【完結】あなたのいない、この異世界で。

Mhiro

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最終章

99 -ルークside- ㊴

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 ユイがこの選択をすることは予想していた。この件を大司教に持ち掛けられた時に、どのような交渉があったかは不明だが、それでも誰かの力になれるのならと考えたんだろう。

 だったら俺は、ユイのためにできることをやるまでだ。

 さっそく俺は、父さんから借りた初代当主の手記を広げた。内容は古語で記されていて、読み解くことはできるが読み進めるのに時間がかかった。
 最初の日付は今から150年以上前で、初代当主ウルティマス・クイントスが叙爵する前の出来事が書かれていた。当時は薬師として生計を立てていたようで、日常の出来事を淡々と綴った日もあれば、嬉しかったことや悲しかったことを長々と綴った日もあった。そんな中で、俺はある日の記述に目が留まった。


『今日、旅人と知り合った。表情は薄いが端正な顔立ちをしていて、凪いだ雰囲気を持つ不思議な人だった。聞けば遠くから旅をしてきて、この辺に空き家はないかと聞いてきた。ちょっと揶揄うつもりで、近くの森の中にあると教えてやると、彼は「ありがとう」と言って去ろうとした。まさか、あんな廃屋に住む気か?そう思って宿を勧めたが、「問題ない」と森の中へ消えていった。心配だから、明日にでも訪ねてみよう。』

『食料を持って森の廃屋を訪れると、彼は歓迎してくれた。中に入るとそこには別世界が広がっていた。作業場だと案内してくれた部屋には、あちこちに光が浮かび、部屋の端に炉や金床が置かれ、作業台にある見たことのない器具の中には、七色の液体が揺蕩っていた。
 僕はその光景にたちまち興味が湧き、この廃屋の変わりようについて根掘り葉掘り尋ねた。そして彼は「これらは全て錬金術に使う道具だ」と答えてくれた。彼はタリス・インモータルズという名で、錬金術師らしい。表情はあまり変わらなかったが、錬金術のことを語る彼はどこか楽しげだった。』


 タリス・インモータルズだって?

 俺はその名を目にして、この手記に書かれていることが事実なのか、俄かには信じられなかった。
 タリス・インモータルズは<賢者の石>を創り出した、この世界で最も偉大な錬金術師だ。そんな偉人と俺の祖先が関わり合っていたなんて……。


『仕事の合間にタリスの元に訪れるようになり、次第に彼から錬金術を教わるようになった。今まで薬師として調薬をしてきたからか、筋がいいと褒められた。そんな彼を師と仰ぐようになるまで、時間はかからなかった』

『タリスがようやく、僕を弟子と認めてくれた。今まで何人か弟子を取ったが、育てるのに相当苦労したらしい。もう弟子は取らないと考えていたらしいタリスが、僕を弟子と認めてくれて本当に嬉しかった。』


 あのタリス・インモータルズの弟子になったのか?しかし、それ以降のページには教えられたことを復習するかのように、錬金術に関する記述が多くなっている。どうやら本当に、彼の弟子になったようだ。
 以前読んだタリスに関する文献に、彼にはかつて5人の弟子がいたと記されていた。その詳細は不明だったが、まさかそのうちの一人が自分の祖先というのには驚いた。


『今日は村の収穫祭だった。タリスは普段自分の事を話さないのに、いつになく饒舌になっていた。祭でもらってきたお酒を飲ませたせいだ。タリスは酔ったの勢いで、これまで創った魔法具や魔法薬のことを話してくれた。中でも一番信じられなかったのは賢者の石の話だった。その石を触媒に卑金属を金に変えたり、不老不死の薬を創り出せるなんて、いくらタリスがすごい錬金術師でもできるわけない。』

『タリスが大怪我をした。高い岩間に生える薬草を採ろうとして崖を登り、足を滑らせた僕を庇ったからだ。タリスが下で受け止めてくれなかったら、僕はきっと死んでいた。』

『まだ信じられない。タリスが本当に不老不死だなんて…。
 ポーションを持ち合わせていなかった僕は、タリスを抱えて森の工房に急いだ。でも、あの大怪我が、森の工房に着くころには跡形もなくなっていた。
 タリスは僕に自身の過去を語ってくれた。賢者の石を創り出した40の歳から、不老のまま、数百年も生きてきたという。死を求めてあてもなく彷徨っているうちに、この地に流れ着いたそうだ。』

『タリスは賢者の石を創り出したことを後悔していた。あれのせいで生ける屍となり、見た目が変わらないことを怪しまれないよう、隠れるように生きてきた…と。そんな生の中で見つけた信頼できる友人や家族を何度も見送り、賢者の石の噂を聞きつけた輩に襲われたこともあったそうだ。生きることに疲れても死ぬことができない苦しみを、彼は淡々と語っていた。その表情が変わらないのもきっと、長く生き過ぎて心がすり減ってしまったからだろう。何とかして、彼を苦しみから解放できないものか……。』


 ウルティマスはその後、敬愛する師を助けるために、更に錬金術に没頭していたようだった。手記の日付の間隔が長くなり、書かれた文面には焦りが滲み出ていた。分厚い手帳が中盤を迎えたころ、胸をざわつかせる文言に目が留まった。


『今日、一人の女性が僕の元に訪ねてきた。王都にある大聖堂から来たそうで、白い長衣と外套を纏い、いかにも聖職者然とした出で立ちだ。長い黒髪に、いつか見た夜明けの空のような紫色の瞳をしていた。』


 長い黒髪に、夜明けの空のような紫の瞳…?


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