診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第9章 内定した方の為に

171話 カフェにて・岩城外科医と8人

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 ランチはとても美味しく、みんなもすっかり満足そうだった。

食後には、香り高いコーヒーとデザートが運ばれてくる。

「わあ~、これ何だろう?」と真理さんが目を輝かせる。

院長「たぶんカッサータじゃない? 北イタリアのお菓子だよ。莉子も前に作ってたよね。リコッタチーズにドライフルーツとかクルミを混ぜるやつ」

莉子に聞くと、うれしそうに笑った。
「そうそう。意外と簡単にできるのに、すっごく美味しく仕上がるのよ」

莉子「夏も“売り物にできる”って言ってくれたよね?」
そう振ると、夏は口いっぱいにほおばったまま、うんうんと頷いた。

「わあ、私も作ってみようかな。これ、ほんと美味しいね」と東山さん。

そんな賑やかな空気の中、厨房の奥からエプロンを外した岩城がやって来た。

「お楽しみのところ悪いんだけどさ……一度だけ、事情を聞かせてもらえないかな?」

その声は穏やかだったが、真剣な響きを帯びていた。

岩城「話がさ、世間には一方的に伝わってるみたいなんだ。それは理不尽だろ?

俺に話してみて。吐き出したほうがいい。……それに、いつかは俺がリベンジしてやるよ」

その言葉を聞いた瞬間、真理さんも美咲さんも、真央さんまでもがポロポロと泣き出してしまった。

長い間、張りつめていた何かが、ようやくほどけたようだった。

桃香と莉子が驚いたように目を見合わせたので、俺は夏に二人を連れて帰ってもらうように頼んだ。

男子組も皆、静かに涙ぐんでいた。

――悔しかったんだろうな。どれだけ我慢してきたことか。

院長「みんな、一度は吐き出したほうがいいよ。俺もいつかはリベンジするつもりだ。
スタッフの身体をボロボロにするなんて、絶対に間違ってる」

そう言うと、高原くんが静かに口を開いた。
「……奥さん、一度妊娠したんです。でも体がつらくても休ませてもらえずに、流産してしまいました」

声が震えていた。

「それで“もうこんな環境では無理だ”と思って、別の職場を探していたときに、菜の花の募集記事を見つけたんです。だから、どうしてもここに来たかったんです」

彼の話に、誰も言葉を挟めなかった。

静かな涙がテーブルを伝った。

「一番悔しかったのは、鬱でもないのに“鬱”にさせられて、強制的に辞めさせられたことなんです。

病気じゃないのに“病気扱い”されて……レッテルを貼られて、追い出された。

今までの働きは何だったのかって、思います」

「きっと、後に残る人たちへの“見せしめ”だったんだと思います。

そんな時代錯誤、もう終わりにしてほしい。

残った仲間たちも、今頃は同じようにつらい思いをしているはずです」

岩城は黙って、彼らの言葉をひとつひとつ噛みしめるように聞いていた。

やがて全員が話し終えると、ゆっくりと頷いて言った。

岩城「よし、事情はよくわかった。これから少しずつ、リベンジしていくよ。
少なくとも、立場を逆転させてやる。しばらく待っててくれ」

頼もしい言葉だった。――けれど、本当にそんなルートがあるのか?
いや、岩城様なら……きっとあるのかもしれない。

少なくとも、大学病院の院長には真実を伝えてほしい。
俺も浅田社長に話してみよう。

この8人は、これからの菜の花を支えてくれる大切な仲間だ。
守らなきゃいけない。

ふと見ると、皆の表情がどこかすっきりしていた。
今まで、誰も本気で話を聞いてくれなかったのだろう。

俺は「まだ早い」と思っていたが……
こうしてみると、むしろ早い段階で聞けてよかったのかもしれない。

――なんせ、これが後に“あっ”という展開へとつながっていくのだから。

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