診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第15章 進むべき道へ

283話 夏輝・心の詩を思い出して 

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 夏は、俺に「才能もこれまでか」と言われたのが、すごく悔しかったらしい。

夜、寝室に入ってからも、書斎でパソコンに向かい、
書いては消し、また書いては消しを繰り返していた。
そして、頭を抱えていた。

書斎にもう一つ椅子を持ってきて、そばに座った。

「夏、思いつかないの?」

「う~ん……オレ、莉子みたいにさらさらと書けないよ。
なんか、レベルが違うんだもん」

「夏は、医大の前は文学部だったでしょう? 何になりたかったんだっけ?」

「もう~それ言わせる? 知ってるでしょう? 国語の先生だよ」

「今の夏は、素人がいきなりプロの作品を作ろうとして焦ってるだけだよ。
でも、下地はあるはずだよ」

「そうなんだけどさ……なんだか、頭が空っぽになってるんだもん」

「夏、人生で一番うれしかった時って、どんな時だった?」

「えっと……」

少し思い出したらしくて、唇をぎゅっと結んで、うつむいた。
涙ぐんでいるようだった。

「えっと……お兄さんが俺を受け入れてくれた時。病室で……俺、一生忘れない……」

そう言うと、ぽろぽろと泣き出してしまった。

立ち上がって、そっと夏を抱きしめた。

「そんなにうれしかったんだ?」と顔を覗き込むと、
「うん」とうなずいた。抱きしめながら髪を撫でた。

夏がかわいい。
それは今も昔も、変わらない。

「じゃあ、その時の数日前から、受け入れてくれた時までの気持ちを、順番にばーっと書いてみたら?
文章にしなくていいよ。殴り書きでいいんだよ。

どうしても、その時の気持ちの表現ができなかったら、AIに聞いたらいい。
“こういう気持ちを表現するには、どんな言葉がありますか?”ってさ」

夏「あっ、そうか! その方法があったね?」

「うん。それとさ、その一か月前とか、出会った頃のこととか、
もっと前の“思い悩む時間”ってあったでしょう?
それはそれで、ひとつずつまとめたらいいんじゃない?」

夏「ああ~そうか。それだと、いっぱいできるよね?」

「うん、あとさ、昔流行った曲で、グループの人が歌で呼びかけると、
ボーカルの人が答えて歌うってのがあったでしょう? 掛け合いの歌」

夏「ええ? なにそれ。全然わかんない」
「♪今何時?♪ って歌うのがあったでしょう?」
「あっ、わかった!」

「あれって楽しかったよね?
楽しい曲なら、面白い内容がいいじゃない?

その日は終わりにして俺は寝ることにした。

翌朝——
目が覚めると夏が背中にぴったり張り付いていた。
向きを変えて声を掛けた。

「おはよう、朝だよ。昨日はできたの?」

夏はまだぼんやりしていた。
何時までやってたんだろう。

夏「おはよう。うん、なんとかね。1曲だけはできたよ」

「そうか、それならよかった。
できたなら、桐生さんたちに見せないとね」

夏「ええ……まだ恥ずかしいよ」

「恥はかいただけ、うまくなるんだよ。
どうせ世間に発表するんだろう?」

夏「……そうだった。わかったよ」





PS/筆者より

夏輝の春樹への愛が叶ったのは、
「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の中の、
<221話 春樹と莉子と夏輝の愛・2・叶う>です。
春樹が莉子だけでなく、夏輝の愛も受け入れた瞬間があります。
よかったらどうぞ。
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