診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

文字の大きさ
58 / 357
第3章 新たな人材を求めて

56話 ドライバー密着!三枝君の珍道中

しおりを挟む
 今日は広報担当の三枝君(1階総合案内のイケメンくん)が、ドライバーに一日密着してくれた。

皆でパソコンの動画を視聴した。

長身でハーフ、多言語も話せる才人だが――取材初体験、少しばかり緊張気味。

「えっと……俺、ちゃんと撮れてますかね?」

カメラを構える手がややぎこちない。

それもまたご婦人方には新鮮に映るのか、笑顔が飛んでくる。

朝の便

「おはようございまーす!」

ドライバーの元気な声で、一日が始まる。

整形外科や外科のリハビリ患者さんたちが次々と乗り込んでいく。

膝に包帯を巻いた人、杖をついた人、術後リハビリに励む人――皆が口々に言う。

「これがないと通えないのよ。ありがたいわねえ」

病院に着くと、ステップで足元を支えるのは山野チーフ。

三枝君も慌てて手を差し伸べ、「あ、どうぞ! こちら気をつけて!」とぎこちなく声をかける。

ご婦人たちは「わー、イケメンさんだ!」とすっかり上機嫌。

カメラを持つ手より、差し伸べた手の方が人気だった。

柔軟な運用

本来は“決まったルート”があるはずだが――。
「体調が悪い日は電話一本で迎えに来てくれるの」
患者さんの笑顔に、三枝君は驚いてカメラを引いた。

ドライバーは胸を張る。

「院長が“困っている人は乗せて差し上げなさい”って言ってるんです」

三枝「ああ~そうなんですね。患者さんは助かりますよね」

三枝君が驚いている。小声で「コースを回り切れるのかなあ?」

帰り道のドラマ

リハビリ帰りはスーパーで途中下車する人が続出。

両手に買い物袋を抱えた人は、次の便がスーパーに来た時にまた乗る。

「袋が重くて大変だろうに……でも生活があるから仕方ないね」

院長の黙認で、この“スーパー寄り道”はすっかり日常風景になっている。

三枝君は、袋を抱えてステップを上がる患者さんを見て、「す、すみません、俺も持ちます!」と慌ててカメラを患者に預け、袋を両腕に抱え込んでいた。

その必死な姿に、患者さんも大笑い。

思わぬ同乗者

「今日は3匹かな」
「先週は5匹もいたよ」

――犬! 三枝君は犬が苦手らしい。

患者さんがペットを連れてくるのも、もはや名物だ。
しかも今日は2匹を三枝君が抱えて同乗。

「えっ……わ、わんこ……? ちょっと待ってください、暴れないで!」

もうカメラは患者さんが構えている。

ご婦人たちは「きゃー似合う~!」と大喜び。

三枝君は犬に顔をなめられ、必死で笑顔を保っていた。

病院前に着くと、山野チーフが颯爽とリードを引き取り、
「俺、犬の保安員だなあ」と苦笑。
その横で三枝君はぐったり座り込み、犬の毛だらけになっていた。

その様子を撮影していたのも患者さん。

夕暮れの便

夕方の最後のバス。
車内では疲れた顔の患者さんも多いが、声は明るい。

「今日は歩行距離が伸びたの」
「先生に褒められたわ」

ドライバーはバックミラー越しに、静かにうなずく。
その姿をレンズ越しに追いながら、三枝君はぽつりとつぶやいた。

「……これ、ただの送迎じゃないですね。生活そのものを支えてる……」

エンディング

画面に映し出されたテロップ。

「送迎バスは菜の花のもうひとつの居場所。
今日も犬と人とスーパーの袋を乗せて走り続ける」

映像はここで終わった。

「……どうですか、院長」

取材後、少し照れた顔で三枝君がかしこまっていた。

「うん、いいじゃないか。三枝君が一番頑張ってたな」

俺が笑うと、三枝君は耳まで赤くして「え、ぼ、僕ですか!?」と慌てた。

――どうやら今日は“患者さんより自分が密着されていた”ような一日だったらしい。

患者さんに撮影されまくってたもんな。ふっ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

網代さんを怒らせたい

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」 彼がなにを言っているのかわからなかった。 たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。 しかし彼曰く、これは練習なのらしい。 それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。 それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。 それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。 和倉千代子(わくらちよこ) 23 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 デザイナー 黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟 ただし、そう呼ぶのは網代のみ なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている 仕事も頑張る努力家 × 網代立生(あじろたつき) 28 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 営業兼事務 背が高く、一見優しげ しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く 人の好き嫌いが激しい 常識の通じないヤツが大嫌い 恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

芙月みひろ
恋愛
保険会社の事務職として勤務する 早瀬佳奈26才。 友達に頼み込まれて行った飲み会で 腹立たしいほど無愛想な高原宗輔30才と出会う。 あまりの不愉快さに 二度と会いたくないと思っていたにも関わらず 再び仕事で顔を合わせることになる。 上司のパワハラめいた嫌がらせに悩まされていた中 ふと見せる彼の優しい一面に触れて 佳奈は次第に高原に心を傾け出す。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...