侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕

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 「うっ・・・うっ・・・・ごめんなさい」

 アグネスは鼻の頭を赤くしてこっちを向いた。

 目には涙が溢れている。



「本当に、・・・・本当に知らなかったの・・・・貴女がこんなに辛い目に遭ってるなんて」


えっ?どうしよう、とシンディーがうろたえていると  
侯爵が怒ったような声で


「アグネスは悪くない!アグネスは何も知らなかったんだ!!
 文句があるなら私を責めれば良いだろう!!」


 即座にスティーブが


「シンディーは誰も責めてないだろう!
そうやってまたシンディー一人を悪者にするつもりか!!」


ソファーから立ち上がりそうな勢いの兄を必死で止めるシンディー。


「あ、・・・えっと、・・・私の言い方が悪かったんです。・・・私はただ、こんな高級なお菓子を食べられて嬉しいって言いたかっただけ・・・で・・・」


するとアグネスが更に大きい声を上げて泣き始める。カオスである。


「ほ・・・ほら、本当に美味しいですから皆さんも頂きましょうよ・・・」


シンディーの提案に全員でモソモソと一言も発さずにお菓子を食す。


 もう、旨いんだか何なんだか味も分からない菓子を無理矢理詰め込んでお茶で流し込む面々。


 沈黙を破ったのはスティーブだった。


「家族の問題から目を背け、長年家に寄りつかなかった私が皆さんを批判する立場にはございませんが、いつまでもこの状況をシンディーに強いるのはあまりに罪が大きいのではありませんか?」


 ハンナがおずおずと


「サンドラへの苛立ちを貴女に向けてしまったわ。サンドラがやったことは貴女とは無関係だって頭では分かってたけど、貴女を見ているとどうしてもサンドラを思い出してしまって・・・・ごめんなさい。」



「・・・・お母様は悪くないです。・・・好かれてないのは悲しかったけど、お母様は決して私を虐めたりしなかったもの」



「・・・ハンナを悪く思わないで。・・・この結婚を持ちかけたのは私なのよ。
・・・・お姉さまをあんな風に苦しめた女の娘なら、ちょっとくらい息子の幸せのために役に立ってくれてもいいじゃないって思ってしまったわ。

・・・・ごめんなさい。」


 と前侯爵夫人。



「あ、あの・・・お気持ちは理解できますから。

 聞けば聞くほど私の実母ってとんでもない人だったんですね?

 自己顕示欲が強くてカップルクラッシャーで近くに居たら間違いなく迷惑な存在ですよ。 

 私がハンナお母様だったら実母のこと大嫌いだったと思うし、実害にあった人達はどうにかして仕返ししてやろうって思って当然ですよ。
 
・・・・その本人がいないとなれば、私が憎悪の対象になってしまうのも仕方の無いことですわ」



「母上たちの気持ちは分からなくもないですよ。

ですが、いくらサンドラが悪女だったとしても父上のように突っぱねれば済むことでしょう?
 
妻がいながらそれを裏切った男は何の責めも受けずに復讐の矛先をシンディーばかりに向けるのは何故なんですか?」


「あ・・・そういえば私の実父って誰なんですか?」







「・・・・チェレステ公爵」

 誰も答えないのでスティーブが答える。

「・・・現国王の弟君おとうとぎみの?・・・ 何て言うか、上昇志向な人だったんですね?・・・サンドラは」


「こんなことがまかり通るのもチェレステ公爵の力あってのことだよな」

 
かつての第四王子を現国王は溺愛している。
 
 
「シンディーのことを揉み消して父上に押しつけ、自分の妻は不妊を気に病んで心を壊したことにしたんだよな。とんだクソ野郎だよ。

 アンタたちは権力者の前では何も言えなかったんだろうけど、本心では公爵を恨んでたんだろう?
 だからチェレステ公爵の血を引くたった一人の子どもシンディーを復讐に使ったんだろう?」


皆一様に項垂れる。



「本意じゃなかったとしても、父上も実子として引き取ったのなら愛情を以て育てるべきだったのでは?

 こんなことなら教会の孤児院にでも入れた方がシンディーも幸せだったんじゃないですかね?」



「・・・・申し訳ない」


さっきまで空気だったヒューズ伯爵がやっと口を開く。


「チェレステ公爵から頼まれてシンディーを引き取ったものの、結局は家に居るハンナに丸投げして私は厄介事から目を背けてきた」


 


シンディーは美味しそうなサンドイッチに手を伸ばす。


  話が予想外すぎてキャパオーバーであった。


 



「あのう、・・・・お茶のお代わりっていただけます?」


「私が行ってきますわ」


アグネスがさっと席を立って部屋を出ていってしまった。



「あ、どうしよう。・・・奥様を顎で使うような真似をしてしまいまして申し訳ありません」


 もう、みんなの顔が紙みたいになっている。

 
スティーブが眉間を押さえながら、何も言うなと睨んでくる。


「何も言うなと言われても、これだけは言わせいただかなければなりませんわ」


一瞬一同に緊張が走る。


「こんな事情のある私を実子として籍にも入れてもらって、なに不自由なく育てていただいたのです。
 
 お父様とお母様には心から感謝しておりますわ。

 本当に今までありがとうございました。

 遺恨のある相手の産んだ子供に優しくできないのは当たり前です。
 
人間は神様じゃありませんから。


 それにサンドラの娘にまともな縁談は来ませんものね。
 


 ここでの生活は暇でしょうがなかったけど、欲しい物は何でも揃えてもらえたし昼寝はし放題、軟禁生活も実質1年足らずであとは好き勝手出歩いていたし、ここ半年近くは そもそも住んでないし、そう悪くはなかったですわ。

  それから、ジェフリー様」  


「ジェレミーだ」



「・・・ジェレミー様のお母様にも辛い思いをさせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいです。
 
 お姉さまにはサンドラに代わって お詫びに伺いたいところですが、私は、その、サンドラに似てるんでしょう?

 そんな私をご覧になったらお姉さまのお心を更に乱してしまうかも知れないので直接の謝罪は遠慮させていただきます。

 でも、本当に心の底からお姉さまのお心が平安になられますようお祈り申し上げます」


 シンディーは思った。
 
 実母は悪女サンドラで、実父は

チェレステ公爵クソ野郎だなんて、なんというサラブレッド・・・。

 
 そこにアグネスが新しいお茶を淹れて戻ってきたので、一同はひとまずお茶をいただくことにした。







    
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