ノンフィクション

犀川稔

文字の大きさ
37 / 87

30話 おれの家族

しおりを挟む
 新山さんは今日、兄貴たちと昼を食べに行くらしい。
 朝起きてリビングで寛いでいたおれに兄貴がそう教えてくれた。その少し後に、起きたとL◯NEをくれた新山さんもまたおれにご飯に行くことを知らせてくれた。
 別に流石のおれでも多少は弁えている部分もあるわけで兄貴たちの中に割って入ろうとは思ってないけど、おれは正直新山と毎日でも会いたいと思ってる。それなのに会えない時間もある中で堂々と新山さんと会えている兄貴が心底羨ましい。おれも連れていってと言いたい気持ちをグッと堪えて兄貴を適当に遇らい家から出すと、声にならないこの感情を枕にぶつけた。
 新山さんはマメだからバイトの休憩中も然り、友達と会っている時も時間を見つけてはおれに連絡をくれる。今までの付き合ってきた相手も似たような優遇を受けていたのだと思うとマイナスな気持ちが芽生えるけど、今はおれだけだと逆にプラスに捉える術をおれは学んだ。だから多少は嫉妬を抑えることはできるようになったし一緒にいる時もチラチラと新山さんを見る女子たちの視線もシャットダウンできるようにもなってきた。
 そんなおれだからなのか、なんとなく直感と勘で今日の新山さんはいつもとなんだか違うようなそんな気がしている。言葉では表現しづらいけれど、悪く言えば無愛想。よく言えば自分の気持ちを制御しているような、そんな感じがしていた。
 おれの勘違いなら良いと思っていたけれどやっぱりおれの予想は的中していたんだと思う。
 今日空いた時間で少し会えないかとおれが聞いたL◯NEの返信が「会える。」だけだった。普段の新山さんなら前のめりに何時にどこにするかとか何時まで空いてるかとかそう言う細かいところまで聞いてくるから、おれの疑問はこの時に確信に変わった。
 次の連絡が来るのが気になって一向に課題が進まないけれど、そんなことはどうでもよくておれは新山さんが心配で仕方なかった。帰ってきた兄貴に聞くのも手だと思ったけれど確か兄貴は今日出かけた足でそのままバイトに行くと言ってたからそう言うわけにもいかずおれにできることは返事を待つことといつ会うとなってもいいように出れる準備を整えておくことだけだった。
 数時間が経過して我慢ができなかったおれはうざいと思われるのは承知で追いメッセージを送った。
 数分後に既読が付くと、それを見たおれは思わず電話をかけた。電話越しの新山さんは弱々しい声をしていて何かあったのだとすぐにわかった。そして「会いたい。」と言う新山さんの言葉を聞いておれは勢いよく家を飛び出した。
 不謹慎かもしれないけれど、内心嬉しかった。
 新山さんの中で何かあったとした時に、会いたいと思ってくれるその相手がおれだったことに安心感をおぼえた。誰かの代わりとかじゃない。ただ純粋に自分を求めようとしてくれる新山さんにおれは正直に面と向かって向き合いとまで思えた。

 おれの家族は至って普通で家族仲も決して悪いわけではなかった。しかしそれは仲が悪くなるほど接触をしていないからだと言われたら全くその通りかもしれない。
 父親はおれが幼い頃から一年を通して家を空けていることが多く、夏休みや冬休みといった長期休みに家族みんなで旅行やお出かけをしている友人たちがとても羨ましいと思った。
 しかし母親はそんな気持ちを抱いていたおれを察していたのか、一人でおれと兄貴を連れて色んな所に連れて行ってくれたから決して寂しいと言う感情は抱かなかった。
 そんな生活は小学校を卒業したあたりから徐々に変わっていった。
 元々看護師をしていた母親はおれが中学に上がると同時にパートとしてまた前職に復帰した。最初は週に数日出ていた仕事もだんだんと出勤する日数が増えていき、二年に上がる頃には正社員として雇用形態を変えていた。
 その話を母親にされた時は然程驚かなかった。いつかはそうなるだろうと予想はしていたし、ただそれが思っていたよりも早かっただけに過ぎなかったから。一年の時はただ一言「おめでとう。」と言ってくれていた誕生日を祝福する言葉も二年に上がった後からは消えていき、数日後に兄貴の口からおれが誕生日だったと聞きつけた母親から「遅れてごめん。」と一万円を受け取るそんなカタチに変わっていった。別に期待はしていないから傷ついたとかはなかった。ただこれがおれの家族の在り方と言うだけだ。
 食事だって作れる時は母親が作り置きと置き手紙を残しておいてくれるし時間がない時はおれと兄貴の分のお金を置いておいてくれる。バイトをしていないおれのために、毎月お小遣いだって用意してくれるしたまに顔を合わせる時だって大変なはずなのに明るく笑顔を見せてくれる。だから我儘を言うつもりはない。ただ一つだけ...欲を言ってもいいのなら、家族じゃなくともおれのことを周りよりも大事に...特別扱いしておれのことを優先してくれる。そんな人が欲しかった。
 そのうち、恋愛をすればそんな人ができるのではないかと思っていたけれどおれの考えは浅はかだった。
 初めて付き合った子も、その後付き合ってきた女子もみんなおれの理想からはかけ離れていた。それは相手がおれと同じ「自分を優先」を求めていたからだ。
 言葉をよく言えば双方同じ主観で、相性が良く聞こえるかもしれない。でもそれは綺麗事だった。同じ欲を持つ人が引き合わされば、待っているのは不協和音だ。
 自分の欲を満たすために相手にも自分と同じ、もしくはそれよりもより高いものを要求する。しかしそのベクトルには少なからず考え方の違いがあって、その釣り合いが一度崩れると一気に関係は壊れていく。
 それを繰り返していけば自然と恋愛をするのが億劫になっていき、そんな相手が存在すること自体が幻なのかもしれないとまで思えてしまう。だからおれは告白を断ることも相手に期待をすることも全て諦めていた。
 そんな時に出会ったのが新山さんだった。
 第一印象も最悪で最初は兄貴と同種と言うだけで毛嫌いしていたしあまり関わりたくないとまで思っていたけれど、そんなおれに対しても諦めずに新山さんは目を向けてくれた。
 それに加え、無謀すぎるほどに何年も前におれとした約束を律儀に覚えていてあの時のおれも今のおれも全部まとめて受け入れてくれた。そんなところが全部好きで苦手だった人付き合いも最近はできるだけ進んで取り組むようにもなった。
 おれをこんなにも変えてくれた新山さんには感謝してもしきれないからその分おれは...おれも新山さんを変えるほどの力はないかもしれないけど、ほんの少しは支えになりたいと思ってる。

 今はおれのそばでゆっくり休んで。
 あわよくば、ずっとずっとおれの隣にいてほしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

流れる星は海に還る

藤間留彦
BL
若頭兄×現組長の実子の弟の血の繋がらない兄弟BL。 組長の命で弟・流星をカタギとして育てた兄・一海。組長が倒れ、跡目争いが勃発。実子の存在が知れ、流星がその渦中に巻き込まれることになり──。 <登場人物> 辻倉一海(つじくらかずみ) 37歳。身長188cm。 若い頃は垂れ目で優しい印象を持たれがちだったため、長年サングラスを掛けている。 組内では硬派で厳しいが、弟の流星には甘々のブラコン。 中村流星(なかむらりゅうせい) 23歳。身長177cm。 ストリートロックファッション、両耳ピアス。育ててくれた兄には甘えん坊だが、兄以外の前では──。 表紙イラストは座頭狂様に描いて頂きました✨ ありがとうございます☺️

【完結】フィクション

犀川稔
BL
変わらない日常送る恋(れん)は高校2年の春、初めての恋愛をする。それはクラスメートであり、クラスのドー軍の存在に値する赤城(あかし)だった。クラスメイトには内緒で付き合った2人だが、だんだんと隠し通すことが難しくなる。そんな時、赤城がある決断をする......。 激重溺愛彼氏×恋愛初心者癒し彼氏 -------------------------------------------------------------- この話のスピンオフストーリーとなります「ノンフィクション」も公開しております。合わせて見てもらえると嬉しいです。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

休憩時間10分の内緒の恋人チャージ(高校生ver)

子犬一 はぁて
BL
俺様攻め×一途受け。学校の休み時間10分の内緒の恋人チャージ方法は、ちゅーとぎゅーの他にも内緒でしています。

処理中です...