診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第3章 新たな人材を求めて

53話 3匹のおっさん・閃いた!

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 岩城と川瀬が「話がある」と言う。

なんだろう? ちょっと構えてしまう。

場所はカフェ。病院の連中には聞かれたくないらしい。

約束の6時半に行くと、二人はもう待っていてくれた。

奥の席に陣取る。

岩城「お腹空いたろう? 先に食べようよ。新メニューが出来たらしいんだ。それでいいか?」

「ああ、いいよ。楽しみだ」

岩城「……あのな、俺たち、無事に菜の花に行けることになったんだよ」

「えっ? 本当か?」

川瀬「うん、本当。院長が認めてくれたんだ」

「ええ……? 信じられない。待って、なんで今なんだ? だって時期が早いじゃないか」

岩城「だから俺たちだって驚いたさ。もう直球で聞かれたんだよ。なっ?」

川瀬「そうそう。“二人で行くつもりかどうか、正直に言いなさい”って。

だから俺は“来年3月いっぱいで辞める。研修生は最後まで面倒を見る”って答えたんだ」

岩城「院長が菜の花のHP、2号館の映像を見たんだって。もう全国の医療関係者が目にしたはずだって。

だから行くなら行くで別の人材をすぐ投入しなきゃならない。ぎりぎりで辞められると困る。

それがあそこのリスク管理なんだってさ」

「へえ……さすが院長だな。やっぱりすごい」

川瀬「それでさ、俺たちが行くのは止めないって。

行き先が他なら邪魔するけど、北原のところなら止められない。

“自分も病院も命を懸けて守ってもらったから、今こそ恩返しをする時だ”って」

岩城「“愚痴ひとつこぼさず出て行ったから、寂しい”とも言ってた」

「……マジか。そんなふうに思ってくれていたなんて……知らなかった」

病院を去ったあの日を思い出し、思わず涙がにじみそうになる。

川瀬「それにさ、例のAIの機械。岩城なら触りたいよねって聞かれてたな?」

岩城「ああ。“あれは凄い機械だから、うちが最初にやらないと他の医大に持って行かれる。それはまずい”ってな」

川瀬「浅田社長なら、きっと競わせるはずだ、とも言ってた」

岩城「“起業家はやっぱりすごい。大学病院では適わない”ってね。社長に聞かせてやりたいよな」

ふふふ……「そうだね。社長もきっと驚くと思う」

川瀬「そういうわけでさ、俺たちの杞憂はあっけなく解消したわけだ」

岩城「ほんと助かった。どれだけ揉めるかと……めちゃくちゃ憂鬱だったんだ」

川瀬「そうそう。気が重くて、いやな想像ばかりしてた」

「……ありがとう。本当にうれしいよ。これで一緒に仕事ができるんだな」

岩城「そうそう。ところで“菜の花シンドローム”って知ってるか?」

「いや、初めて聞いた」

川瀬「菜の花ってさ、次から次にいいものを出してくるだろ?

だから誰でも行きたくなる。それを“菜の花シンドローム”って言うんだって。

他の病院関係者も“スタッフが一斉に辞めるんじゃないか”って、戦々恐々なんだと。院長が言ってた」

「なるほど……。それで一つ閃いたよ」

「なんだよ?」 二人が声を揃える。

「つまりさ、最後の時に一斉に辞めるとなると、辞めさせてもらえない可能性があるだろ?

だからこそ、早く獲得しておかないとうちには人材が回ってこない。

――だから方針を変える。人件費はかかるけど、面接したそばからどんどん採用していくことにした」

あははは! 二人が笑い出す。

岩城「さすが菜の花! そうやって勝ち抜いてきたんだな。北原も社長に負けないよな!」

川瀬「まったくだ。“生き馬の目を抜く”ってこういうことだな。俺たちももっと鋭くならないと」

「へへへ……そうかな? それより料理がすっかり冷めちゃった。悪いことしたな」

岩城「いいよいいよ。俺が温めてくる。任せとけ!」

そこへ中村がやって来た。

中村「随分話が長かったねえ。タイミング見てたんだけどさ。温め直すからちょっと待ってて」

「ごめん、二度手間かけちゃって」

中村「いいって。……二人とも菜の花に行くんだろ? すぐ分かったよ。

俺も2号館の映像見たけど、すげえなあ。高級ホテルみたいだ。誰だって行きたくなるよ」

岩城「それを世間では“菜の花シンドローム”って言うらしいぞ」

中村「へえ~、うまいこと言うね」

その後、新メニューをおいしくいただいた。

フランスの田舎料理、心温まる煮込みだった。

――今度は莉子を連れて来よう。


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