【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川

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第2話 勇者と冒険者

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「……行ってくる」
「気を付けてね」

 冒険者の装備に身をつつんで、ユリウスと玄関を出て別の道へ向かう。
 ユリウスは今朝も思い悩んでいるような顔をしていて、昨夜の話が原因かな……とスナイデルは思った。けれどひとたび街に出れば、住む世界がちがうのだと思い知ってしまう。

 歩きなれた道を進んでいけば、閑静な貴族街からガヤガヤと賑わう大通りにたどり着く。その一角にある建物の扉をギイッと開くと、爽やかな朝だというのに、男くさい香りがむわりと漂ってきた。
 新しく張り出された依頼文を我先に奪いあったり、装備や作戦の最終確認をしたり、朝食のパンやスープをかきこんだりして、誰も彼もが慌ただしい。早めに出発しないと危険な夜に差しかかるため、死にたくない冒険者は今の時間帯に出発する。
 スナイデルが歩けば視線が集まってきて、さっと逸らされ、次いで声が潜められていく。いつものことだけれど胸が重い。

「テメェッ、昨日の!」

 そこに突然、がらついた声が響いてきて、食事スペースから昨日の山賊まがいの冒険者たちが近づいてきた。しかし側にいた冒険者が機敏に動き、男を取り押さえて小声で険しく注意する。

「おい止めろ! 氷の麗人を知らねえのか……!」
「あぁ!? なんだそりゃ!?」
「六羽の冒険者だ、怒らせたらギルドごと氷漬けだよ!」

 直後に山賊まがいの男の顔がサッと青ざめていき、スナイデルは朝から憂鬱な気分になりつつ掲示板に向かった。たしかにあの男を丸ごと凍らせようとすれば、うっかりそういうこともあるだろう。魔法の制御はこんなありさまなのに、スナイデルは六羽の冒険者だった。
 冒険者にはランクがあり、無羽から始まり、二羽で一人前、四羽で一流、六羽で一騎当千と言われ、最高ランクの八羽はもはや人外扱いで、数えるほどしかいない。ランクの人数はピラミッド状態だ。
 スナイデルは一騎当千だけれど、逆に味方が千人いる中で戦おうとしたら、味方の大多数を戦闘不能にさせてしまうだろう。こんなランク付けでいいのかと常々思っている。

 掲示板に立つと、様々な依頼文が貼り出されている中で、避けられているものがあったのでそれを引き剥がす。デッセンの山でのガーゴイルの群れの討伐だ。
 受付に依頼を受ける旨を伝えると、受付嬢はビクッとしながら「よろしくお願いします……!」と答えた。
 またユリウスに心配されてしまうかもしれないけれど、放置しておけばどんどん繁殖するだろうし、早めに対処したほうがいい。




 転移結晶を握って魔力をこめると、白い光に全身が包まれ、次の瞬間には景色が一転していた。暗い影をはらんだ木々が鬱蒼と広がっている。デッセンの山のふもとに瞬間移動したのだ。ここから先、ガーゴイルのいる谷までは徒歩で移動する。
 木々はねじれたり比喩ではなく踊ったりしていて、太い枝を振り下ろしてスナイデルを押し潰そうとしてくる。体をずらしてよけると、ズドンと地面に打ち付けられ、深く土がえぐれた。さらにほかの枝がつぎつぎと追撃してきて、そのうち避けるのも面倒になり、進路を凍らせながら進んでいく。途中で現れたキマイラも巻き込まれてカチンコチンになった。

 木々を抜けると山を裁断するような谷があり、ガーゴイルたちがギャアギャアと飛び交っている。コウモリのような翼をもち、黒い毛並みで、猿に近い体型をしている。
 数が多く、遠目に見ると黒いモヤが谷にかかっているように見えた。死角になっているけれど、谷の狭間にも嫌になるくらいうじゃうじゃといるのだろう。
 スナイデルは谷に向かって歩きながら、さっそく氷魔法を放った。
 鋭いつららが谷の上空に発生し、雨のように降り注いで、ガーゴイルたちを貫きながら落下していく。谷の底は激流の川だ。つららで死ななくとも水棲の魔物の餌食になるか、一瞬で海まで流されて溺れ死ぬだろう。
 以降はもくもくと作業を繰り返していく。
 しかし予想以上に数が多く、次から次へと無尽蔵に湧いてきて中々終わらない。魔力はまだ余裕があるけれど、集中が途切れれば不意を突かれる可能性がある。頃合いを見て一時退却しようか……と考えていたときだった。

「大丈夫ですか!」

 元気な声が聞こえてきて、スナイデルは横目で確認した。
 黄金の髪が跳ねた、同年代の男である。小綺麗な緑の外套を羽織っていて、騎士にも冒険者にも見えない。ただしこの魔の山を上ってきたということは、その実力は一流以上のはずだ。

「加勢しますね!」

 跳ねた金髪を揺らし、生命力の宿った新緑の瞳で言う。

「ああ」

 何者かは分からないが、腕に覚えがあるようで助かる。
 しかし答えながら近寄ってくる彼から距離を取った。

「悪いが、離れて戦ってくれ。魔法に巻き込んでしまうから……」

 スナイデルの周りは氷が伸びていて、鍾乳洞がひっくり返ったようなありさまだ。もちろん勝手にできたもので、スナイデルにとっては防壁になるけれど、彼は串刺しになるだろう。

「はい、わかりました!」

 困惑されるかと思ったけれど、彼は素直に答えてくれて、少し離れてからガーゴイルたちに両手を突き出している。するとその向こうに炎の龍が現れ、一網打尽に飲み込んでいく。
 スナイデルは「やるな……」と冷静に男の実力を見極めた。一騎当千以上の攻撃魔法である。同時に「誰かと共闘するなんていつぶりだろうか」とほんの少し胸が温かくなった。


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