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第三章「終幕」
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しおりを挟むミランダの下に『この』知らせが入ったとき、彼女は喜びのあまり神に感謝の言葉を述べた。
興奮のあまり、祖国の言葉が出てしまって、何者にも聞き取られることはない祈りだ。
驚きのあまり、使用人が食器を落として割ったとしても、この日の彼女は怒り暴れたりはしなかった。
「フフフ! ウフフフフ! 今日はいい日だわ!」
まるで年頃の娘のようにはしゃぐ彼女をみて、城に勤める使用人たちは一様に呆けていた。
誰も彼も、彼女が『なぜ』喜んでいるのか知らなかったのだ。
(ああ、ああ! 地底の魔女が、現れたなんて!)
ミランダが魔女の逸話を知ったのは、数えで六歳の頃だった。
行きたくも無い祖母の家に連れて行かれ、暇で暇で仕方なかった彼女が手にしたのはたわいない御伽噺を記した本だ。
この大陸では知らない人のない、ただの昔話。
よくありがちな、この大陸の馴れ初めを謡ったものだ。
星が大地に落ちてきて大きな穴を生んだ、とか。
ニンゲンとモンスターとが共存していた頃、とか。
星は死んで穴の底で大樹となり、そこから魔女が十三人生まれた、とか。
幼いミランダは、しかし、これに夢中になった。
とくに魔女というのが、ミランダの心をつかんで放さなかった。
(全部食べた。食べれる魔女は、全部。あの男はいけ好かなかったけど、組んで正解だった)
物心ついたミランダは、まず祖母を殺した。
それからキレイに祖母を食べると、その家を人知れず我が物にして、そこで『魔術』の訓練を始めた。
十二歳にもなると、魔術の腕はそこそこあがってきて、彼女は十三人の魔女を食べる旅に出た。
もちろん最初はうまくいかなかった。
話にきいていた氷の魔女が、あまりに無慈悲だったからだ。
ミランダはあっという間に捕らえられて、氷像の置物にされるところだった。
──けれど、そうはならなかった。
氷の魔女が側近としておいていた剣士の少年が、彼女を真っ二つに切り裂いたのだ。
(ああ、カイル。元気にしているかしら。別に元気じゃなくてもかまわないけれど、この喜びは分かち合いたいわ)
その少年を仲間に加えて、ミランダは氷の魔女を食べた。
残り十二人。全ての魔女を食べようと、二人は大陸を歩いて、歩いて、歩き回った。
地底の魔女以外は、全部食べることができたのだ。
しかし地底にだけは、下りるすべもなく。
地底の魔女が現れる様子もなく。
ミランダと少年、カイルの旅は、ミランダが王に見初められたことで幕を閉じた。
「おや、ご機嫌ですね。ミス・ミランダ」
「アラン将軍!」
廊下の端から現れた男に、ミランダは駆け寄った。
「アナタには教えてあげるわね、うふふ、とっても面白いことよ!」
男、アランはふっと微笑んだ。
楽しそうに笑う彼女が、とてもほほえましいと思ったのだ。
ミランダは空の向こう、都からも見える『大樹』を指差すと、言った。
「まもなくあそこから、『最後の魔女』がくるのよ! そしたら、私、『完璧』になれるの!」
星になれるのよ! と、ミランダは言った。
対したアランは「そうですか」とうなずきかけて、固まった。
「……魔女、ですか? 最後の……まさか、地底の?」
「ええ!」
聞き返されたミランダは、嬉しそうだった。
「どうやら郊外の町の酒場で男たちが眠らされ、大事な商品たちが全部奪われる事件があったようなの!」
「まさか! そんな話、どこで聞いたのです?」
「もちろんあの田舎町、グランフィードからよ。目が覚めたら商品が全員いないって! その後すぐに隣町のエルカードからも同じ連絡が入ったわ。そうしてさらにその隣町からもね。荷馬車なんかじゃそんなことできっこない。短時間すぎる。けれどね、けれど! 魔女なら可能なのよ! だって空を飛べるんですもの!」
目を輝かせて、ミランダは言った。
アランにはとてもじゃないが信じられないことだった。
「きっとここの酒場にも姿を現すわ! ねえアラン、アナタの部下を今すぐ配置できないかしら!」
「今すぐですか。ええ、可能ですよ」
「本当? そしたら、一芝居うってほしいのよ。私、どうしてもあの魔女が食べたいの!」
まるで子供だ。
父親におもちゃ、あるいはケーキをねだるかのような声だった。
アランは、誇らしげにうなずいた。
彼女に頼られるのは、彼にとって喜ばしいことだった。
「お安い御用ですよ。全酒場に兵士を送りましょう。それに、アナタの指示通りに城の内部にも配置します。私もお供いたしましょう」
「まあ!」
剣の柄に手をかけて、アランはミランダに微笑んだ。
ミランダは感激したように両手を広げて、アランに抱きつくといった。
「さすがはアラン将軍、未来の王様だわ! うふふ、私が星になったら、アナタにとびきりの加護をあげるわね!」
二人はしばし抱き合ったあと、それから廊下で別れた。
ミランダは魔女を捕獲するための魔術を仕掛けに。
アランは、兵舎で休んでいる部下たちに指示を出しにだった。
──魔女が都につく、ほんの少し前の話である。
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