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最終章
101 -ルークside- ㊶
しおりを挟むタリスが死んだ。
その一言には驚いたが、そうなることはなんとなく予想していた。しかし、それでもこの日に何が起こったのかが気になる。
続きを読み進めると、次の日付はそこからさらに4日後になっていた。
『やっと気持ちが落ち着いた。タリスが死んだことを忘れることはないけど、それでも書き記しておこうと思う。
あの日の夜明け前、タリスの工房を訪ねるといつものように迎えられた。しかし、二人ともどこか寂しげな面持ちだったから、どうしたのか聞いてみた。するとタリスは、僕を抱きしめて、ただ「ありがとう。君に出会えてよかった」とだけ言った。そして、アスターがベッドに横たわったタリスの前であの魔法具を握りしめると、急に光が溢れた。光が収まったかと思ったら、タリスは息を引き取っていた。彼の死に顔はとても穏やかで、眠っているみたいだった。次第に彼の身体は砂の様にサラサラと崩れ始めた。最後は跡形もなくなくなり、そこにはさっきまで着ていた服だけが残されていた。
僕は何が起きたのか理解できず、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
タリスの身体がなくなったあと、アスターは彼の服を拾い上げ、抱きしめながらその場に倒れた。』
『タリスの死の翌日に、アスターは意識を取り戻した。僕は彼女に、タリスがどうして死を迎えることができたのか聞いた。
彼女は、自分があの魔法具にタリスの死を願ったからだと答えた。
僕に創らせたあの魔法具を人の想いの結晶で満たせば、"世界"からの恩寵を受けられるのだという。そして恩寵とは、所持者の心願成就らしい。僕には、それがにわかに信じられなかった。
これはあくまで僕の推測だが、あの魔法具は賢者の石の効果を相殺したのではないだろうか。あの魔法具の素材には賢者の石と同じく、<世界樹>の一部が含まれていた。つまり、この二つの魔法具は、いわば兄弟のようなものだ。だから、それが可能だったのではと思う。』
『今日、アスターが王都に帰っていった。無理やり笑う彼女はとても痛々しかったが、僕にはどうすることもできなかった。
タリスは亡骸も残らず、ふっとこの世界から消えた。まるで、初めから存在していなかったみたいだ。だから僕は、彼が確かに存在した証として、タリスの工房に保存魔法をかけ、彼が最期を迎えた場所をできるだけ長く残そうと思った。魔法がどれくらい持続するかは分らないから、僕が生きている限りは重ね掛けをしていこう。不届き者に荒らされないように、認識阻害の魔法も施しておこう。』
『アスターから手紙が来た。タリスが亡くなって以来だから、約半年ぶりだ。そこには当時の彼女の想いや、嬉しい報告も綴られていた。折を見て、王都に会いに行こう。』
そのアスターからの手紙は、手帳の最後に挟まれていた。俺はどんなことが書いてあったのか気になって、封筒から便箋を取り出して文面に目を走らせた。
〝親愛なるウルティマスへ
元気にしてる?手紙を書くのが遅くなっちゃってごめんね。タリスのことがあって、なかなか気持ちの整理がつかず、ペンを取ろうにも何から書けばいいのか迷ってしまって…。あなたに詳しいことを話さず、ただ巻き込んでしまったことを、本当に申し訳なく思ってる。
まずは、あの魔法具を作ってくれて本当にありがとう。素材も製作方法も揃っているのに、なぜ自分に依頼するのか疑問に思ったでしょう?でも、あれを作れるのはウルしかいないって、ある人に言われたの。だから、あなたたちがいる村に向かった。でもそれが、私の人生最大の幸運であり不運となった。
私は最初から、あの魔法具に何を願わなければならないのか分かっていた。分かっていたはずなのに、永遠の眠りに就かせるべき相手に、心を奪われてしまった。
私がタリスに惹かれていたことは、あなたも気づいていたんじゃない?魔法具が出来上がるまで、彼と過ごした日々はとても楽しかった。それがいけなかったのね。自分の気持ちを抑えることができなかった。
本当は、タリスを結晶を集める旅に連れて行かなければならなかったけど、これ以上一緒にいると使命が果たせないと思って、魔法具を受け取ったあとは一人で旅に出た。
魔法具を結晶で満たしたあと、再び村を訪れたとき、実は少し期待していたの。もしかしたらタリスは、死以外の願いを抱いているんじゃないかって。もしそうなら、彼の願いを叶えられると思って嬉しくなった。
でも、タリスが言った願いは「死にたい」だった。
涙が止まらなかった。でも、彼がそう願うのも理解できた。彼は私が想像できないほど長い時間を独りで生きてきて、どれほど辛かっただろう。そんな彼を永遠の生から解放できるのは、私しかいない。そこでようやく、決心ができたわ。
私は最後の思い出に、共に過ごす時間が欲しいとタリスにお願いしたの。そのとき自分の想いを伝え、彼の本当の想いを聞いて、何度決心が揺らいだことか…。
そして、最期はウルと私に看取ってほしいって彼に頼まれて、あの日あなたを呼んだの。笑って逝くところを見送れたのは、せめてもの救いよね。
それから王都に戻ってきて、しばらくして妊娠していたことが分かったわ。タリスの子よ。生まれたら、ウルにも抱っこしてほしい。王都に来ることがあったら、絶対私のところに寄ってね。待ってるから。
あなたの友 アスターより〟
なぜあのアーティファクトが、<最後の救済>と名付けられたのか分かった気がする。生前、母さんも言っていた。『生きとし生けるもの全てに、等しく終わりは訪れる』と。楽しいことよりも辛いことが多い"生"において、その終わりである"死"は究極の救いだ。しかし、タリス・インモータルズはその救いがなかった。そんな彼を、ウルティマスが作った魔法具とアスターの想いが、最後の最後で救ったんだ。
愛するがゆえに、その死を願う───アスターの心情を思うと、胸が締めつけられる。
遠い昔に確かに起こったこの出来事と、その時を生きていた先祖の想いを想像すると、無性にユイに会いたくなった。
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