診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第17章 夏輝・人気と自由と……

325話 セキュリティの危機感

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 月曜日。朝礼のあと、夏と二人で事務所へ向かった。
朝一番から会議がある。

「おはようございます。お休みをありがとうございました」
俺と夏は、二人で丁寧にお礼を伝えた。

桐生「ゆっくり楽しめましたか?」
──皆の視線が一斉にこちらに集まった。

「少し、お話ししたいことがあるのですが……よろしいですか?」
桐生「はい。もちろんです。どうぞ」

「実は、家族で変装して出かけたつもりだったんですが……
ほとんどバレました。特に夏は、新幹線のグリーン車で通路を通る人に気づかれ、ホテルでもレストランでも、どこに行っても声をかけられて大変でした」

──皆、笑いたいのをこらえているようで、微妙な表情をしていた。

「それで、今でさえこの状況ですから、
これから先、コンサートやイベントが増えていくと、
帰りの車にGPSを付けられたり、尾行されたり……
いろいろなことが想定されます。

今のうちに対策を取らないと、
今の家に住み続けるのは難しくなる気がしています。
ただ一つだけ──“理事だけ別居”という選択肢はなしにしてください。
それは絶対条件です。

うちでは、俺と夏の車にGPSが付けられていないか、
毎日2回、山野さんにチェックをお願いしようと思っています。

それから、郵便物も局留めにするか、内容を制限するなど、
何らかの対策をお願いします。

また、あまりにひどくなるようなら──
たとえば、菜の花病院の前に常時人がたむろするような事態になった場合、
その後の活動の方法も、見直していただきたいと思っています。

お忙しいところ、また仕事を増やしてしまって申し訳ありませんが、
生活圏が脅かされると、娘の通学にも影響が出ます。
来年は受験を控えていますので、どうかよろしくお願いします」

──皆、シーンと静まり返った。
桐生さんも、腕を組んで考え込んでいる。

桐生「ちなみに、桃香さんはどちらに進学される予定ですか?」
「塾の先生のおすすめで、ここから20分ほどの私立中高一貫校──
SS中学を目指しています」

──皆、「わあ……」という感じで、
どうしたものかと途方に暮れているようだった。

まあ、そうだよな。
あの駅は、一日中ものすごく混雑するからな。

桐生「そこでしたら、うちの送迎バスで対応できますよ。
救命センターも近いですしね」

「ありがとうございます。
それと、ふと思いついただけなんですが──
万が一の“逃げ場”としての住まいがあってもいいのかな、と。

車の尾行を避けるためにも、
駐車場のセキュリティがしっかりした大きなマンションで、
学校にも近い場所なら、安心かなと思ったんです。

まあ、これはまだ思いつきの段階です。
そのときは、また改めて考えます。
それと、車の窓ガラスも、外から見えにくい仕様にした方がいいかもしれません。
──以上です。どうぞ、よろしくお願いします」

再び、皆が黙り込んだ。

夏「院長、車の窓ガラスの件は、すぐに対応します。
桃香の学校に近い物件もOKです。
あと、タクシーで学校から救命病院に一時避難してもいいですよね?
シャトルバスが出てますし」

桐生「ああ、それはいい考えですね。
朝は車が混雑して、40分くらいかかることもありますから。
学校から近い物件にお住まいになれば、確かに便利です。

通勤については、シャトルバスをご利用いただいても構いません。
病院までは、おそらく徒歩15分くらいでしょうか」

「はい、分かりました。ありがとうございます。
それにしても、夏の顔がこんなに広く知られているとは……
変装、まったく無意味でしたよ。
新幹線に乗って、マスクを外して水を飲んだ瞬間にバレたんだよね?」
──皆、どっと笑った。

夏も、自分で笑っていた。

夏「俺だって懲りたよ。
もう、今度から行く場所は限定しないとダメだね。
ホテルじゃ無理だよ。
別荘や別宅を持つ芸能人の気持ちが、ようやく分かったよ」

桐生「まあ、分かっただけでも収穫じゃないですか。
こちらも、至急対策を練りますので、ご安心ください」

「はい。よろしくお願いします」

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