異世界で王城生活~陛下の隣で~

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35王女来訪

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 シリウスの気持ちがユリカに届き婚約発表をする事が決まった。
 夜会迄あと三日となった日、城内はまた騒がしくなった。

 オルビス王国の第二王女ローザリーが予定よりもさらに一日早く到着したからだった。
 普通であれば到着の最低一日前に早馬にて先触れが来る筈なのにそれさえもなかったのだ。
 何度もこの国を訪れている我儘王女の事であるので、グランティア側も王女が早めに出立していると知った時点でそれなりの準備はしていたのだが、結局はまた振り回される結果となった。
 王女は勝手知ったる隣国の王城内をお供の者を引き連れ闊歩していく。

「いつもの部屋の準備はよろしくて?」
「はい、ローザリー王女殿下殿。貴賓室のご用意は整っております」
「よろしい。一休みしたら陛下にご挨拶に伺うと伝えてちょうだい」
「申し訳ございません。王女殿下のご到着は明日となっておりましたので、陛下もそのおつもりでお出迎え予定にしておりました。ですので、本日は夕刻までご予定が入っておりまして」
「今はどこにいらっしゃるの?こちらから会いに行くわ」
「それは……少々お待ちくださいませ。執務室に問い合わせて参ります」

 案内役の女官はそう言い残し王女の元を下がっていった。

「全く予定よりも早く着く事も知らせず、来たら来たで我儘を言いなさる。オルビスの王も甘やかし過ぎでございますな。取り仕切る者も外交官もお付けにならないとは」
「前回無理やり連れて帰られたのであの外交官は外れたのでは?」
「とにかく陛下に知らせますか」
「明日に合わせて今日はキャンちゃんで露天風呂に浸かっておられるのに、こんな報告をお聞きになられたら機嫌を損ねますね」
「確かにそうですが、マーキュリアル宰相殿」

 シリウスの執務室では女官から報告を受けた宰相のドミニク・マーキュリアルと側近のキャステルが頭を抱えていた。
「仕方ない。返事を先延ばしして周りに当たられても迷惑ですから私が王女にお話して、陛下に報告しに行ってきます」
「頼みました、キャステル」

 キャステルはその足で王女の部屋を訪ねた。

「失礼します。陛下側近のキャステル・レイノルドにございます」
「おひさしぶりね。陛下は何処にいらっしゃるの?」
「本日は夜会及び婚約発表の準備が整いましたので、お休み頂いております。夕刻までにはお戻りいただけると思いますので、王女様にはどうぞ長旅の疲れを取りながらお待ちいただきたく存じます」
「婚約発表ですって、うわさでは聞いたけどそんなお相手が急に現れるなんて信じられないわ。まさか、あの侯爵令嬢が?」
「ローザリー姫!」
 王女の後ろから中年の女性が困惑した表情で声を掛けて来た。
「お初にお目に掛かります。わたくしはオルビスの宰相を務めておりますガウザー侯爵が妻フォンティーヌ・ガウザーにございます。以後お見知りおきを」
 ガウザー夫人は丁寧にキャステルに向けカーテシーをする。
「これは、失礼いたしました。陛下の側近を務めておりますキャステル・レイノルドと申します。ガイザー宰相殿の奥方様がご同行されているとは知らず失礼いたしました」
「いいえ、急遽決まった事です。陛下と主人よりローザリー殿下のお目付け役として参りました」
「そうでございましたか。不手際で満足なお出迎えが出来ずに申し訳ありませんでした」
「どうぞ頭をお上げくださいませ。ローザリー殿下の勝手で一日早く入城してしまったこちらの所為ですから」

 どうやら今回は我儘姫様にまともな方が付いて来られたようだと、キャステルは少しほっとしていた。

「なんなの。二人とも私を無視して!」

 イライラを募らせるローザリーが金切り声をあげた。

「失礼いたしました、王女殿下。先ほどの婚約者ですが、エドモンド侯爵令嬢ではございません」
「じゃあ、誰だっていうのよ!」
「それは……三日後に」
「ふん、どうせお飾りみたいなものなのでしょうよ」
「さあ、それは王女様ご自身の目で見ていただければお分かりになられると存じます」
「勿体ぶるなんて失礼よ」
「姫様、いい加減になさいまし。そのような振る舞いは一国の王女として陛下が嘆かれます」
「ん、もうだからガウザー夫人とは一緒に来たくなかったのよ。ちょっとそこのあなた。お茶が冷めたわ、入れ直して!」
「はい、只今」

 ローザリーはふて腐れてメイドに小言を言い八つ当たりしている。

 キャステルはガウザー夫人に話が陛下より王女の再教育係に指名され同行に至った事。そしてオルビス国王陛下より書状を預かって来たとなどを話した。

「我が国の陛下も殿下の我儘ぶりには匙を投げております。グランティア国王陛下におかれましてもご迷惑ばかりをお掛けして参りました。正式なご婚約への祝詞と合わせ、今までの詫び状をも託されて参った次第でございます。わたくしどもはご婚約者様の事を存じ上げませんが、決して殿下の言うようなお飾りではないと信じております。今回の訪問は殿下に陛下を諦めて頂くためであるとグランティア陛下にお伝えいただきたいのです」

「そうでしたか。夫人のような聡明な方が同行して下さったことに感謝します。そちらは私がお預かりし陛下に届けさせていただきます」

「はい、宜しくお願い致します」

 ガウザー夫人は二通の手紙をキャステルに託すと、深々と頭を下げローザリーのいる部屋と戻って行った。
 キャステルは一度宰相の元へ戻り預かった手紙を渡し事情を説明した後、シリウスのいるキャンちゃんへと馬を走らせたのだった。


***************
※更新が遅くなり申し訳ございません。
 まだ暫く続きを書き進めるのに時間が掛かりそうなので、投稿に間が開いてしまいますが、今しばらくお待ち頂けると嬉しいです_(._.)_

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