ぼくが風になるまえに――

まめ

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28 番外編・精霊樹のこども 04

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 丘までの道中も、ナディクのトークは止まらなかった。

「精霊樹は基本的に花をつけないと聞きます。見た目は植物ですが、精霊なんですよ。フロル殿から生まれた訳ですし。植物が花を咲かせるのは、子孫を増やすためですが、精霊はそんなに簡単には増えません。フロル殿は、なにか思いあたることはありますか?」

「精霊樹になったぼくの片割れが、最近よく夢に出てくるんですよ。内容はあまり覚えてはいないんですが。そもそも人格があるらしいと気づいたのも、夢を見始めてからで――あ。そういえば、こどもを作るって言ってました」

 ナディクはそれを聞いて、カッと目を見開いた。

「なんですとー!まさしくそれじゃないですか!夢に出てくるって、精霊樹に人格があるんですか!これは記録しなければ……では、当然、意思もあるわけですよね。他には夢で何か話しましたか?」

「うん、プリンを供えろって……」

 フロルはぽりぽりと鼻を掻いた。――ごめん、ナディクさん。ぼくと精霊フロルの間に、重要な会話など存在しないよ。記録しないでください。

「後は?……なにか話しましたか?」

「だから、夢だから起きたらほとんど忘れちゃうんです。えーと、熊の話をした記憶があります。」

「熊!セルフィーユ領に危険が迫っているのを伝えたかったんでしょうか」

「さぁ……へへっ」

 フロルは絶対違うと思った。そういえば、一緒に歌を歌ったかも……

「くーまにまーたがりおーうまのけいこー♪」

 青い空に、フロルの調子っぱずれな歌が吸い込まれていった。

◇◇◇

 丘に着くと、ナディクは見上げるほどに育った精霊樹に驚き、小さな白いつぼみを見つけると、踊り出さんばかりに狂喜した。
 幹に触れ、太さを測り、葉を観察し、手帳に書き出していく。そのうきうきとした様子は、妻の妊娠を知った夫のようだと、フロルは思った。――そういえば、ちい兄も奥さんに赤ちゃんができたとき、こんな感じだったなあ。
 
「ナディクさん、精霊樹の幹って触ると"とくんとくん"ってするでしょ。脈みたいなの。あれはなんなのかなあ」 

「えっ?私にはわかりません。それは、フロル殿にしかわからない感覚なのでは?元はあなたとひとつだったのですから。正直うらやましいです……」

「……ぼくにしか、わからないの?」
  
「私が思うにですね。精霊樹はフロル殿としかつながっていません。他の人間にとっては、ただの大きな樹なんです」

 このまえフロルは、精霊樹がこの先ずっとこの地をひとりで見守り続けることを案じていた。
 この樹の中には、なんらかの意識があるのに、それを感じられる者がぼくしかいない――

「ナディクさん、この花これからどうなるのかな。精霊樹のこどもが生まれるといいな。さみしくないように」

「そうですね。きっとこの樹は長生きしますよ。共に生きる存在がいたら心強いですね」

 それから、ナディクは毎日のように丘に行き、つぼみの観察を続けた。かいがいしく世話をする様子は、妻をいたわる夫のようだった。
 フロルは、あの花からなにかが生まれたら、ナディクに名付け親になってもらうことを、心に決めた。

 つぼみはどんどん大きくなり、人間の頭くらいのサイズになった。
 領民たちは、次は何が起きるのかと、毎日のようにつぼみを見にやってきた。
 大人もこどもも、この花が開くのを楽しみにしていた。
 
 
 
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