Rise Seek

黒谷

文字の大きさ
7 / 11
第二章「ニンゲンたちの町」

03

しおりを挟む


 やはりというべきか、ルシーダの兄はそこにはいなかった。
 捕らえられていたモンスターたちを解放して、空っぽになった牢を、魔女は視線でなぞる。
(ミランダ。きくところによると、凶暴性にあふれた魔術師。彼女の元で、無事であるといいけれど)
 視線を、都の方に向ける。
 恐らくはこの『噂話』をきいて、彼女も何らかの動きを見せるだろう。
 であれば、都での行動は迅速に行わなければならない。
(彼女はどうあれ、『魔女』をころすことに長けているんだろう。であれば、どんな行動をとるかわかったものじゃないな)
 ルシーダやモンスターたちを、危険にさらすことだけは避けたかった。
 言い換えれば、他はどうだってよかった。
 彼女の目的は、ルシーダのお願いをかなえることだ。
 いまさらニンゲンをどうこうする気には到底なれなかった。
 少なくとも、ルシーダはそれを望まなかったのだから。
 ──『他』の中に、『魔女である自分』も含まれているとルシーダが知れば、きっと怒るだろう。
「魔女さま! 次はいよいよ、都だな!」
 きっとにーちゃんはそこだ!
 ルシーダはふんふんと息巻いた。
「では、急ぐとしよう。夜明けまでもうあまり時間が無い」
「? 夜が明けると、何かあるの?」
「皆で朝日を見たいだろう」
「ナルホド!」
 そういうと、魔女は再びルシーダを連れて杖にまたがった。
 
 都は、夜だというのに明るかった。
 あちこちに火が灯り、店にはいまだニンゲンの出入りがある。
 上空から夜の闇に身を隠しつつ、魔女は酒場の位置を確認した。
「さすがは都。三軒もある」
「すごいな! 今までは、一つの町にあっても二つだったのに!」
「それに、今回は城にも行こう。もしかしたら酒場ではなく、城にいる可能性もあるからね」
「ウン!」
 魔女の声に、ルシーダはいつもどおり元気よく返事をした。
 二人は酒場の物陰にそっと降り立った。
 ルシーダはいつもどおりローブをまとって物陰に隠れると、魔女だけが酒場の中へ入っていった。
(客層は、町よりも金持ちが多いな。兵士らが少ない)
 魔女の白髪頭は、やはり視線を集めた。
 カウンターに向かうまでの間に、彼女はいくつもの視線を感じていた。
「見ない顔だね。行商人かい」
「!」
 不意に、丸いテーブルに腰掛けていた男が魔女の腕を引いた。
 突然のことに魔女は少し目を丸くしていたが、男の手をぱし、と払いのけるとにこやかに微笑んだ。
「行商人の女の腕は、このようにぶしつけにつかんでもよい風土なのかね?」
「はは! こりゃ、失礼した。酒が回ってたんだ、許してくれ」
 男は存外、すぐに謝った。
 両手をあげて、降参のポーズだ。
 魔女は、男をじいと見つめた。
 兵士とも貴族とも農夫ともとれない男の身体つきは、不思議なものだ。
「俺ァ、コレクターでね。この国でモンスターが買えるときいて、あんたみたいに船でやってきた旅人なのさ」
「ほう。で、買えたのかい」
「それがね、都では次の満月からの取引なんだと。郊外の町では先行予約があるとか何とか」
 ひどい話だよ。
 男はそういうと、手にしていた瓶ごと、喉へ突っ込んだ。
「一体丸々も、部品だけも、いろいろだってきいて、とんできたってのに」
 ごにょごにょと愚痴る彼の言葉を、魔女は黙ってきいていた。
 なぜ酒場の地下でモンスターたちが牢屋にいれられていたのか、わかった気がしていた。
 そうして、この都の酒場には、用がないことも。
 ついでに、改めて──この世界の人間が、救いようがないことも。
(大陸を越えてもなお、人々は変わらない)
 遠い海の向こうなら、また違うのかもしれない。
 観測を続けていたある日に、そんなことを思ったりもした。
 いつかこの大海原を越えてきた旅人が、この大地に平穏をもたらすかもしれない。
 そんなことが夢物語だったと、今になって気づかされた。
「で、あんたは何を売りにきたんだい。珍しいものなら何でも買うよ」
「ふむ。めずらしいもの、ねえ」
 魔女はしばし考えるようなそぶりをみせて、それから、大きくため息をついた。
「残念ながら私はキミのお気に召すような商品を持っちゃいないよ。ここにも、酒を飲みにきたわけじゃないんだ」
「へえ、ではなぜここに?」
「いわゆるヒト探しのようなものさ。でもいないようだ、失礼するよ」
 くるりと身を翻して、魔女はきびすを返した。
 床を見つめる。わずかにもモンスターの気配はないようだった。
 どうやらあるのは大量の酒瓶くらいのものか。
(全盛期──いや、母体だったなら、上空からでも気配だけなら探せるのだが)
 ドアに手をかけたまま、魔女はぴたりと固まった。
「……ふふ。さすがは王都。酔ったふりがうまいねえ、君たち」
 背後は振り向かずともわかっていた。
 後頭部に、ぴたりと剣の先がつけられている。
 柄を握っているのは、先の『コレクター』を名乗った男だ。
「都以外の町全部──酒場という酒場が『眠りに落ちる』。あげく大事な大事な商品が全逃げとありゃ、アラン将軍の重い腰だってあがるってもんよ」
「ああ、どこかできいたな。そんな名前」
「おとなしくしろ、魔女。今『魔女殺しの錠』を──」
 男が言い終わらないうちに、魔女は、くるりと振り返った。
 その手には、杖が握られ、クリスタルがきらきらと輝いている。
「ははは! 強い光にご注意だぞ!」
「な!」
 パッとクリスタルに灯った光が弾ける。
 目の前が真っ白になるほどの強い光を受けて、男たちは思わず目を瞑った。
 しかし、それも一瞬のことだ。
 すぐに光は消えうせたので、男はいまだしばしばする目をぎりぎりと開いて剣を振るった。
 ぶおん、と剣が空を斬る。
「いない!」
 当然のことながら、魔女はもういなかった。
 ドアが開いた形跡すらなかった。まるで、最初から幻だったかのようだ。
「探せ、まだ近くにはいるはずだ!」
 男たちは、ドアから飛び出すと都の中へ駆けていった。
 そんな姿を、魔女はルシーダと共に杖にまたがり、上空から見つめていた。
「ま、魔女さま、な、何かあったの?」
「ウン。まず都の酒場にはモンスターはいないそうだ。城に行かなきゃいけないんだが、それもどーにも罠くさい」
 魔女は顔をしかめた。
 一瞬の目くらましで脱出し、ルシーダをつれて出たところまではよかったが、ここからが問題だ。
 警戒されている中を、一人で切り抜けるならいくらでもやりようがあるが……。
(そばまでいけば、城の地下くらいは感知できるだろうから、そこから移動をしてみて……招き入れるのが目的なら、入るのは容易なはずだ。問題は……)
 恐らく、問題は『出る』ことにある。
 あのコレクターを名乗る兵士がわざわざあんな話をしたことには、意味があると魔女は思っていた。
 城には対魔女の『何か』があるのだろう。
 もしきてほしくないのなら、何か違う話を用意するに違いない。
「~~~! 魔女さま!」
「!」
 ぐい、と視界いっぱいにルシーダが入り込んだ。
 頬がぷうと膨れ上がっている。
「お城にいくんだろ? はやくしないと、夜が明けちゃうよ!」
 ルシーダの声に、魔女はハッと空を見た。
 確かに、夜の闇が浅くなっている。
 地平線のあたりなんかは、明るくなってきていた。
(悩んでる暇はないか)
 腹の辺りをさすって、魔女は杖の先を城に向けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...