ぼくが風になるまえに――

まめ

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29 番外編・精霊樹のこども 05

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「むっかしー、むっかしー、もっもたろはー♪
 たっすけたカメにつれられてー♪」

 フロルは夢の中で、精霊フロルの歌声を聴いた。――おい待て。それじゃ桃太郎が竜宮城に行っちゃうじゃないか!

「桃太郎と浦島太郎が混じってるぞー!」

「あ、フロル、久しぶりだねえ」

 フロルは、精霊樹に花がついた頃から、精霊フロルの夢を見ることが少なくなっていた。
 相変わらず陽気だが、しばらく会わないうちに、なんだか影が薄くなったように感じた。

「ねぇ、あの花から何が生まれるの? もしかして力を使ったせいで薄くなってる?」

「こどもを作るって言っただろ。ちょっと難しくて、てこずってはいるけどさ。力というよりは、ぼくの中の人間性みたいなものを使ってる。精霊樹には影響はないけど、ぼくはちょっと減るねえ」

 精霊フロルは、ひょうひょうとした調子で続けた。

「もともとぼくの存在がイレギュラーなんだ。風に消えるはずだったんだから。だけど、こうなっちゃったものは仕方ないよね。ぼくはずっと生きるよ。フロルがいなくなっても。――きっとすごくさみしい。こうして人格を持っちゃったから。だからね、今のうちに――つながりを作るんだ」

「そのつながりが、そのこどもってのなの?」

「うん。」

 精霊フロルはそれ以上は語らず、ゆっくり消えていった。

◇◇◇

 朝、目覚めたフロルは無性にせつなかった。ダレンの胸にすがりついて、ちょっとだけ泣いた。

「どうしたんだ、フロル。悲しい夢でも見たのか?」

「わかんない。久しぶりに精霊フロルが出てきた。なんか薄くなってた。あの花に力を注いでるみたい」

 
 フロルは、ナディクに相談した。花の成長を阻害せずに、安全を守る方法を考えたいと。

「それなら、花のすぐ下にゆりかごを置いてはいかがですか?」

「すごく簡単だけど、すぐにできるね。周りに柵を付ければ落ちないし」

「ほんとうは、私がずっとつきっきりで観察したいのですが。こうしている間にも、なにか変化があったらと思うと、気が気ではありません!」

 ナディクは、朝食をとるといそいそと精霊樹の丘にむかった。
 この季節は、夜露さえしのげればそれほど寒くはない。フロルは、ナディク用にテントを張ることにした。物置から、自分が使っていた古いゆりかごも引っ張り出して、午後から設置にむかった。

 
「ナディクさーん、簡易テントを建てることにしたよー!」

 フロルとダレンが、荷車を引いて丘に登ると、ナディクは花に顔を近づけて、すんすん匂いを嗅いでいた。

「フロル殿、ダレン殿、ありがとうございます! 今朝から花の香りが漂いはじめまして、内部の準備ができたようです。開花が近いですっ!古くからの文献には、果実からこどもが生まれる話は結構存在しています。ただの伝承だと思っていたのですが、こうして実際に目にしてみると――あれらは実話だったのかもしれません」

 フロルは、なにそれどこの桃太郎?と思った。
 ダレンは、よくわからないなりに、興奮したナディクの様子に、にこにこしていた。
 ふたりは、精霊樹の近くにテントを設置すると、ナディクは感激のあまり涙を流した。

「ありがとうございますっ!これで花が開くのを一番に見られます!それにこのゆりかごっ!セルフィーユ家で使われてきたものを、セルフィーユ家の血をひく精霊樹が使うなんて、素晴らしい!フロル殿の精霊樹に対する思いが伝わってきます!」

 いや、物置にあるのを持ってきただけなんだよと、フロルは言いそびれた。――精霊樹ってぼくから分かれたんだから、そう考えると親族になるのか。
 

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