46 / 57
36束の間の休日
しおりを挟む
その頃シリウスは露天風呂に入りゆったりと寛いでいる最中だった。
「そうか、もう鹿が姿を見せたか」
「うん、親子でお湯に浸かって休んで行ったわ」
「今年は冬が早いのかもか知れないな」
「こっちでも雪が降るの?」
「いや、もう少し北へ行けば真っ白な風景は見れるが、この辺りは冬でもぱらつく程度で積もる事はない」
「そうなんだ」
二人が仲良く湯に入り、と思われるような雰囲気ではあるが……そうではなかった。
シリウスは勿論湯船の中だが、ユリカは肌寒くなってきた気候に合わせ、簡易ドレスの上にショールを纏っている。そして、湯船脇の長椅子に座り本を膝の上に広げココアを飲んでいた。
「ユリカも風呂に一緒に入れば温まるぞ」
「恥ずかしくて一緒には入れないわ」
「気にするのか」
「当たり前でしょう!シリウス様ときたらここへ来た途端脱ぎ始めて……もう、信じられない」
昼を過ぎた時に突然友梨香の元を訪れたシリウスが、露天風呂に入りたいから付き合えと言ってきた。
別にそれは構わない。
友梨香の中では一緒に入るという選択肢はなかったので、シリウスが入浴している間はキャンちゃんの中でのんびりしていようと思っていたからだ。
誰もお供付けず二人で来たので友梨香が露天風呂の木戸を開け、湯船の周りの足場を流し準備している最中だった。
「陛下、もう入れ……きゃぁー!!!」
振り向けばシリウスは全裸で立っていたのだった。
思わず両手で顔を押さえ悲鳴をあげてしまう友梨香を気にも留めず、彼は湯船へと入って行ったのだった。
「もう、信じられない。いきなり全裸になるなんて」
「何をそんなに怒っているのか分からぬのだが」
「えっ、レディの前でいきなり脱いで素っ裸なんてありえないでしょう?」
「風呂に入るのには服は脱ぐであろう。それに私は自分で服も脱いだのだ。ユリカに手伝わせた訳ではないぞ?」
「それって、普段は誰かにして貰ってるという事?」
「少し前まではな。当然傍付きの侍女がやる仕事だ」
当たり前のように言われ友梨香はしばし考える。
――王族ってみんなこうなの?
あーそうか。高貴な人たちは小さい頃からずっと他人にお世話をされているから、裸を見られても気にすることもないのか……。
それにしても、せめて前ぐらいは隠して欲しいわ!
「私がアンやディアにされたように陛下も侍女さん達に洗われていたということ?」
「そういう事だ。王族に限らず貴族は一人で風呂に入らないから。数人で世話をする」
「じゃ、陛下の裸を侍女さん達は見てるし、洗われてもいるんだ……」
「侍女に体を洗わせる訳ではないぞ。まぁ貴族にはそうさせている者も多いが、風呂専門の世話係という者がいるのだ。女の場合もいるが男もいる。私は女に触られるのは嫌だから普段は男二人に世話をさせている。男二人と言っても一人は小姓だがな。だからといって、一人で入る事もあるし自分で何もできないという事はない」
小姓ってあれだよね。日本では武将や大名の傍で身の回りの世話をしたりする少年騎士見習いとかもいるらしいけど、夜のお相手とかする男娼の対象だったりもするよね。
「おい、ユリカ。何かよからぬ想像をしていないか?」
「えっ、?」
図星であった。
「私の世話係のジョセフとジョージアは親子だぞ。従者とは別だが、代々王家の身の回りの世話係として仕えてきた家系なのだ」
「えっ?ああ、そういう家系もあるんだ。じゃぁ宰相さんとかキャステルさんみたいに側近の人も代々なの?」
「ドミニクはそうであるが、頭脳が無ければ代々とはならない。それだけマーキュリアル侯爵家の家系が優秀という事だ。貴族に使える家令もだがフリーの者もいて、落ちぶれ気味の家を建て直したりした優秀な者は引き抜かれたりしているようだ」
「おお、ヘッドハンティングされるんだ」
「ヘッド?」
「うん、優秀な人材を今より好条件を提示して引き抜く事を云うの」
「ほう、覚えておこう。ヘッド……ハンティングか。
で、側近だが、通常は幼い頃に将来有望と思われる王子と似たような年齢の貴族の次男などを数人付け、生活を共にさせその中から選ばれる。キャステルの母親は母上とは幼なじみだった。伯爵令嬢で一緒に王妃候補となった。だが、父上が母上に想いを寄せていると知り身を引いてすぐキャステル侯爵と婚姻したのだそうだ。そして第一子、キャステルの兄を産んだ。そして二年後キャステルを身籠ると同時に母上も私を授かった。母上は自分での子育てを望んだが乳の出が悪く、それを聞いたロゼッタが自ら名乗りをあげ、異例ではあるが私の乳母になってくれた。それ故キャステルと私は乳兄弟なのだよ。兄は侯爵家を継ぎ、気心が知れたキャステルが側近となってくれて私は感謝もしているぞ」
「ふふ、それはお二人を見ていて分かります。本当の兄弟みたいだもん」
そんな会話をしていると門からキャンちゃんまでの石畳にカポカポと馬の蹄の音が響いてきた。
「あら、誰か来たみたいよ」
「誰だ?」
湯船の中からシリウスが声を掛けると「キャステルです」と返って来た。
「入っても大丈夫か?」
「どうぞ。キャステルさん」
「なんだ……」
開け放れてあった木戸からひょこっと顔を覗かせたキャステルは、二人の様子を見て呟いた。
「何だとはなんだ?」
「いや、てっきり二人で仲良く入っているかと思ってさ」
「何言ってるんですか!」
「キャステル、ユリカに断られたので仕方なく一人だ。もう構わぬと思わはないか?」
「ん-、その辺は好きにして下さい」
「何だ冷たいな。で、急用なのか?」
シリウスはキャステルからローザリーの到着とその後の様子の報告を受け渋い顔になる。
「全く、何を考えているのだ、あの王女は」
そう言いながら湯船の中からザバッと立ち上った。
「きゃぁぁぁぁ!」
二度までも正面からもろに見せられ友梨香は今度こそ本を投げ出し、キャンちゃんの中へと逃げ込んでいったのだった。
そして思った。
――やっぱり下も金髪で……ご立派でした。
と。
「そうか、もう鹿が姿を見せたか」
「うん、親子でお湯に浸かって休んで行ったわ」
「今年は冬が早いのかもか知れないな」
「こっちでも雪が降るの?」
「いや、もう少し北へ行けば真っ白な風景は見れるが、この辺りは冬でもぱらつく程度で積もる事はない」
「そうなんだ」
二人が仲良く湯に入り、と思われるような雰囲気ではあるが……そうではなかった。
シリウスは勿論湯船の中だが、ユリカは肌寒くなってきた気候に合わせ、簡易ドレスの上にショールを纏っている。そして、湯船脇の長椅子に座り本を膝の上に広げココアを飲んでいた。
「ユリカも風呂に一緒に入れば温まるぞ」
「恥ずかしくて一緒には入れないわ」
「気にするのか」
「当たり前でしょう!シリウス様ときたらここへ来た途端脱ぎ始めて……もう、信じられない」
昼を過ぎた時に突然友梨香の元を訪れたシリウスが、露天風呂に入りたいから付き合えと言ってきた。
別にそれは構わない。
友梨香の中では一緒に入るという選択肢はなかったので、シリウスが入浴している間はキャンちゃんの中でのんびりしていようと思っていたからだ。
誰もお供付けず二人で来たので友梨香が露天風呂の木戸を開け、湯船の周りの足場を流し準備している最中だった。
「陛下、もう入れ……きゃぁー!!!」
振り向けばシリウスは全裸で立っていたのだった。
思わず両手で顔を押さえ悲鳴をあげてしまう友梨香を気にも留めず、彼は湯船へと入って行ったのだった。
「もう、信じられない。いきなり全裸になるなんて」
「何をそんなに怒っているのか分からぬのだが」
「えっ、レディの前でいきなり脱いで素っ裸なんてありえないでしょう?」
「風呂に入るのには服は脱ぐであろう。それに私は自分で服も脱いだのだ。ユリカに手伝わせた訳ではないぞ?」
「それって、普段は誰かにして貰ってるという事?」
「少し前まではな。当然傍付きの侍女がやる仕事だ」
当たり前のように言われ友梨香はしばし考える。
――王族ってみんなこうなの?
あーそうか。高貴な人たちは小さい頃からずっと他人にお世話をされているから、裸を見られても気にすることもないのか……。
それにしても、せめて前ぐらいは隠して欲しいわ!
「私がアンやディアにされたように陛下も侍女さん達に洗われていたということ?」
「そういう事だ。王族に限らず貴族は一人で風呂に入らないから。数人で世話をする」
「じゃ、陛下の裸を侍女さん達は見てるし、洗われてもいるんだ……」
「侍女に体を洗わせる訳ではないぞ。まぁ貴族にはそうさせている者も多いが、風呂専門の世話係という者がいるのだ。女の場合もいるが男もいる。私は女に触られるのは嫌だから普段は男二人に世話をさせている。男二人と言っても一人は小姓だがな。だからといって、一人で入る事もあるし自分で何もできないという事はない」
小姓ってあれだよね。日本では武将や大名の傍で身の回りの世話をしたりする少年騎士見習いとかもいるらしいけど、夜のお相手とかする男娼の対象だったりもするよね。
「おい、ユリカ。何かよからぬ想像をしていないか?」
「えっ、?」
図星であった。
「私の世話係のジョセフとジョージアは親子だぞ。従者とは別だが、代々王家の身の回りの世話係として仕えてきた家系なのだ」
「えっ?ああ、そういう家系もあるんだ。じゃぁ宰相さんとかキャステルさんみたいに側近の人も代々なの?」
「ドミニクはそうであるが、頭脳が無ければ代々とはならない。それだけマーキュリアル侯爵家の家系が優秀という事だ。貴族に使える家令もだがフリーの者もいて、落ちぶれ気味の家を建て直したりした優秀な者は引き抜かれたりしているようだ」
「おお、ヘッドハンティングされるんだ」
「ヘッド?」
「うん、優秀な人材を今より好条件を提示して引き抜く事を云うの」
「ほう、覚えておこう。ヘッド……ハンティングか。
で、側近だが、通常は幼い頃に将来有望と思われる王子と似たような年齢の貴族の次男などを数人付け、生活を共にさせその中から選ばれる。キャステルの母親は母上とは幼なじみだった。伯爵令嬢で一緒に王妃候補となった。だが、父上が母上に想いを寄せていると知り身を引いてすぐキャステル侯爵と婚姻したのだそうだ。そして第一子、キャステルの兄を産んだ。そして二年後キャステルを身籠ると同時に母上も私を授かった。母上は自分での子育てを望んだが乳の出が悪く、それを聞いたロゼッタが自ら名乗りをあげ、異例ではあるが私の乳母になってくれた。それ故キャステルと私は乳兄弟なのだよ。兄は侯爵家を継ぎ、気心が知れたキャステルが側近となってくれて私は感謝もしているぞ」
「ふふ、それはお二人を見ていて分かります。本当の兄弟みたいだもん」
そんな会話をしていると門からキャンちゃんまでの石畳にカポカポと馬の蹄の音が響いてきた。
「あら、誰か来たみたいよ」
「誰だ?」
湯船の中からシリウスが声を掛けると「キャステルです」と返って来た。
「入っても大丈夫か?」
「どうぞ。キャステルさん」
「なんだ……」
開け放れてあった木戸からひょこっと顔を覗かせたキャステルは、二人の様子を見て呟いた。
「何だとはなんだ?」
「いや、てっきり二人で仲良く入っているかと思ってさ」
「何言ってるんですか!」
「キャステル、ユリカに断られたので仕方なく一人だ。もう構わぬと思わはないか?」
「ん-、その辺は好きにして下さい」
「何だ冷たいな。で、急用なのか?」
シリウスはキャステルからローザリーの到着とその後の様子の報告を受け渋い顔になる。
「全く、何を考えているのだ、あの王女は」
そう言いながら湯船の中からザバッと立ち上った。
「きゃぁぁぁぁ!」
二度までも正面からもろに見せられ友梨香は今度こそ本を投げ出し、キャンちゃんの中へと逃げ込んでいったのだった。
そして思った。
――やっぱり下も金髪で……ご立派でした。
と。
50
あなたにおすすめの小説
元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!
楠ノ木雫
恋愛
貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?
貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。
けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?
※他サイトにも投稿しています。
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?
エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。
文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。
そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。
もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。
「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」
......って言われましても、ねぇ?
レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。
お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。
気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!
しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?
恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!?
※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる