20 / 40
聖女と精霊と
しおりを挟む
その頃のマリーナ&その頃のアガタ
※
マリーナは宰相家の娘として生まれ、家族だけではなく周囲からも可愛がられて育った彼女は、ずっと同じ言葉を言われ続けてきた。
「マリーナは絶対、聖女に選ばれるだろう」
「そうしたら、次代の王妃は聖女になる。何て喜ばしい」
基本、聖女は王子の婚約者となり王妃となるが、交代は聖女が死んだ時である。その為、王子と聖女の年齢が合わない場合があり、今の王妃は聖女ではなかった。それで蔑まれることこそないが、より望まれるのはやはり聖女が王妃になることだった。そして国から期待されていたのは、平民のみすぼらしい娘ではなく、貴族令嬢のマリーナが聖女となり、王子ハーヴェイの傍らに立つことだった。
だが、神殿に連れて来られた数日経った今。
渡された杖で多少はマシになったが、精霊達に生命力を吸われて髪も肌も艶が無くなりパサパサしている。コルセットなどをしたり化粧をしていては吐きそうになるので、今では簡素な神官服に袖を通していた。
神官全員で王都までの結界を張り、それを神官達が交代で維持をする。
魔法陣で生命力を搾り取られて、何とか杖を使って這い出たマリーナは思わずにはいられなかった。
(あの娘が来るまでは、これが当たり前だったんでしょう? だったら……今まで王妃になった聖女も、ずっとこうやって結界を維持してきたってことよね?)
十五歳になったばかりのマリーナは、何かあった時の為に神殿の弱みを調査させていたので、聖女や神官達がアガタに仕事を押しつけていることは知っていた。しかし、その理由(精霊の加護を受ける為の酷使)は知らなかった。
けれど、マリーナの家族や周囲は知っていた筈だ。それなのに、彼らはマリーナを聖女にしようとしていたのだろうか――こんな苦行を、笑って押しつけようとしていたのだろうか?
(いえ……いいえ! そんな訳ないわ!? そう! あの出来損ないに押し付けていれば良いと、思っていたのよ……ハーヴェイ様、どうか早くあの娘を連れ戻してきて下さい)
……マリーナも所詮、エアヘル国の貴族だった。
国の暗部を身をもって知ったのに、反省することも疑問を持つこともなく、アガタに苦しみを押しつけることばかり考えていた。
※
獣人の里に結界を張り、メルとランと共にアガタは旅立った。
そして半日空を飛び、ギリギリ夜の閉門の前にアガタはダルニア国に到着した――いや、正確に言うと少し前に着いていたのだが弁当を食べたのと、メルの『準備』の為に少し時間がかかったのだ。
「よう、兄ちゃん。また来たのか……今回は、連れがいるのか? 家族……じゃ、ないよな?」
門番の中年男性が、ランに声をかけてきた。その目が、フードを被っていないアガタ達を見て戸惑う。
外套のフードを被っているが、この門番はランが獣人だと知っていて、しかし悪さをしない上チップを渡しているランのことは黙認してくれているらしい。
そして、獣人が蜂蜜を作っているとバレると厄介なので、ダルニア国ではエアヘル国の農家に、エアヘル国ではダルニア国の農家の使用人だと言っているそうだ。
「ああ、雇い主の遠縁の子達だよ。親を亡くして、働き口を探してるっていうから連れてきた」
「よ、よろしくお願いします!」
「……よろしく、お願いします」
しれっと嘘をつくランの横で、アガタと――アガタより年下に見える、人間の少年に姿を変えたメルが、それぞれ挨拶をした。
※
最後、アガタ達がダルニア国に来た理由と、メルの見た目の年を変更しました。
※
マリーナは宰相家の娘として生まれ、家族だけではなく周囲からも可愛がられて育った彼女は、ずっと同じ言葉を言われ続けてきた。
「マリーナは絶対、聖女に選ばれるだろう」
「そうしたら、次代の王妃は聖女になる。何て喜ばしい」
基本、聖女は王子の婚約者となり王妃となるが、交代は聖女が死んだ時である。その為、王子と聖女の年齢が合わない場合があり、今の王妃は聖女ではなかった。それで蔑まれることこそないが、より望まれるのはやはり聖女が王妃になることだった。そして国から期待されていたのは、平民のみすぼらしい娘ではなく、貴族令嬢のマリーナが聖女となり、王子ハーヴェイの傍らに立つことだった。
だが、神殿に連れて来られた数日経った今。
渡された杖で多少はマシになったが、精霊達に生命力を吸われて髪も肌も艶が無くなりパサパサしている。コルセットなどをしたり化粧をしていては吐きそうになるので、今では簡素な神官服に袖を通していた。
神官全員で王都までの結界を張り、それを神官達が交代で維持をする。
魔法陣で生命力を搾り取られて、何とか杖を使って這い出たマリーナは思わずにはいられなかった。
(あの娘が来るまでは、これが当たり前だったんでしょう? だったら……今まで王妃になった聖女も、ずっとこうやって結界を維持してきたってことよね?)
十五歳になったばかりのマリーナは、何かあった時の為に神殿の弱みを調査させていたので、聖女や神官達がアガタに仕事を押しつけていることは知っていた。しかし、その理由(精霊の加護を受ける為の酷使)は知らなかった。
けれど、マリーナの家族や周囲は知っていた筈だ。それなのに、彼らはマリーナを聖女にしようとしていたのだろうか――こんな苦行を、笑って押しつけようとしていたのだろうか?
(いえ……いいえ! そんな訳ないわ!? そう! あの出来損ないに押し付けていれば良いと、思っていたのよ……ハーヴェイ様、どうか早くあの娘を連れ戻してきて下さい)
……マリーナも所詮、エアヘル国の貴族だった。
国の暗部を身をもって知ったのに、反省することも疑問を持つこともなく、アガタに苦しみを押しつけることばかり考えていた。
※
獣人の里に結界を張り、メルとランと共にアガタは旅立った。
そして半日空を飛び、ギリギリ夜の閉門の前にアガタはダルニア国に到着した――いや、正確に言うと少し前に着いていたのだが弁当を食べたのと、メルの『準備』の為に少し時間がかかったのだ。
「よう、兄ちゃん。また来たのか……今回は、連れがいるのか? 家族……じゃ、ないよな?」
門番の中年男性が、ランに声をかけてきた。その目が、フードを被っていないアガタ達を見て戸惑う。
外套のフードを被っているが、この門番はランが獣人だと知っていて、しかし悪さをしない上チップを渡しているランのことは黙認してくれているらしい。
そして、獣人が蜂蜜を作っているとバレると厄介なので、ダルニア国ではエアヘル国の農家に、エアヘル国ではダルニア国の農家の使用人だと言っているそうだ。
「ああ、雇い主の遠縁の子達だよ。親を亡くして、働き口を探してるっていうから連れてきた」
「よ、よろしくお願いします!」
「……よろしく、お願いします」
しれっと嘘をつくランの横で、アガタと――アガタより年下に見える、人間の少年に姿を変えたメルが、それぞれ挨拶をした。
※
最後、アガタ達がダルニア国に来た理由と、メルの見た目の年を変更しました。
126
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢ですが、副業で聖女始めました
碧井 汐桜香
ファンタジー
前世の小説の世界だと気がついたミリアージュは、小説通りに悪役令嬢として恋のスパイスに生きることに決めた。だって、ヒロインと王子が結ばれれば国は豊かになるし、騎士団長の息子と結ばれても防衛力が向上する。あくまで恋のスパイス役程度で、断罪も特にない。ならば、悪役令嬢として生きずに何として生きる?
そんな中、ヒロインに発現するはずの聖魔法がなかなか発現せず、自分に聖魔法があることに気が付く。魔物から学園を守るため、平民ミリアとして副業で聖女を始めることに。……決して前世からの推し神官ダビエル様に会うためではない。決して。
虐げられた聖女は精霊王国で溺愛される~追放されたら、剣聖と大魔導師がついてきた~
星名柚花
恋愛
聖女となって三年、リーリエは人々のために必死で頑張ってきた。
しかし、力の使い過ぎで《聖紋》を失うなり、用済みとばかりに婚約破棄され、国外追放を言い渡されてしまう。
これで私の人生も終わり…かと思いきや。
「ちょっと待った!!」
剣聖(剣の達人)と大魔導師(魔法の達人)が声を上げた。
え、二人とも国を捨ててついてきてくれるんですか?
国防の要である二人がいなくなったら大変だろうけれど、まあそんなこと追放される身としては知ったことではないわけで。
虐げられた日々はもう終わり!
私は二人と精霊たちとハッピーライフを目指します!
聖女を追放した国が滅びかけ、今さら戻ってこいは遅い
タマ マコト
ファンタジー
聖女リディアは国と民のために全てを捧げてきたのに、王太子ユリウスと伯爵令嬢エリシアの陰謀によって“無能”と断じられ、婚約も地位も奪われる。
さらに追放の夜、護衛に偽装した兵たちに命まで狙われ、雨の森で倒れ込む。
絶望の淵で彼女を救ったのは、隣国ノルディアの騎士団。
暖かな場所に運ばれたリディアは、初めて“聖女ではなく、一人の人間として扱われる優しさ”に触れ、自分がどれほど疲れ、傷ついていたかを思い知る。
そして彼女と祖国の運命は、この瞬間から静かにすれ違い始める。
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
転生してきた令嬢、婚約破棄されたけど、冷酷だった世界が私にだけ優しすぎる話
タマ マコト
ファンタジー
前世の記憶を持って貴族令嬢として生きるセレフィーナは、感情を見せない“冷たい令嬢”として王都で誤解されていた。
王太子クラウスとの婚約も役割として受け入れていたが、舞踏会の夜、正義を掲げたクラウスの婚約破棄宣言によって彼女は一方的に切り捨てられる。
王都のクラウスに対する拍手と聖女マリアへの祝福に包まれる中、何も求めなかった彼女の沈黙が、王都という冷酷な世界の歪みを静かに揺らし始め、追放先の辺境での運命が動き出す。
悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。
潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる