診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

文字の大きさ
61 / 357
第3章 新たな人材を求めて

59話 寮母シンドローム

しおりを挟む
 昨日の寮母さんの密着取材をHPに出したところ、大変な反響があった。

理事「院長、どうします? もう皆“羨ましすぎる!ずる~い!”の大合唱ですよ」

桐生「ははは、良すぎるのも大変ですねえ。でも僕も本当にうらやましいと思いましたよ。主任って、素晴らしい方なんですね」

 俺もへらへら笑っていた。

「そんなこと言ったってしょうがないよ。勝手にやってくれてるんだから。

いいさ、ほっとけ。……それより“寮を作れ”の大合唱になるかもしれないよ。覚悟しておいた方がいい」

理事「だって……それは……内緒だもん……」

「もうバレてるよ。でも寮を作ったところでさ、西村さんが二人いるわけじゃない。
そこ、みんな分かってるのかなあ?
それに、夜まで汁物を作ってくれてるんだったら、もっと予算を増やしてあげた方がいいんじゃないの?
皆、遅くまで働いてるんだからさ」

理事「はい、分かりました。みんなそんなにサプライズが好きなら、うちからもっと持ってきますよ。貰い物がいっぱいありますから」

「そうそう、その気遣いがね、理事の良いところなんだよ」

理事「あまり褒められた気がしない……」

 桐生さんがくすくす笑っていた。

 そして夜。川瀬から突然電話がかかってきた。

「おい、HP見たぞ! なんだよ、あれ? 俺はもう決めた。明日、そっちの寮に引っ越すわ。離婚もできたしな」

「ええ? だって大学病院はどうするんだよ?」

「だからさ、そっちで寝泊まりして、おいしい朝食を食べて、7時半に出れば車で間に合うんだよ!

なんで今まで気が付かなかったのかなあ? 俺って馬鹿だよな?

でな、大学は続けないと仕方ないから、宿代代わりに水曜日は休みを取って、サテを手伝うよ。

その分の給料はいらない。御礼だ。

ただ、毎回休めるかは分からないけど、半日でも手伝うからさ。

外科は得意分野だから任せとけ。速見先生もいるんだろ?

じゃあ、西村主任に伝えてくれよな。あと寮生にも。“一人増えました!”って言っといてくれ。

明日行くからさ。頼んだぞ!」

 ……言いたいことだけ言って、電話は一方的に切れた。

「アハハハ! そっちもかよ」思わず笑った。

夏「なになに? なんか面白いことあったの? 早く聞かせてよ」

「あのなあ……どうも“寮母シンドローム”が始まったらしい。手ごわいぞ」

夏「えっ? どういうこと?」

「川瀬が明日引っ越して来るんだって。それも夜に。5階の個室に。
で、そこから大学病院に通うそうだ。
寮で朝ごはんを食べたいらしい。……完全にあの密着取材にやられたな」

夏「ええ? どうすればいいの? アルバイトにすればいいの?」

「さあな。一応1か月様子を見たら?

もしコンスタントに水曜日に来てくれるなら、アルバイト扱いにしないとダメだよ。
本人は“タダでいい”って言ってるけど、それじゃあ何かあった時に困るんだ。
だから、ちゃんと非常勤なりアルバイトなりの形にしておかないと、双方のためにならない」


「明日、桐生さんに頼んで至急IDカードを作ってもらって、非常勤扱いにしておいてくれる?
決まった曜日や時間じゃなくても、空いてる時間に手伝ってくれると思うから。
産婦人科医は立派な外科医でもあるしね」

理事「うん、そうだね。その方が安心だよね。じゃあ掲示板には明日の朝に流せばいいかな?」

「うん。それから休憩室の掲示板にも“採用通知”をちゃんと出しておいてね」

理事「はい、分かりました」

「で、寮費はいくら増やすつもり?」

理事「ええ……分からないけど、5万くらい?」

「けっちだなあ! たった5万か? 川瀬を入れて14人もいるんだぞ。
汁物やサプライズでやる気を出して、ここに居ついてくれるなら安いもんだろ。最低でも10万は上乗せだよ」

理事「はい、わかりました」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

網代さんを怒らせたい

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」 彼がなにを言っているのかわからなかった。 たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。 しかし彼曰く、これは練習なのらしい。 それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。 それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。 それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。 和倉千代子(わくらちよこ) 23 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 デザイナー 黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟 ただし、そう呼ぶのは網代のみ なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている 仕事も頑張る努力家 × 網代立生(あじろたつき) 28 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 営業兼事務 背が高く、一見優しげ しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く 人の好き嫌いが激しい 常識の通じないヤツが大嫌い 恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

芙月みひろ
恋愛
保険会社の事務職として勤務する 早瀬佳奈26才。 友達に頼み込まれて行った飲み会で 腹立たしいほど無愛想な高原宗輔30才と出会う。 あまりの不愉快さに 二度と会いたくないと思っていたにも関わらず 再び仕事で顔を合わせることになる。 上司のパワハラめいた嫌がらせに悩まされていた中 ふと見せる彼の優しい一面に触れて 佳奈は次第に高原に心を傾け出す。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...