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最終章
100 -ルークside- ㊵
しおりを挟む聖職者らしき女性の特徴を読んで、図らずともユイの姿を想像した。その日以降、手記には彼女──アスターのことが書かれることが多くなり、彼女が登場する度にどうしてもユイの顔を思い浮かべてしまう。中性的な顔立ちのユイは女性と見紛うほど綺麗な顔立ちだから、アスターにユイを投影しても何ら違和感がない。
彼女は魔法具が完成するまで村に滞在することになり、タリスとも親交を深めていたようだ。
『アスターがこの村に来て数カ月が経った。初めは、なぜわざわざこんな辺鄙な村へ来て、錬金術を学び始めて間もない僕に魔法具製作を頼むのだろうと疑問に思った。しかも、作り方に素材まで揃っているのに…。
でも今では、彼女がここに来てくれたことに感謝している。アスターと接し始めてタリスの表情が明るくなった気がするし、僕も以前より毎日が楽しくなった』
『製作は順調に進んでいるが、未だにこの魔法具が何なのかが分らない。
今日、手の平に収まるくらいの小瓶ができあがったが、一体何に使用するんだろう?アスター曰く、これは彼女にしか使えない魔法具で、それには彼女のスキルが関係しているようだ。』
アスターのスキル…。この時彼女は自分のスキルを明かしていないようだが、恐らくは……。
『ようやく、アスターに頼まれていた魔法具が完成した。といっても、結局はタリスに何度も助言をもらってしまったが…。銀でできた蔦が小瓶に巻き付いたような見た目のそれは、棚に飾る調度品みたいだ。
アスターは出来上がった魔法具を受け取ると、「やらなければならないことがある。それが終わったら、また会いに来る」と僕とタリスに言い残し、村を去っていった。アスターの後ろ姿をタリスと一緒に見送っていると、彼にしては珍しく、寂しそうな顔をしていた。』
やはり、この時ウルティマスが創っていたのが<最後の救済>だったようだ。完成品の特徴からも、大司教から見せてもらった<最後の救済>と一致する。大司教が言っていた<最後の救済>の前の所持者である鎮魂師はアスターで、ユイと同じ<言霊>のスキルを持っていたのだろう。しかし、これを受け取ったアスターが何を成しに、どこへ行ったのかは記されていなかった。
『アスターが去って半年ほどが経った。あれ以来タリスは物憂げで、どこか寂しそうに見えた。表情には出さなくても、僕にはわかる。タリスはアスターのことを愛してしまったんだ。
でも、タリスは自分の想いを彼女に告げることはないと思う。愛する人を何度も見送ってきたタリスは、あんな悲しい思いを繰り返すくらいなら、独りでいる方がいいと以前言っていた。今は僕と交流を深めているけど、きっといつかは、ここを去るつもりなんだ。』
『賢者の石を破壊すれば、不老不死の呪縛は解けるのではと思い、タリスに提言してみた。だが、既にそれはタリスも試したことがあるらしい。結果は今のタリスの存在が物語っている。
タリスは、賢者の石を破壊できないのは、素材に<世界樹>の一部が含まれているからだと推測していた。"世界"の依り代であり生命の根源である<世界樹>は、何人たりとも破壊できない。そんな<世界樹>の一部を素材として使った自分に、"世界"が罰を下したんだろうと、タリスは自嘲気味に笑っていた。
そんな孤独の中にいる彼が、いつか解き放たれることを願いつつ、僕は何か賢者の石を破壊する方法がないか模索した。』
『アスターが戻ってきた。久しぶりの再会に、僕も心が踊った。あのとき頼まれた魔法具の中に、ガラスのようにキラキラした粒がいっぱい詰まっているのを見せてくれた。「ようやく、願いを叶えられる」と彼女は嬉しそうに言っていたが、僕はその意味が分らなかった。
戻ってきて早々、アスターは殆どの時間をタリスと共に過ごしていた。錬金術を学んでからの僕は仕事が以前より忙しくなり、最近はタリスの元を訪れるのは夜の数時間だけになった。二人が何をしているのかは分らない。でも、彼女が戻ってきてからのタリスは、今まで見たことのないほど穏やかな表情をしていた。』
願いを…叶えられる?
その漠然とした甘言に、俺は得も言われぬ不安感を覚えた。
『明日の夜は絶対、一緒に食事をしようとアスターに誘われた。彼女が戻ってきて数日が経ったのに、今になって再会を祝おうとしているのだろうか?そう疑問に思いつつも、僕はその誘いを受けた。いつも三人で食事をしているというのに、アスターは変なことを言う。』
『今夜の食事会はとても楽しかった。お酒も飲んでいないのにタリスは笑顔が絶えず、たくさん話をしていた。でも、そんなタリスを見て、アスターは寂しそうに微笑んでいた。
帰り際にアスターが、「明日、夜明け前に来てほしい」と言っていたが、一体何があるのだろう?』
次に書かれた日付はその翌日だった。ところどころ濡れた跡があり、震える手で書いたように歪んだ字で、一言だけ綴られていた。
『タリスが、死んだ。』
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