診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

文字の大きさ
60 / 357
第3章 新たな人材を求めて

58話 寮母の朝ごはん、夜のサプライズ

しおりを挟む
今回の密着取材は――サテライト専任の看護主任にして、寮の母でもある西村佳代さん。

 取材者は寮生の吉岡誠君。

朝の風景

 まだ外が薄暗い午前6時。

 寮のダイニングに入ると、ふわっと漂う出汁の香りに包まれる。

「おはようございます。今日は鮭の塩焼きとお味噌汁、それから玉子焼きですよ」

 笑顔で迎えてくれる佳代さんの声に、眠そうな寮生たちも思わず背筋を伸ばす。

 取材者はあまり言葉を挟まず、ひたすら“寮母さん”の動きを追う。

吉岡「毎日おいしい朝食をありがとうございます。ねっ! 皆うまいよね!」

 呼びかけに、寮生たちが一斉に「おー!」と手をあげる。
 
微笑ましいほどの一体感だ。

 カメラは西村さんの顔をアップに。

「仕事の前に温かいご飯を食べてもらいたいんです。食卓が明るいと、一日のスタートも違うでしょう?」

 鮮やかな手さばきで味噌汁をよそう姿は、もう“寮母”というより“母親”そのもの。

 そこで吉岡君が「じゃあ、今度は僕がいただきます」と言って箸をとる。

撮影は別のスタッフらしい。

おかず一品一品が大写しになり、湯気まで美味しさを語っている。

吉岡「僕はここの味噌汁が、ものすごーくうまくて大好きなんですよ!」

 夢中でパクパク食べる姿に、自然と笑みがこぼれる。

吉岡「実は僕、この前の引っ越しの日に、寮母さんが温かいおそばを作ってくれて、本当に泣けたんですよ」

 その言葉に西村さんが照れ笑い。

「お昼にはね、みんな疲れているから軽くて温かいものを、と思って。大鍋で“引っ越しそば”を用意したんですよ」

 香り立つおつゆと立ちのぼる湯気――あの一杯は、寮生にとって新生活の記念日そのものだったんだな。

「忘れられない!」と口をそろえる寮生たち。

吉岡「寮母さんは料理上手で気配りも抜群なんですよ。しかもサテライト専任の看護主任だから、仕事でもお世話になっています」

 そこで再びアップ。

「ナースの仕事も任されていますが、寮母としての役割も手放したくなくて。朝ごはんを作る時間は、私自身の楽しみなんです」

 にっこりと微笑むその姿には、ベテラン看護師の頼もしさと家庭的な温かさが同居していた。

夜の風景

 20時。サテライトの診療終了にあわせて、共有リビングに次々と寮生たちが帰ってくる。

 カメラはその日常を淡々と追う。

寮母「“お帰りなさい”って言いたいんですよね。みんな菜の花弁当はあるんだけど、やっぱり汁物を出したいんです。ほっとするでしょう?」

 温かな汁物をよそい、一人ひとりに手渡していく。湯気がまた、心をほどく。

吉岡「ではここで、寮生の秘密を暴露ーっ!!」

 寮生たちがパチパチと拍手。なんだなんだ?

・上間先生「今日の目玉をください!」
・青山先生「今日のおまけをください!」
・佐藤君 「今日のサプライズは何ですか?」

 ……どういうこと?(笑)

吉岡「実はですね。寮母さんがいつも残りのご飯をおにぎりにして冷凍してくれてるんです。それは“黄色のかご”に入っていて、欲しい人が自由に食べていいんです」

上間「“今日の目玉”っていうのは、冷蔵庫の黄色のかごに札が下がってて、中にちょっと豪華なおかずが入ってるんです。早い者勝ちなんですよ」

青山「“今日のおまけ”はお漬物とか佃煮とか梅干しとか。小さいけどありがたいんです。これも自由にどうぞ、って」

佐藤「“今日のサプライズ”は果物とかお菓子とか、たまにいただきものが入ってるんです。ない時もあるけど、あるとすごくうれしいんですよ」

 へえ~、そんな仕掛けがあったのか。

 なるほど、西村さんは寮生の心も胃袋も、しっかりつかんでいる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

網代さんを怒らせたい

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」 彼がなにを言っているのかわからなかった。 たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。 しかし彼曰く、これは練習なのらしい。 それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。 それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。 それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。 和倉千代子(わくらちよこ) 23 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 デザイナー 黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟 ただし、そう呼ぶのは網代のみ なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている 仕事も頑張る努力家 × 網代立生(あじろたつき) 28 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 営業兼事務 背が高く、一見優しげ しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く 人の好き嫌いが激しい 常識の通じないヤツが大嫌い 恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

芙月みひろ
恋愛
保険会社の事務職として勤務する 早瀬佳奈26才。 友達に頼み込まれて行った飲み会で 腹立たしいほど無愛想な高原宗輔30才と出会う。 あまりの不愉快さに 二度と会いたくないと思っていたにも関わらず 再び仕事で顔を合わせることになる。 上司のパワハラめいた嫌がらせに悩まされていた中 ふと見せる彼の優しい一面に触れて 佳奈は次第に高原に心を傾け出す。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...