その幸せ(偽物の)欲しいなら差し上げます。私は本当の幸せを掴むので

瑞沢ゆう

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2「マタニティハイ」

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「悪い冗談はよして」

 最悪な告白にアリーナは割れたティーカップを集めながら必死に怒りを抑えていた。

(このティーカップ高かったのに……)

 そんな事を考えていたアリーナだが、心の奥底では様々な最悪が駆け巡っていた。

 考えれば線が繋がる事ばかりだ。
 ここ一年ほどのレス。
 頻繁に飲みに行く夫。
 朝帰りする事もざらではなかった。

 ミレナが夫を亡くしたのは、ちょうど一年前。その事と最悪な状況がピタリとパズルのようにハマってしまう。

「ごめん、アリーナ」

 ミレナは申し訳なさそうに俯く。その下で、下賎な笑みを浮かべいるは明白だった。

「ごめんで済む事? 最初から話してちょうだい」

 アリーナは拾ったティーカップを捨てると、再び紅茶を淹れ直してから席へと着く。

 この紅茶がなければ、とても冷静でいられる自信はなかった。

「うん、あれはーー」

 おずおずと、しおらしく話し出すミレナに若干の苛立ちを覚えながら、アリーナは黙って話を聞く。
 
 要約すれば、単純で馬鹿らしい事だった。

 一年前に夫を亡くしたミレナ。アリーナとグレンも、落ち込むミレナを何度も励ましに行った。

 三人は子供の頃からの付き合い。幼馴染を思いやるその行為は、当然の事でもあった。

 ただ、男女というのは不思議なもので、友情だと思っていたものが突然恋心に変わる事がある。

 グレンの励ましと甘い言葉。そんなものに傷心のミレナはどっぷりハマってしまったのだ。

 不倫の蜜はとても甘くて濃厚な毒。二人はすっかりその蜜に魅入られ、関係を深めるのに時間はかからなかった。

「あの人、アリーナとは別れるって。でも、私申し訳なくて関係を終わらせるつもりだった……」

 そこに来ての妊娠の兆候。聞けばグレンにもこの事は言ってないという。

 ならば何故来たのか。それはアリーナにとって、もっとも残酷な宣告だった。

「私、この子を産む。だから、グレンと別れて」

 目の前がクラクラするような感覚だった。
 告げられた言葉によって、今まで築いてきた関係がボロボロと崩れていく。

「本気? グレンにも聞かずに」
「あの人は、きっと私の味方になってくれる。だからお願いアリーナ。グレンを私に譲って」

 本人はすっかりその気。

(一人で勝手に動き過ぎでしょ……)

 これが所謂妊娠酔いマタニティハイかと、アリーナは呆れにも近い気持ちになっていた。

「話は分かったわ。とりあえず、グレンも含めて話し合いをしましょう」

 アリーナにとって、それが最大限言える言葉だった。本当だったら、目の前にいる阿保の顔面をひっ叩きたい所だが、相手は妊婦。

 同じ女として、子供を切望していたアリーナに、妊婦を叩く冷徹さはなかった。

「ただいま~」

 そこへ帰ってきたグレン。その声は修羅場が起こっているなど知らず、呑気なものだった。

「アリーナ! 二階? お店閉まってるけど何かあっ……た」

 二階へのほほんと上がってきたグレンは、テーブルへ鎮座する二人の女を見て口を開いたまま硬直。

 それもその筈。
 
 一人は鬼の形相で睨みを効かせ、もう一人は潤んだ瞳で自分を見ている。流石のグレンも、なにがどうなっているのかなんとなく分かってしまった。

「ど、どうしたの二人とも……?」

 恐る恐る尋ねるグレン。その顔は強張り、今にも逃げ出しそうな雰囲気を出していた。

「座りなさい。話があるの」
「わ、分かった」

 アリーナの淡々とした物言いにグレンも観念したのか、大人しく席に着く。

 ただ、座った席がミレナの隣というのが、アリーナの癇に障ったのは言うまでもない。
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