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第3話 魔族と冒険者
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しおりを挟む身動きできずにいると、魔族の男はゾルグを見ながら鼻にしわを寄せた。
見下すような態度をあらわに口を開く。
「ただの半端者かよ。肩透かしさせやがって――」
その瞬間、ゾルグが「ハッ」と笑って切りかかった。
刃が交わり、魔族の男が嘲笑し、ゾルグもそれに小馬鹿にした笑みを返している。
息を呑んでいると、見張り台から兵の声が響いてきた。
「魔族だ!! 魔族が南門に転移してきたぞ!!」
カンカンカンカン。警鐘が打ち鳴らされる。
スナイデルも体調を持ち直し、回復魔法で治療したあと、氷魔法を放った。
それを魔族の男は氷の盾でふせいだあと、はっとした形相で見つめてきた。
「スナイデル……!?」
切れ長の目をじわじわと見開いている。
スナイデルは困惑した。どうして魔族の男が自分の名前を知っているのだろう。
みるも簡単にゾルグの剣をなぎ払うと、魔族はスナイデルの姿を穴があくほど見つめてくる。
最中に騎士たちが続々と転移してきて、その中にはユリウスやハロルドの姿もある。
しかし魔族の男は彼らに見向きもせず、泣き出しそうな歓声を上げた。
「――やっと見つけた! おまえを探しに来たんだ、スナイデル!」
「……は?」
スナイデルは呆気に取られながら訊き返した。
「させるものか!」
そこにユリウスが取り乱した様子で斬りかかり、洗練された一刀だったけれど、魔族は力づくでなぎ払う。
そしてスナイデルの下へ踏み出そうとし、今度はハロルドが割り入った。
「行かせません!」
すると魔族が「くっ!?」と顔を歪めて呻き声を上げた。ハロルドの握っている剣はジワッと白く光っており、どうやらその光を嫌がっているようだ。後ろへ飛びのいたけれどハロルドが追いかけ、光が強くなって男が苦しそうにする。
「この……!」
そして苦渋の選択をするような顔になったあと、スナイデルに言い放った。
「――必ず迎えに来るからッ!」
その瞬間、魔物の鷹がグアッと鳴いてハロルドに襲いかかった。
ハロルドはすかさず鷹を切り伏せたけれど、その隙をついて魔族は忽然と姿を消してしまう。
後に残され、スナイデルはポカンとしていた。
周囲では騎士たちが動揺と困惑の混ざった顔をしている。
その中で、ひとり懸命に訴えている人がいた。
「待って下さい! 彼は何も知らないんですッ!」
ユリウスが騎士団長に向かって何かを説得している。
けれど、壮年の騎士団長は重々しく首を横に振る。
「おまえたちには事情を聞かせてもらう。いいな?」
彼はユリウスとスナイデルにそう告げた。
街はすっかり破壊されており、建物はところどころ崩れ、火を吹き、道路には魔物や人間の死体が積み上がっている。
「手を出せ」
言われて、何が起きているのかわからないまま差し出すと、魔法を封じる手錠を嵌められる。騎士たちが自分たちに向ける眼差しはだんだん冷淡なものに変わっていて、ざわざわと嫌な予感が渦巻いていた。
「話を聞いてください!」
ユリウスは抵抗していて、騎士たちに取り押さえられている。そして力づくで手錠を嵌められ,
「スナイデル!」と悲痛な顔で叫んでくる。
「ユ、ユリウス……」
スナイデルは状況が理解しきれないながらも、あの魔族の発言が原因だと察した。恐らく、魔族側の人間だと思われたのだろう。世の中には魔族を信仰する異端者もいると聞く。
けれどもそんなのは誤解で、話せばわかってもらえるはずだ。そんなことよりもユリウスの身が心配だった。何か事情を知っているようで、そのことに余計に混乱してしまう。
ユリウスは拘束されても必死で藻掻いていた。
「放してくれ!」
「ユリウスさん、大人しくしてください!」
彼を慕う騎士たちはかなり戸惑っているようだった。
転移結晶を使って、あっという間に彼らの姿がかき消える。不安で泣きそうな気分になっていると、ハロルドが「大丈夫、心配ないですよ。掛け合ってみますから」と耳元でこっそりと元気づけてくれて、何とか取り乱すのをこらえた。
スナイデルも転移し、見回したそこは白いレンガの積まれた一室だった。空気がひんやりしていて、地下のようだ。
ハロルドが一緒に来ていたけれど、「ここから先は立ち入り禁止です。こちらでお待ちください」と足止めされている。不満そうな顔つきになったあと、ハロルドはそちらへ移動した。
直後に「来い」と騎士に連行されて廊下を歩き、奥の一室に移動する。
尋問されるのだと思っていたけれど、扉の先は拷問室だった。
「な……」
鞭や縄、用途不明の金属具がところ狭しと置かれている。
青ざめていると部屋の中へ押し入れられ、台の上に寝かされて、両腕と首だけ固定される。魔法は最初の手錠で封じられていて、抵抗するすべはない。
続いて騎士が三人、入ってきた。縮こまった兵を連れている。
自分をぐるりと囲んで見下ろす騎士たちに、スナイデルは口を開いた。
「ま……待ってくれ……話を……」
息を震わせていると、騎士のひとりが「これからたっぷり聞かせてもらうよ」と答える。さらに兵士に「口外禁止だ」と言って何かを握らせている。騎士たちの股間の布はみな膨らんでおり、今から始まるのは、拷問ですら無いのだと気付いた。
「またとないチャンスだ……」
興奮した息遣いで呟いており、呆然としてしまう。
本来の拷問官か尋問官は、あの兵士なのだろう。
その兵士をすみっこに置いて、騎士たちがスナイデルの服に手をかけていく。
憧れの職業だった騎士が、己の中にあった騎士のイメージが、ガラガラと崩壊していく。
騎士でも色んな者がいるとは知っているけれど、それでもひど過ぎた。
スナイデルの上半身をさらけだすと、騎士たちはほう……と感嘆の息をついた。
「宝飾品すら、不粋だな……」
肌を無遠慮になぞりながら言い、銀のペンダントに手をかけてくる。
スナイデルは体の自由な部分をよじった。
これはユリウスのくれた大事な物なのだ。
「や、やめてくれ! これがないと……魔法が暴走するんだ!」
咄嗟に理由を付けるけれど、騎士は嘲るように笑った。
「安心しろ、魔法はすでに封じている」
そして問答無用でペンダントを取り外される。
そのときだった。突然、頭の中に映像が流れ込んできた。
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