侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕

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 「それで、シンディーはこれからどうしたい?」

「うーん、そうですね。できれば婚姻無効にしていただければ一番いいかな、とは思ってます。
 それでヒューズ家からも除籍してもらって晴れて平民になりたいな、っと」

「確かに事実上婚姻関係は無かったわけだしな。
 離婚となると経歴に傷がつくからな」

シンディーとスティーブ主導で話を進めていると、キャッシュ侯爵がおずおずと口を挟んできた。

「あの・・・その場合・・・
息子の扱いはどうなるのであろう?」

「ああ、・・・アレフ?様・・・でしたっけ?」

「・・・アランだ」

「ああ、書類上は私が産んだことになってるんですよね。
 でも、婚姻関係が無かったってことになると一体誰が産んだんだって話になりますもんね」

 シンディー以外の全員から表情が消え去っていた。

 
そんなことに気づきもしないシンディーは


「このサンドイッチ、どなたも召し上がらないんですかぁ~?

食べちゃいますよぉ~」


「・・・こ、この・・・天真爛漫なカンジ、・・・そっくりだわ」


「や、・・・やめろ、ハンナ」

必死で妻を宥めようとするヒューズ伯爵。


「そうよ、・・・そうやってアッケラカンと素っ頓狂なことを言って、男達を虜にしていったのよ」

 今度は前侯爵夫人がブツブツ言い始める。

 不穏な空気が漂いはじめていることにも気づかずにご機嫌でサンドイッチを頬張るシンディー。


「シンディーはサンドラじゃないって言ってるだろう!!」


 突然スティーブが大きな声を出したのでシンディーはびっくりしたが、状況は全く理解していなかった。



「え?サンドイッチ食べたかったですか?
・・・・私一人で食べちゃって、スミマセン・・・」


「・・・そういうところよ」 

という前侯爵夫人の呟きはシンディーの耳には届かなかった。




  「話を元に戻そうか」

 とスティーブ。

「じゃあ・・・普通に私と離婚してその後アグネス様と再婚っていうのが一番自然なんですかね?
 ・・・あ・・・でも、それだとアラン?様はアグネス様の実子なのに先妻の子って扱いになりますよね。・・・それって納得できます?」



 「・・・・」

 
アグネスは何も言えないでいる。
 俯いた瞳に再び涙が滲んできた。


「それに普通に離婚となるとシンディーは子供まで産んだことにされて完全な傷物になるな」

 スティーブが不満をあらわにする。

「そもそも虚偽の申請をしているんだから罪に問われる可能性も否定できない」

「え?罪?」

 ハンナと前侯爵夫人は顔色を蒼くする。

「悪くすれば禁固刑くらいにはなるんじゃないか?」

 
 そう脅したスティーブだが、この件が罪に問われることの無いことは分かっていた。
 チェレステ公爵が甥であるキャッシュ侯爵の結婚式に出席しているし、彼の後ろには年の離れた弟を溺愛している国王もいる。
  公爵がシンディーに対して一欠片の思いも持っていないとは思いたくもないが、この結婚に異議を唱えることは即ち、当時18年前に自ら放棄しヒューズに擦り付けた罪を認めることになる。
 彼には黙認以外の選択肢は無かったのだろう。
 

 


 
   

 
 
 
 


「牢屋はイヤよ!」

 ハンナと前侯爵夫人は泣きそうになっている。
 
アグネスは既に泣いている。



「ちょっと待ってください」

シンディーが皆を制する。 
 
 
「私達が一番に考えなければならないのはアラン様のことです。

 どうするのがアラン様にとって一番よいことなのかを考えるべきです。

 大人の事情に子供を巻き込んではいけません。

 周囲の大人同士のしがらみを子供のアラン様に負わせるようなことは許されませんわ!」

シーーーーーンと静まり返った部屋の中で、いかにも「私良いこと言ったわ!」
とドヤ顔のシンディーを除く全員が項垂れている中、

「み、・・・耳が痛い・・・・」

というヒューズ伯爵の呻き声が響いた。







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