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第3章 新たな人材を求めて
52話 菜の花シンドローム・岩城サイド
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今日は仕事終わりに、大学病院の院長室へ来るよう呼ばれた。
院長室の前で川瀬とばったり出くわす。
「えっ? お前もか?」
「うん、そっちも?」
ふう……いや~な予感。二人とも気が重い。
病院長「どうぞ。そこにいるんだろう? 入ってきなさい」
中から声がして、仕方なく扉を開けた。
「失礼します」
院長「いいよ、そこに掛けて」
院長「……あのね、言いにくいだろうから、こちらから話すよ。
北原君の病院のHPを見たよ。多分もう全国の関係者が目にしたと思う。
それでね、率直に聞きたいんだけど――もしかして、二人とも菜の花に行くつもりなの?」
岩城「えっ?」
院長「ちゃんと答えなさい。こっちにも都合があるから。反対しているわけじゃない」
岩城「……反対していないって、どういう意味でしょうか?」
院長「君たちは北原君と同期で、とても仲が良かっただろう?
だから、当然向こうに行くんじゃないかと思ったんだ。
行くなら行くで、こっちも人材補充を考えなきゃならない。
ぎりぎりで“辞めます”と言われても困るだろう?
だから今のうちに聞いておく。それがうちのリスク管理なんだよ」
川瀬「……実は僕は、来年3月いっぱいで辞めて、離婚を機に菜の花へ行こうと思っています。
研修生がいますので、年末に伝えるつもりでした。それまでは最後まで面倒を見ようと思っています」
岩城「僕も、どうしても行きたいです。あのホームページに出ていた、世界最新のAI手術機械……どうしても最初に扱う人間になりたいんです。
そして自分が使いこなせるようになったら、同僚や後輩にも教えていきたいと思っています。
やりかけの研究は続けます。大学の名前で発表していただいて構いません。
それで、建物の引き渡しの時には、もう菜の花の人間でありたいと考えています」
院長「ふう……そうか。そうだよね。岩城君なら、絶対触ってみたいよね。
あれ、まだ世に出てない最新アイデアが詰まっている機械らしいじゃない?」
岩城「はい。国産ですが、海外製をはるかに凌駕する性能らしいです」
院長「へえ……そうなんだ。うちが初めて使わなければ、他の医大が黙っていないだろうな。
それに――浅田社長が、うちだけに任せるなんて考えられない。きっと競わせるつもりなんだろう」
「えっ?」二人で顔を見合わせる。
院長「まあ、他の病院に行くなら絶対に邪魔するけどね、ははっ。
でも北原君には、私も病院も命を助けられた。
――あの時、私をかばって撃たれたろう? 今度こそ恩返しをする時だと思う。
だから、二人が菜の花に行くのは仕方ない。北原君のところならしょうがないよ。
ただ……行っても、今後こちらから協力をお願いすることがあると思う。その点はいいかな?」
岩城「はい。もちろんです。出来る限り協力します。北原もそう言っていました」
院長「そうか。本当にいい人だよね、北原君は。愚痴一つこぼさず出て行ったけど……私は寂しいよ」
また、二人で顔を見合わせる。
院長「――ところで、“菜の花シンドローム”って言葉を知ってる?」
「はっ?」思わず声を揃えた。
院長「菜の花ってさ、次々に“これでもか”って良いものを見せてくるだろう?
だから誰でも行きたくなるんだよ。
今回は向こうも大規模に人材を募集しているから、あちこちの病院が菜の花シンドロームで戦々恐々としている。
“同じ時期に一斉に辞められるんじゃないか”ってね。うちもそうなんだけどさ……ふっ」
院長「まさか、こんなことになるとはね。
やはり起業家の発想はすごいよ。
大学病院じゃとても敵わない。
……じゃあ、そういうことでいいかな?
岩城君のところにはすぐ後任を投入する。
しっかり引き継いでやってくれ。
川瀬君のところも同じだ。
二人とも、菜の花へ行ったら元気でな。
時々は後輩の面倒も見てやってほしい。頼むよ」
「はい。本当に、心から感謝申し上げます」
二人で深く頭を下げた。
部屋を出ると――
「なんだか……涙が出るな」
川瀬がもう目を潤ませていた。
「ふっ、なんだよ。お前もか? なんでだろうな」
「岩城だって泣いてるじゃないか」
「そうだよ。理由は分からないけど……勝手に出てくるんだ。この話は北原に伝えないと駄目だな」
「そうだな。きっと喜んでくれるよ」
院長室の前で川瀬とばったり出くわす。
「えっ? お前もか?」
「うん、そっちも?」
ふう……いや~な予感。二人とも気が重い。
病院長「どうぞ。そこにいるんだろう? 入ってきなさい」
中から声がして、仕方なく扉を開けた。
「失礼します」
院長「いいよ、そこに掛けて」
院長「……あのね、言いにくいだろうから、こちらから話すよ。
北原君の病院のHPを見たよ。多分もう全国の関係者が目にしたと思う。
それでね、率直に聞きたいんだけど――もしかして、二人とも菜の花に行くつもりなの?」
岩城「えっ?」
院長「ちゃんと答えなさい。こっちにも都合があるから。反対しているわけじゃない」
岩城「……反対していないって、どういう意味でしょうか?」
院長「君たちは北原君と同期で、とても仲が良かっただろう?
だから、当然向こうに行くんじゃないかと思ったんだ。
行くなら行くで、こっちも人材補充を考えなきゃならない。
ぎりぎりで“辞めます”と言われても困るだろう?
だから今のうちに聞いておく。それがうちのリスク管理なんだよ」
川瀬「……実は僕は、来年3月いっぱいで辞めて、離婚を機に菜の花へ行こうと思っています。
研修生がいますので、年末に伝えるつもりでした。それまでは最後まで面倒を見ようと思っています」
岩城「僕も、どうしても行きたいです。あのホームページに出ていた、世界最新のAI手術機械……どうしても最初に扱う人間になりたいんです。
そして自分が使いこなせるようになったら、同僚や後輩にも教えていきたいと思っています。
やりかけの研究は続けます。大学の名前で発表していただいて構いません。
それで、建物の引き渡しの時には、もう菜の花の人間でありたいと考えています」
院長「ふう……そうか。そうだよね。岩城君なら、絶対触ってみたいよね。
あれ、まだ世に出てない最新アイデアが詰まっている機械らしいじゃない?」
岩城「はい。国産ですが、海外製をはるかに凌駕する性能らしいです」
院長「へえ……そうなんだ。うちが初めて使わなければ、他の医大が黙っていないだろうな。
それに――浅田社長が、うちだけに任せるなんて考えられない。きっと競わせるつもりなんだろう」
「えっ?」二人で顔を見合わせる。
院長「まあ、他の病院に行くなら絶対に邪魔するけどね、ははっ。
でも北原君には、私も病院も命を助けられた。
――あの時、私をかばって撃たれたろう? 今度こそ恩返しをする時だと思う。
だから、二人が菜の花に行くのは仕方ない。北原君のところならしょうがないよ。
ただ……行っても、今後こちらから協力をお願いすることがあると思う。その点はいいかな?」
岩城「はい。もちろんです。出来る限り協力します。北原もそう言っていました」
院長「そうか。本当にいい人だよね、北原君は。愚痴一つこぼさず出て行ったけど……私は寂しいよ」
また、二人で顔を見合わせる。
院長「――ところで、“菜の花シンドローム”って言葉を知ってる?」
「はっ?」思わず声を揃えた。
院長「菜の花ってさ、次々に“これでもか”って良いものを見せてくるだろう?
だから誰でも行きたくなるんだよ。
今回は向こうも大規模に人材を募集しているから、あちこちの病院が菜の花シンドロームで戦々恐々としている。
“同じ時期に一斉に辞められるんじゃないか”ってね。うちもそうなんだけどさ……ふっ」
院長「まさか、こんなことになるとはね。
やはり起業家の発想はすごいよ。
大学病院じゃとても敵わない。
……じゃあ、そういうことでいいかな?
岩城君のところにはすぐ後任を投入する。
しっかり引き継いでやってくれ。
川瀬君のところも同じだ。
二人とも、菜の花へ行ったら元気でな。
時々は後輩の面倒も見てやってほしい。頼むよ」
「はい。本当に、心から感謝申し上げます」
二人で深く頭を下げた。
部屋を出ると――
「なんだか……涙が出るな」
川瀬がもう目を潤ませていた。
「ふっ、なんだよ。お前もか? なんでだろうな」
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