異世界で王城生活~陛下の隣で~

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46 ジュノアールの帰国 最終話迄のその2

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―― 五日間のキャンちゃんでの生活は快適だった。
 朝風呂につかり簡単な朝食を取り、宰相のドミニクさんに頼まれた公共事業の書類に目を通し「コレはこうした方が」という項目にチェック入れ、アドバイス的な走り書きを付け加えていくだけ。
 昼は王宮からランチをキャステルと従者が届けてくれるので、宰相宛ての書類を預けゆっくりと食事を楽しんでいる。
 午後はキャンちゃんと露天風呂を囲むように張り巡らせされている広大な敷地内を散歩したり。
 あっ、そうそう。キャンちゃんからほんの少し離れた川沿いに新しく離宮が建設され始めたのよ。以前シリウスが言っていた通り、私がこっちに滞在するための建物を本当に作り始めたのにはマジ驚いた。
 でもまぁ、それで使用人の人達も通わずに済むならそれに越したことは無い。
 そうして夜は満天の星を見ながら露天風呂を満喫して眠る。
 あっ、彼は毎晩遅くに私の様子を見に来てお風呂に浸かって帰って行くのよ。
 結構まめな男だったのだと感心してしまったりね(笑)――

 まさに友梨香がこの世界に来て最初に願ったのんびり生活だった。

 ランチを届けに来たキャステルとお茶をしている。ふと、車内の窓に視線を向ければ森の奥に見える山頂が薄っすら雪化粧が施されているのが見えた。

「そういえば、この辺りは雪が積もるほど降らないと陛下が言っていたけど」
「そうですね。降っても温泉の地熱があるのですぐに溶けてしまいます」
「じゃぁ、キャステルさんはそり遊びとかしたことが無いのね」
「ソリ遊びですか。父の懇意にしている辺境伯の領地で一度だけあります。ユリカ嬢は?」
「私は祖父の別荘に行った時にスキーもソリもこれでもかっていうくらいに遊び惚けてた」
「スキーというのは?」
「うんとね、二枚の板に足を乗せて杖で補助しながら雪山を滑っていく的な?」
「へぇ、そんなことが出来るんですか」
「何時か教えてあげるわ」
「なんか楽しそうですね。お願いしたいです。自力で滑るのはいいなぁ。私なんか最後は犬ゾリに乗せられ振り落とされましたからね」
「ぷっ、まじか!」

「あっ、今突然思い出したけど、ここへ初めて来た時に話をしたのはキャステルさんでしたよね」
「ああ、あの時はこの娘は何者だと……」
「怖かったですよ、キャステルさん。首を撥ねるとか言われちゃったし、魔女かとも言って」
「くっ。どうか忘れて下さい」
 後頭部を掻きながら申し訳なそうに眉尻尻を下げるキャステルを無視してユリカは続ける。

「お部屋に入れてくれても陛下の後ろでずっと睨んでるし」
「それはその。不法侵入の疑いのある者を陛下が易々と王宮内入れてしま和得た訳ですから警戒を……」
「それからスマホの画像を見てトレイに行っちゃうし」

「ユリカ嬢/////なっ!」

 友梨香とメアリーアンは顔を見合わせて笑う。
 そんな他愛も?ない会話を毎日しながらの五日間はあっという間に過ぎていた。


「ユリカちゃーん、お待たせ、帰って来たよー!」

 キャンちゃんの外から聞き覚えの声が聞こえて来た。

「ジュノ、お帰りなさい」

 扉開けた瞬間、ジュノアールが哀れみに満ちた顔で友梨香を見て来た。

「ああ、本当に魔石の効果が切れちゃんだね。国を発つ前に魔力入れ直しておけば良かった。ごめんね」

 申し訳なそうに謝るジュノアールは少年の様で、とても友梨香より五つも上とは思えない。

「仕方ないわ。気にしないで」

 友梨香はキャンちゃんに乗り込みソファ座ったジュノアールに熱いココアを差し出した。

「うーんこれ、ココアだっけ?僕好き」
「ふふ、そうだと思ってた。ジュノは甘いものが好きだもんね」

 ジュノアールは魔術師特有の幼く見えるという容姿から何となく学生同士の気分で会話ができるので、友梨香も地のままで話すことが出来た。

「で、黒髪に戻すんでしょう?」
「うん。でも、この色は気に入っていたんだよね」
 片側に緩く三つ編みした髪を前に垂らした友梨香が耳より下の染めていた部分を見ながら淋しそうな表情をしたのを見て、ジュノアールは何か閃いたようで友梨香に小さな声で提案してきた。

「この色の部分を少し切ってとって置くと良いよ。そうすればまた魔石でこの色に見えるようにできるし、鬘も必要ないでしょう?。一日効果とにすれば、お忍びで城下に行く時なんかに使えるじゃん!」
 メアリーアンに聞こえないように耳元でジュノアールが囁くと、暗かった友梨香の顔がぱぁっと明るくなり笑みが零れる。

――おお!何と!

「そうか、そうだよね!ふふふ、お忍びか~楽しみだわ!」
「しっ、アンに聞こえちゃうでしょう?それから僕が勧めたなんて言わないでよ。シリウスに殺されちゃう」
 慌てて目の前で両手を振るジュノアールが可愛い。

「あはは、大丈夫よ。うん、そうするわ。それよりオルビス王国はどうだった?」
「うん、あの国の魔術は凄いと思ったよ。魔術師の数も多い。魔力を持っている人たちも多いからだろうね」
「そうなんだ。私には魔力が無いからさっぱり分からないけど。で、ローザリー王女は?元気だった?」
「あっ、うん。彼女はあのまんま(笑)でも王女様らしいところも見えて楽しかった。僕が帰国する時にはまた一緒にこっちへ来るって騒いで国王陛下とひと悶着あったけどね」
「ぷはは、王女様らしいね。よっぽどジュノの事が気に入ったんだ」

「ちがうよ!ユリカちゃんのデザートが食べたいだけ」

「えっ!?」

 どうやらローザリー王女はジュノを慕ってはいるものの、それよりも友梨香が作る異世界のデザートに嵌ってしまったらしい。
 また面倒なことが起きなければ良いけどと、友梨香はジュノアールの話を聞いて溜息をついた。


「じゃ、そろそろ髪色を戻そうか。その三つ編みを解いてくれる?」
「あっ、うん」
 友梨香が髪に手を掛ける前に後ろから伸びて来たメアリーアンの綺麗な指で丁寧に髪が解かれていく。

「少しだけ切るよ」
「うん、お願いします」
 ジュノアールがミルクティー色の髪を数本つまむと十センチくらいのところを風魔法で切り、飛ばされないようにテーブルの上のカップの下に挟んだ。そしてそのまま呪文を唱え始めると、友梨香の髪が輝きはじめ段々と全体が黒くなっていく。

「まあ、本当に艶があって美しい黒髪ですね!初めて見ましたわ」

 背中の真ん中より長い髪が艶のある黒髪になったのを見てメアリーアンが感嘆の声をあげた。

「ホントだー、これじゃ聖女と言われちゃうわけだね」

 術を解いたジュノアールも目を丸くしてユリカの髪に見入っている。

「私のいた国ではほとんどが黒髪よ。茶色ぽい色の子もいるけど、みんな他の色に憧れて染めて楽しんでいるんだもん」

「「信じられない!」」

「声を揃えて言われてもねぇ……この世界の色とりどりの髪色や瞳の色の方が私には信じられないんですけど」

 友梨香は大学に入って直ぐに染め始めたので、約三年ぶりに真っ黒な髪をした自分が鏡に中にいるのを見て苦笑した。

「この染めていた髪は大事にとって置くんだよ」
 ジュノアールが自分のハンカチに先ほど切った数本の髪を包んで手渡してくれた。

「うん、了解」

「ユリカさま?その髪はもう必要ないのでは」
「あっ、ああ!気に入った色だったから記念にね」
「そうですか……」

 メアリーアンが作り笑顔で答える友梨香を疑いの目で見ていたのは言うまでもないことだった。



***************
※次話最終話は続けて投稿させて頂きます。



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