タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま

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その発想はなかった

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前話で、アガタ達がダルニア国に来た口実と、メルの年齢を変更しました。



 メルはグリフォンだが、小さくなると鳥のようにも見える。そして普通、鳥は人間の言葉は話せない。
 その為、今までメルは人前で喋らないよう気をつけていたが――ダルニア国近くに降り立ったところで、ふとランが思いついた。

「鳥も……メルは、その姿以外にはなれないのか? サイズを変えるだけじゃなく」
「何?」
「そのまま喋ると悪目立ちするなら、人に化ければ良いんじゃないかと思ってさ」
「「っ!?」」

 ランの提案に、メルとアガタはハッと息を呑んだ。
 その発想はなかった。流石、前世が女子高生(今はもふもふ男子)。発想が柔軟である。

「……姿は変えられる。そもそも、実体がないからな」
「そうか! それなら…………あ?」
「え?」

 メルの言葉に、ランが喜んだが――次の瞬間、驚きのあまり間の抜けた声を上げた。
 もっとも、驚いたのはアガタも同様である。
 ……二人の目の前に現れたのは白い髪に金色の瞳の、筋骨隆々な三十代半ばくらいの男性だった。

「あのー、メルさん? 何でそんな、ガチムチに?」
「? よく解らんが、アガタ様を守るならこれくらいでないと」
「……あー、そういう発想な? ただ、それだとアガタの『親を亡くして田舎から働きに来た子』の設定が、そもそもおかしくなるから却下」
「何故だ!?」
「逆に、何で聞くんだよ!? こんなガチムチ親父がいたら、周りが怖がってアガタに近付けないだろうが! せっかく、このちんまい見た目で愛されキャラを目指すのに!」
「そんなことを考えていたのか!? アガタ様の可愛さなら楽勝だろうが、そもそも私を恐れる軟弱者が、アガタ様に近付くなど許さんっ」
「面倒臭ぇなっ!?」
「あの……メルも、ランさんも落ち着いて? そもそもメルはグリフォンにもなれるんだから、人の姿が強そうじゃなくても大丈夫じゃない?」

 メルの気持ちは嬉しいし、そもそも言う程可愛がられないと思うが――新天地でやっていくなら、少しでも好感度を上げた方が良い。それならば、ランの提案に従った方が間違いない。
 そう思い、メルに暗にガチムチ親父をやめるよう言ったところ、妙にキラキラと輝く金の瞳に見返された。

「流石、アガタ様……人は、あくまでも仮の姿。それならばむしろ油断を誘う姿になり、悪心を抱く者がいれば叩きのめせば良いのですね!?」
「え、えっと」
「そうそう、アガタの言う通り!」
「フン、それならば仕方ない」

 メルの斜め上の発想にアガタは戸惑ったが、ランはこれ幸いと乗っかり、メルも納得したようだ。
 そうしてメルは今の、十二歳くらいのキラキラ美少年の姿になったのだが――門番はしばしメルを見つめ、同情するようにアガタを見た。

「……いくらお花畑の国でも、確かにこんな綺麗な子を一人では田舎に残すのは心配だよな。姉ちゃん、大変だろうがしっかり守ってやるんだぞ? 何かあったら、俺も力を貸すからな」
「ありがとうございます」

 思った以上の美少年効果に驚きつつも、ありがたいのは事実なので素直にお礼を言う。
 そしてあることに引っかかったアガタは、後でランに聞こうと思った。

(お花畑な国って……エアヘル国は、そんな風に呼ばれてるの?)
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