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しおりを挟むスティーブ&侯爵のレインボー突撃から約1ヶ月、侯爵邸で今後についての話し合いが持たれることとなった。
シンディーが初めて足を踏み入れる本邸は、実家のヒューズ伯爵家よりずっと大きくて豪華な造りだった。
ちょっとした宮殿に興奮したシンディーが
「おっ邪魔しま~す。うわぁ、初めて中に入ったけど立派なお宅ですね~」
本人は気を使って褒めたつもりだったが、侯爵家の面々は微妙な表情をしていた。
応接室に集まったのはヒューズ伯爵夫妻とスティーブ、侯爵夫妻と前侯爵夫人である侯爵の母、そしてシンディーの計7名。
ちなみに侯爵様のお父上は既に故人となっていた。
「こちらが侯爵様のお母様でいらしゃるのね。お初にお目にかかります。シンディーです」
シンディーは明るく、感じよくを心がけて挨拶したつもりだったが前侯爵夫人は居心地悪そうに
「あ、・・・ああ・・・はじめまして。
・・・宜しくね」
と言った。
形式上にすぎないが、一応姑である。
それぞれがソファーに腰を降ろし、メイドが紅茶をサーブし退室するまで誰も一っ言も発せず微動だにしない。
メイドもやりにくそうだ。
張り詰めた空気に耐えられなくなったシンディーはマントルピースに飾られた一枚の絵に目を止めた。
侯爵様の結婚式の様子を写したとても美しい油絵だ。
見目麗しき花婿花嫁が愛を誓い合う姿が写実的に描かれている。
シンディーは思わずその絵に近寄って
「聖キアーラ大聖堂で挙式したんですねっ!!
お二人共お綺麗でステキです!!
私もあそこで挙式するのが夢なんですよ~!!」
シンディーを除く全員の顔が引きつっている。
立ち上がったスティーブがシンディーの腕を引っ張って自分の隣に座らせた。
小声で、お前は少し黙ってろ、という向こう側で侯爵がメイドを呼びつけて青筋を立てて
「片付けとけって言っただろ!」
と件の絵を押し付けている。
シンディーは、これでまたメイドに嫌われちゃうじゃない私、とちょっと気分が沈んだ。
重苦しい空気の中ポツリポツリとそれぞれが語ったことにより、シンディーが知らなかった事実も判明した。
シンディーの産みの母サンドラが略奪したのは、侯爵の母親の姉の夫だったということだ。
ハンナは大切な親友を、前侯爵夫人はたった一人のかけがえのない姉をサンドラによって未だに立ち直れないほど傷つけられたわけだ。
しかもサンドラはそこに至るまでに何人もの男性を籠絡して何組ものカップルを破局させたという。
そしてもう一つ、サンドラはヒューズ伯爵の実妹でもなかった。
現伯爵の父親の再婚相手の連れ子、それがサンドラだったのだ。
つまりヒューズ伯爵はシンディーの伯父さんどころか全く血縁は無いことになる。
シンディーの実母サンドラは義兄である伯爵にまでちょっかいを出したそうで、そのせいでハンナとサンドラは口論が絶えなかったらしい。
幸い伯爵がサンドラを相手にしなかったので二人が破局することはなかったが、ハンナは相当イライラさせられただろうし、挙げ句の果てに全く血の繋がりもない他人のシンディーを押し付けられたのだから、たまったもんじゃないだろう。
これらの事実を前にしたシンディーは、自分の存在そのものに申し訳なさがつのってきて居たたまれなくなった。
「・・・恨まれても当然ですよね。
なるほど私には友達の一人もできないはずです。
そんな女の娘となんか自分の子供を仲良くさせたくないですもの」
『あれ??なんか、皆一層シーンとしてしまったんだけど、どうしよう』
「えっと。お菓子いただいても?」
シンディーには沈黙や深刻な状況に耐えられなくなるという、悪い癖がある。
皆が え?このタイミングでお菓子食べる?みたいな顔をしている。
「・・・どうぞ」
見事な銀線細工の施された見るからに高級なティースタンドに盛り付けられたケーキやサンドイッチはどれもこれも美しくて見るからに美味しそうである。
『せっかくこんなに美味しそうなのに、誰も食べないなんて勿体ないじゃないの』
皿に取ったお菓子をニコニコ顔で食べ始めるシンディーを隣のスティーブが呆れて見ている。
「まあ美味しい!さすがは侯爵家ね。
こんなに美味しいお菓子をいただいたのは初めてですわ」
まんまるの眼を向けられて左隣のアグネスが戸惑っている。
「今日は特別にご用意いただいたのかしら?
それとも侯爵家のティータイムっていつもこんな感じなの?」
するとアグネスがハンカチで顔を覆ってシクシク泣き出してしまった。
『えっ?えっ?なんで?
私?私が泣かせてしまったの?
悪女2世爆誕?!』
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