられたのか引かれたのかよくわからないけれど、あまり深く踏み入った質問をされるのはごめんだったから正直助かったと思ったのが本音だった。
家に帰ると俺と妹が一緒に帰ってきたのを見た母親は気分を良くしたのか「何か甘いものが食べたいわ。」と大きな声で独り言を言った。それに対して俺がスルーをすると妹は「一緒に買いに行く?」と母親に投げかけた。
何も言わない俺をキョロキョロ見ては「誰かが買ってきてくれると思ったのに。」とボソボソ小言を言うと妹はため息を吐いた。
「...あのさ、お母さん。何が目的かはなんとなく検討はついてるけど、そんなことしてもお兄ちゃんは出ていくの辞めないだろうし後でお父さんはお金渡すと思うよ。お父さんから言うなって止められてたからお兄ちゃんには言ったことなかったけど、お父さんお兄ちゃんが毎月家に入れてくれてたお金全部使わずに貯めてくれてるんだよ。このお金はお兄ちゃんが頑張って稼いだお金だから自分に使ってほしいって言ってた。だからどう足掻いてもお兄ちゃんは引っ越しできるだけのお金はあるし今更邪魔したって止められないの理解してよ。」
妹の話を聞き俺は驚いて動きを止めた。母親も想定外の出来事に言葉を失っていたけれどその表情は俺と良く似ていた。
「えっ、えっ。じゃ...じゃあ愛美ちゃんもパパも、秋冬が家出するのを応援してるって言いたいの!?なんでこんな家族を見捨てる人のことを背中押せるの。信じられないわ!」
「家出じゃないよ、独り立ちだよ。高校卒業してからはお兄ちゃんも社会人になるんだしどんな選択を取ってもお兄ちゃんの自由だよ。それを阻止するのは間違ってるし絶対しちゃダメなことだよ。」
キッパリとモノを言う妹に尻込みしていると母親は案の定、いつも通り自暴自棄になったように「なんでみんなして私を責めようとするの?」と言葉を漏らし俯いた。
そんなことをしていると玄関の扉が開き買い物に出ていた家政婦さんが帰ってきて家族で話し合っていたその場に鉢合わせ、気まずそうにしていた。
「あ、中島さんおかえりなさい!ちょうどよかった。お母さんが甘いものが食べたいみたいで。何か冷蔵庫にあったりしますか?」
一瞬にして表情を明るくさせた愛美が家政婦さんを気遣い話題を逸らすと、家政婦さんもそれを察してすぐに準備すると言ってキッチンに向かった。その隙に愛美からアイコンタクトを受けた俺は自室に戻り部屋着に着替えてベットに横になった。
自分が知らないうちにあんなにも鈍臭くてヘラヘラしていた妹が頼りになるしっかり者になっていて俺は心底驚いた。それに加えて周りにも気を遣える人になっていたなんて...。
妹は千隼と同じ歳で今年高校に上がったけれど今まで家の事や母親のこと、そしてバイトでいっぱいいっぱいになっていて正直妹のことをしっかり見れていなかったのかもしれない。それに父さんのことも。
新山は先ほど愛美が言っていた話を思い出してつい最近、怒りに身を任せ冷たい態度をとってしまった父親に対しての自分の悪態を反省した。
「...母さんと妹のことしか頭にないと思っていたけど、父さんはちゃんと俺のことも考えてくれてたのか。なのに俺は......。」
今更謝るのは性に合わないと思う気持ちとせめて父さんとだけはちゃんと話をできる環境にしておきたい気持ちが入り混じり自分の醜いプライドとぶつかり合った。
そんなことを考えているとメッセージが届き、携帯の画面がパッと明るくなった。
「新山さん何時頃来れそう?もし厳しかったら全然なしでも大丈夫だかんね。」
千隼からの連絡だった。
帰り道に今日会えるかどうかのL◯NEが届き「会える。」と言ってから連絡を返してなかった俺を心配して連絡をくれたようだった。
俺自身がとっつきにくくなったからなのか余裕がないからなのか。ここ数日、友人を含めて千隼や家族に気を遣われすぎている気がする。今まで周りに対して無関心に生きてきたから気づかなかっただけなのかもしれないけれどそのことに気づいてしまった今、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
こんな時に自分の気持ちを全て吐き出せる人がいたらと思ってしまうけれどそれは相手にとって厄介だと思われてしまうだろうか。そしてその相手がもし千隼だとしたら___。
ごちゃごちゃと頭の中を乱す面倒くさい感情に頭を抱えているとしばらくして今度は電話がかかってきた。
「......もしもし...新山さん?なにかあった...?大丈夫?」
少し焦ったような優しい声で聞こえてきたその声は押し潰されそうになる俺の心を引き上げ救い出そうとしてくれるようだった。
「...ううん、大丈夫。......ごめん、やっぱ大丈夫じゃないかも。千隼に早く会いたい。めちゃめちゃに弱音でごめん。」
導かれるように本音を伝えると、バタバタと激しい雑音が聞こえた後で「今すぐ新山さんの家の方に行く。」と言い電話を繋いだまま息を切らして千隼は俺の元に向かって来てくれた。
ポケットに財布と鍵を仕舞うと急いで俺も家を出た。外に出ると家の中よりも多少は息を吸うのが楽になり一気に気疲れしたようにその場で蹲った。
間も無くして新山の家に前に着いた千隼はそこで座り込み堕落している新山を見つけて急いでそばに駆け寄った。
「新山さん!?大丈夫?...どこか痛い?」
そう声をかける千隼の方をゆっくりと向いた新山の顔は無表情で明らかに顔色が悪かった。
「新山さん...。コンビニ行こうよ、おれアイス食べたい。一緒に食べよう?」
気落ちさせないようにと明るく話しかける千隼の笑顔を見て気持ちを落ち着かせた新山は、その問いかけに頷くと差し出された手をとって立ち上がった。
そして何を言うわけでもなく、ただ満足するまで新山の手を繋いでいた千隼に新山は口を開いた。
「今日家泊まっていい?自分の家に戻る気になれないんだわ。」
申し訳なさそうに言った新山を見て温かい笑みを浮かべると千隼は繋いでいた手を強く握った。
「もちろん。むしろ今の状態で帰すわけがないじゃん...。新山さんの気が済むまでおれの家に居てよ。おれだってずっと新山さんといれるし新山さんだって家から出れるしwin-winじゃん!」
何を言っても肯定し明るく振る舞ってくれる千隼に新山は「ありがとう。」と返すと寄ったコンビニで袋いっぱいにアイスやお菓子を千隼に買った。
千隼はそんな新山に「こんなに食べれないよ。」と笑って言うと新山も薄い笑みを浮かべた。
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