診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第4章 菜の花、未来を味わう

60話 寮母シンドローム・カムバック願望

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 今夜はいよいよ川瀬が引っ越して来るそうだ。
 
5階の個室を覗いてみたが、収納が少ない。ただの病室だから仕方ない。

どこからか引き出しでも探してこないといけないかな?

でも川瀬が何か持ってくるかもな……ちょっと様子を見ようか__。

 そう思いながら、速見先生と佐久間先生にも事情を伝えた。

 すると速見先生が大笑い。

速見「それ、あれでしょう? 例のアレにやられたんでしょう?」

「ああ~ここもですか……分かります?」

速見「分かりますとも! 僕は大歓迎ですよ。まさかもう川瀬君が来るなんてね。

まだ産婦人科も出来てないのに、面白すぎますよ。菜の花って本当に……」

佐久間「全くですよ。なんておもしろいところなんでしょうねえ。

飽きませんよ。アハハハ! とにかく外科の相棒が出来た。嬉しいですね」

速見「そうそう。寮に入って朝ごはん食べるなら、こき使ってやりますよ!」

 二人してアハハハ!と大笑い。……川瀬も前途多難だな。


 その日の夕方、もっと驚く出来事があった。
 
院長室に三輪さんと友井さんが、ひょっこり顔を出したのだ。

「え? 久しぶりですね。一体どうしたの? 菜の花フーズの仕事は終わったの?」

 なぜだか二人とも、顔を見合わせてはもじもじしている。

「大事な用で来たんでしょう? いいよ、話してみて」

三輪「あの……私たち、お願いがあって来たんです。昨日の寮母さんの取材を見たら、菜の花にいた頃を思い出してしまって。ねっ!」

 友井さんもうんうんと頷く。

三輪「それで、また菜の花に戻りたいんです。ホームページで見たんですけど、2号館の11階にカフェが出来るでしょう? あそこを二人に任せてもらえないかなと思って」

友井「二人なら交互に入れ替わっても十分回せます。あと一人サブで手伝いがあれば、料理は私たちでやりますから。きっと皆においしいものを食べてもらえると思うんです」

「それは間違いなく美味しいだろうけど……でもフーズの人が手放してくれるの? 今は大活躍中じゃない?」

三輪「あーまあ~そうなんですけど、今は若い上手な人がいっぱい増えたので、私たちがいなくても大丈夫だと思うんです。

だから社長にお話ししていただけませんか?」

友井「私たちも上の人にお願いしたんですけど、全然聞いてもらえなくて。

ダメの一点張りなんです。でももう気持ちは菜の花に来ちゃってて、困ってるんです」

 ウプッ……思わず吹き出した。アハハハ! 笑える、ほんと笑える。

「分かった、話はよく分かりました。

ちゃんと社長に話してみますから安心してください。

話がまとまったら連絡します。それまでは元気でいてくださいね。

2号館が出来るのはまだ一年以上先なんだから」

「はい! ありがとうございます! 失礼します!」

 二人とも喜んで、いそいそと帰って行った。

 はあ……どうしたものか。

 でもこれで2号館の寮生たちは、美味しいものにありつけるわけだ。

「また“ずる~い”の大合唱になるぞ。プッ、俺は知らない」

 とはいえ、菜の花フーズだって、彼女たちの料理の腕があったからこそ成り立ったようなもの。

 浅田工業が食品部門に進出できたのも、菜の花弁当が生まれたのも、あの二人のおかげだ。

 そりゃあ手放したくないだろう。分かる。

 でも、だからこそ――そんな立役者の望みは、聞いてやらないとな。


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