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しおりを挟む自分には到底届かない夢を、垣間見てしまった。あのスープの味は忘れられないと思うけど、こっそりと胸の内にしまっておこう。
そう、密かに決意していたにもかかわらず、帰ってきたのはまたもや予想外の言葉だった。
「忘れなくていい」
「は?」
「魔法なんてかかる前から、俺が好きなのは、お前だ。シュエ」
思わず顔を上げ、ぽかんと口を開けた。グラースは強い視線でシュエを射抜いている。冗談を言っているような雰囲気でもない。
シュエが固まり続けているのをよそに、彼はさらに言葉を紡いだ。
「ずっと俺のものにしたくて、他の男の元へ行かないように閉じ込めてしまいたかった……。惚れ薬は、理性の壁を崩してしまうらしいな」
「えっ。だって、いつも、グラースは……」
「シュエが遊び歩くからだろう。俺はそんなお前が嫌で、どうしようもなく苛ついてた。なにもできない自分に対しても、な」
「ぇ……」
今度はシュエが真っ赤になってたじろぐ番だった。「あ」とか「う」とか言葉にならない声が喉を震わせ、現実を受け止めきれない様を表している。
絶対に嫌われていると思っていたのに、逆だったなんて……そんなことある?
しかも自分こそグラースを疎ましく感じていたはずなのに、どうして胸が高鳴っているのだろう。
ムカつくところばかりだったけど、憎むほどではなかった。騎士らしい人間性は認めていたし、しばらく姿を見ないと「どうしてるかな」なんて考えることさえあった。
思うがままに嫌味をぶつけられるほど、気を許している存在でもあったのだ。
惚れ薬の魔法にかかってしまった彼は、想像の斜め上の行動を見せたものの優しく、大切にシュエを扱ってくれた。心が苦しかったのは、それを本来受け取るべき相手は他にいると知っていたからだ。
だからその相手が自分だったと知らされて、嬉しいと思う気持ちを止められない。シュエは大事に扱われる価値があるのだと、行動で示されたのは初めてだった。
一度は引っ込んだ涙がまた瞳を覆いはじめ、うるうると視界を揺らす。
「あはは、どうしよ。嬉しいなんて……。こんなの、変だよね」
「嬉しいのか? 嫌じゃなくて? それは……変だな。俺の想像と違う」
「ふふっ」
笑った振動で、ぽろりと涙の粒が零れる。グラースがハッと目を見開き、そっと目の下に触れてくる。
指先での触れ方は優しさにあふれていて、ようやくグラースの想いを自覚することができた。惚れ薬がなくても、こんなに優しい。
「嫌だから泣いてるんじゃないのか」
「なんだろ、胸がいっぱいで……。グラース、抱きしめてくれる?」
シュエが小さく微笑むと、グラースはぎこちなく身体を寄せてきた。繊細な宝物のように、優しく背中に腕が回される。
その瞬間、喩えようのない幸福感が体内にあふれかえり、強い光に包まれている心地がした。誰にも愛されることなどないと諦めていたシュエに、降ってきた奇跡。
決して離してしまわないよう、ぎゅうっとグラースに抱きついた。いや、抱きつこうとしたのだが……
ガシャン! と鎖が音を立て、シュエの腕の動きは枷に阻まれた。
「…………」
「っぷ。あははは!」
「すまない」
感動の場面だったのに、そういえば昨晩から手足を拘束されてたままだった。なんて滑稽なんだろう。あまりに可笑しくって、シュエは目尻に水滴を光らせながら爆笑する。
あぐらをかいていた脚は片膝を立て、リラックスした心地でにやにやしながら両手をグラースに向かって差し出した。
「いーい雰囲気だったのに。ふ、ははっ……グラースが変な趣味してるからさぁ。ね、取ってよ」
シュエを見て途端にグラースは慌てだし、「どこにやったかな」と鍵を探してウロウロする。横を向いても耳たぶが赤く染まっているから、恥ずかしいんだろうな。
しかし顔を伏せながらもチラチラとシュエに視線を向け、妙に身体を丸めて手首に触れてきたとき、やっとグラースの変化に気づいた。
「グラースのえっち」
「わっ!」
カシャと鎖の音を立てながら足先で股ぐらをつつくと、グラースは情けなく尻餅をついた。ゆるりと下肢を覆う下履きだが、中心がこんもりと膨らんでいる。
でか……と心のなかで呟きながら、自分もネグリジェの隙間から脚の付け根までが見えそうになっていたことを知った。グラースはこれを見て狼狽えたらしい。
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