【完結】あなたのいない、この異世界で。

Mhiro

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最終章

98 -ルークside- ㊳

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 父さんとの短い再会を果たし、俺とユイは王都のタウンハウスに戻ってきた。自室の床に足が着くとふらふらとベッドに向かい、そのまま倒れ込んだ。
 長距離間の転移を立て続けに行ったことで、魔力を予想以上に消耗した。だが、父親との蟠りがなくなり、心が軽くなったおかげで、襲ってくる疲労感さえも今は心地よく感じる。

「大丈夫?」
「うん、ちょっと疲れただけ」

 俺がそう言って微笑むと、ユイは心配そうな表情で上から覗き込んでいた。しかし、その表情には心配とは別の感情も入り混じっているように見える。

「お父さんと、もっと話さなくてよかったの?」
「十分だ。それに、会いたければいつでも会いに行ける」

 ユイが「…そっか」と言って安心したような表情を見せると、俺も気が緩まった。ユイがそばにいる安心感が眠気を誘い、俺の意識は次第に波にさらわれるように遠のいていった。



 次に目が覚めた時には窓の外が黄昏色に染まり、寝台の照明が灯されていた。薄暗くなった部屋を見渡してもユイの姿はなく、しんと静まり返っている。

「ユイ?」

 部屋を出ようとドアを開けたら、ちょうどノックしようとした使用人と鉢合わせした。手に銀のトレイを持ち、その上には封筒が乗っている。

「ルクス様にお手紙が届いております」
「ユイはどこだ?」
「ユイ様でしたら、昼を過ぎた頃に邸を出られました」

 俺は手紙を受け取るとドアを閉め、湧き上がった焦燥感を抑えながら急いで追跡魔法を発動させた。しかし、どれだけユイの魔力を探っても見つけることができなかった。

 どうしてだ?昼過ぎに出たなら、まだそんなに遠くに行っていないはず。大司教の件があるから、国外に出るわけもない。だとしたら、魔力を探知できない場所に……?

 混乱する頭を何とか回転させていると、再びノックの音が響いた。今度は誰かと訝しんでいると、ドアの向こう側から「ルクス、起きているか?」と姉さんのくぐもった声が聞こえてきた。俺が「起きてる」と応えるとドアが開き、姉さんが入ってきた。

「ようやく起きたか。大聖堂からの使いが、お前に手紙を持ってきたと聞いたが?」

 そこで俺は、この手紙の送り主がユイであることに気づいた。これがどうして大聖堂から送られてきたのかは、きっと手紙の中に記されているはずだ。
 俺はソファに座って封筒を開け、中から便箋を取り出した。そこには、ユイの筆跡で書かれた綺麗な字が並んでいた。


 〝ルークへ

 今日は本当にお疲れ様。それから、何も言わず勝手にお邸を出てごめんなさい。大聖堂に行きたかったんだけど、眠る君を無理やり起こすのも気が引けたので、一人で出てきました。
 本当は、明日モーリス大司教様に昨日の件の返事をするつもりでしたが、もう心が決まっていたから今日お返事をしました。

 僕は、西方辺境伯領へ行きます。

 それで、少しだけルークの力を貸してほしいです。もし<最後の救済>のことで分かったことがあったら、どんな些細なことでもいいので教えてほしいのです。
 出発するまでの間は、勉強のためにモーリス大司教様の公邸でお世話になることにしましたので、そちらに連絡をください。

 勝手なお願いで本当にごめんなさい。どうか、よろしくお願いします。

 ユイ〟

「会いに来て」とは、言わないんだな…。

 そう言わないのは彼なりの気遣いとは分かっていても、やっぱり寂しくなる。
 俺は手紙を読み終えると、そっとテーブルに伏せた。向かい側に座っていた姉さんが、ユイの手紙を手に取り、書かれた文字を目で追っている。

「…そうか。ユイは今、大司教の元にいるのか。それで、お前はどうするつもりだ?」
「ユイの望むとおり、初代当主の手記から得た情報を伝える」
「クイントス家が代々受け継いできた秘匿情報を、お前は何の関係もない赤の他人に渡すつもりか?」

 その瞬間、姉さんが纏う空気が張りつめた。肩書はまだ領主代理だが、貫禄と威厳は既に領主そのものだ。
 姉さんがそう言うのも当然だ。きっとこの手記は、クイントス家の当主に代々受け継がれてきたんだろう。だから、<最後の救済>のことを知るのもまた、当主のみだ。そんな重大な内容を外部に洩らすようなことを、次期当主である姉さんが見過ごすわけがない。
 どう説得するか考えを巡らせていると、姉さんが思いがけない言葉を発した。

「…しかし、ユイにもお前にも、大きな借りがある。今回ばかりは目をつむってやる」
「本当に……いいのか?」
「くどいぞ。私の考えが変わらないうちに、さっさと手記を確認しろ。報告は怠るなよ」
「ああ。ありがとう、姉さん」

 俺が返事をすると姉さんはスッと立ち上がり、部屋を出ていった。
 俺はソファに身体を預け、もう一度ユイの手紙を手に取った。せっかく再会できたのに、またすぐに離れることになるなんて…。ここに帰ってきた時に、眠ってしまった自分を恨まずにはいられない。

 こんなことになるなら、ユイの手を離さなければよかった……。

 数時間前までユイが触れていたかと思うと、ただの便箋さえも愛おしくなり、俺は手紙にそっと唇を寄せた。


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