2 / 5
2「マタニティハイ」
しおりを挟む
「悪い冗談はよして」
最悪な告白にアリーナは割れたティーカップを集めながら必死に怒りを抑えていた。
(このティーカップ高かったのに……)
そんな事を考えていたアリーナだが、心の奥底では様々な最悪が駆け巡っていた。
考えれば線が繋がる事ばかりだ。
ここ一年ほどのレス。
頻繁に飲みに行く夫。
朝帰りする事もざらではなかった。
ミレナが夫を亡くしたのは、ちょうど一年前。その事と最悪な状況がピタリとパズルのようにハマってしまう。
「ごめん、アリーナ」
ミレナは申し訳なさそうに俯く。その下で、下賎な笑みを浮かべいるは明白だった。
「ごめんで済む事? 最初から話してちょうだい」
アリーナは拾ったティーカップを捨てると、再び紅茶を淹れ直してから席へと着く。
この紅茶がなければ、とても冷静でいられる自信はなかった。
「うん、あれはーー」
おずおずと、しおらしく話し出すミレナに若干の苛立ちを覚えながら、アリーナは黙って話を聞く。
要約すれば、単純で馬鹿らしい事だった。
一年前に夫を亡くしたミレナ。アリーナとグレンも、落ち込むミレナを何度も励ましに行った。
三人は子供の頃からの付き合い。幼馴染を思いやるその行為は、当然の事でもあった。
ただ、男女というのは不思議なもので、友情だと思っていたものが突然恋心に変わる事がある。
グレンの励ましと甘い言葉。そんなものに傷心のミレナはどっぷりハマってしまったのだ。
不倫の蜜はとても甘くて濃厚な毒。二人はすっかりその蜜に魅入られ、関係を深めるのに時間はかからなかった。
「あの人、アリーナとは別れるって。でも、私申し訳なくて関係を終わらせるつもりだった……」
そこに来ての妊娠の兆候。聞けばグレンにもこの事は言ってないという。
ならば何故来たのか。それはアリーナにとって、もっとも残酷な宣告だった。
「私、この子を産む。だから、グレンと別れて」
目の前がクラクラするような感覚だった。
告げられた言葉によって、今まで築いてきた関係がボロボロと崩れていく。
「本気? グレンにも聞かずに」
「あの人は、きっと私の味方になってくれる。だからお願いアリーナ。グレンを私に譲って」
本人はすっかりその気。
(一人で勝手に動き過ぎでしょ……)
これが所謂妊娠酔いかと、アリーナは呆れにも近い気持ちになっていた。
「話は分かったわ。とりあえず、グレンも含めて話し合いをしましょう」
アリーナにとって、それが最大限言える言葉だった。本当だったら、目の前にいる阿保の顔面をひっ叩きたい所だが、相手は妊婦。
同じ女として、子供を切望していたアリーナに、妊婦を叩く冷徹さはなかった。
「ただいま~」
そこへ帰ってきたグレン。その声は修羅場が起こっているなど知らず、呑気なものだった。
「アリーナ! 二階? お店閉まってるけど何かあっ……た」
二階へのほほんと上がってきたグレンは、テーブルへ鎮座する二人の女を見て口を開いたまま硬直。
それもその筈。
一人は鬼の形相で睨みを効かせ、もう一人は潤んだ瞳で自分を見ている。流石のグレンも、なにがどうなっているのかなんとなく分かってしまった。
「ど、どうしたの二人とも……?」
恐る恐る尋ねるグレン。その顔は強張り、今にも逃げ出しそうな雰囲気を出していた。
「座りなさい。話があるの」
「わ、分かった」
アリーナの淡々とした物言いにグレンも観念したのか、大人しく席に着く。
ただ、座った席がミレナの隣というのが、アリーナの癇に障ったのは言うまでもない。
最悪な告白にアリーナは割れたティーカップを集めながら必死に怒りを抑えていた。
(このティーカップ高かったのに……)
そんな事を考えていたアリーナだが、心の奥底では様々な最悪が駆け巡っていた。
考えれば線が繋がる事ばかりだ。
ここ一年ほどのレス。
頻繁に飲みに行く夫。
朝帰りする事もざらではなかった。
ミレナが夫を亡くしたのは、ちょうど一年前。その事と最悪な状況がピタリとパズルのようにハマってしまう。
「ごめん、アリーナ」
ミレナは申し訳なさそうに俯く。その下で、下賎な笑みを浮かべいるは明白だった。
「ごめんで済む事? 最初から話してちょうだい」
アリーナは拾ったティーカップを捨てると、再び紅茶を淹れ直してから席へと着く。
この紅茶がなければ、とても冷静でいられる自信はなかった。
「うん、あれはーー」
おずおずと、しおらしく話し出すミレナに若干の苛立ちを覚えながら、アリーナは黙って話を聞く。
要約すれば、単純で馬鹿らしい事だった。
一年前に夫を亡くしたミレナ。アリーナとグレンも、落ち込むミレナを何度も励ましに行った。
三人は子供の頃からの付き合い。幼馴染を思いやるその行為は、当然の事でもあった。
ただ、男女というのは不思議なもので、友情だと思っていたものが突然恋心に変わる事がある。
グレンの励ましと甘い言葉。そんなものに傷心のミレナはどっぷりハマってしまったのだ。
不倫の蜜はとても甘くて濃厚な毒。二人はすっかりその蜜に魅入られ、関係を深めるのに時間はかからなかった。
「あの人、アリーナとは別れるって。でも、私申し訳なくて関係を終わらせるつもりだった……」
そこに来ての妊娠の兆候。聞けばグレンにもこの事は言ってないという。
ならば何故来たのか。それはアリーナにとって、もっとも残酷な宣告だった。
「私、この子を産む。だから、グレンと別れて」
目の前がクラクラするような感覚だった。
告げられた言葉によって、今まで築いてきた関係がボロボロと崩れていく。
「本気? グレンにも聞かずに」
「あの人は、きっと私の味方になってくれる。だからお願いアリーナ。グレンを私に譲って」
本人はすっかりその気。
(一人で勝手に動き過ぎでしょ……)
これが所謂妊娠酔いかと、アリーナは呆れにも近い気持ちになっていた。
「話は分かったわ。とりあえず、グレンも含めて話し合いをしましょう」
アリーナにとって、それが最大限言える言葉だった。本当だったら、目の前にいる阿保の顔面をひっ叩きたい所だが、相手は妊婦。
同じ女として、子供を切望していたアリーナに、妊婦を叩く冷徹さはなかった。
「ただいま~」
そこへ帰ってきたグレン。その声は修羅場が起こっているなど知らず、呑気なものだった。
「アリーナ! 二階? お店閉まってるけど何かあっ……た」
二階へのほほんと上がってきたグレンは、テーブルへ鎮座する二人の女を見て口を開いたまま硬直。
それもその筈。
一人は鬼の形相で睨みを効かせ、もう一人は潤んだ瞳で自分を見ている。流石のグレンも、なにがどうなっているのかなんとなく分かってしまった。
「ど、どうしたの二人とも……?」
恐る恐る尋ねるグレン。その顔は強張り、今にも逃げ出しそうな雰囲気を出していた。
「座りなさい。話があるの」
「わ、分かった」
アリーナの淡々とした物言いにグレンも観念したのか、大人しく席に着く。
ただ、座った席がミレナの隣というのが、アリーナの癇に障ったのは言うまでもない。
0
あなたにおすすめの小説
カナリア姫の婚約破棄
里見知美
恋愛
「レニー・フローレスとの婚約をここに破棄する!」
登場するや否や、拡声魔道具を使用して第三王子のフランシス・コロネルが婚約破棄の意思を声明した。
レニー・フローレスは『カナリア姫』との二つ名を持つ音楽家で有名なフローレス侯爵家の長女で、彼女自身も歌にバイオリン、ヴィオラ、ピアノにハープとさまざまな楽器を使いこなす歌姫だ。少々ふくよかではあるが、カナリア色の巻毛にけぶるような長いまつ毛、瑞々しい唇が独身男性を虜にした。鳩胸にたわわな二つの山も視線を集め、清楚な中にも女性らしさを身につけ背筋を伸ばして佇むその姿は、まさに王子妃として相応しいと誰もが思っていたのだが。
どうやら婚約者である第三王子は違ったらしい。
この婚約破棄から、国は存亡の危機に陥っていくのだが。
※他サイトでも投稿しています。
お姉様のお誕生日を祝うのが、なぜ我儘なの?
月白ヤトヒコ
ファンタジー
健康で、元気なお姉様が羨ましかったの。
物心付いたときから、いつも体調が悪かった。いつもどこかが苦しかった。
お母様が側にいてくれて、ずっと看病してくれた。お父様は、わたしのお医者様の費用やお薬代を稼ぐのが大変なんだってお母様が言ってた。
わたし、知らなかったの。
自分が苦しかったから。お姉様のことを気にする余裕なんてなかったの。
今年こそは、お姉様のお誕生日をお祝いしたかった……んだけど、なぁ。
お姉様のお誕生日を祝うのが、なぜ我儘なの?
※『わたくしの誕生日を家族で祝いたい、ですか? そんな我儘仰らないでくださいな。』の、妹視点。多分、『わたくしの誕生日を~』を先に読んでないとわかり難いかもです。
設定はふわっと。
カーテンコール〜完結作品の番外編集〜
凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
完結した作品の番外編を投稿する場所です。
時系列はバラバラです。
当該作品をお読みでないと理解するのが難しいかもしれません。
今後もテーマに沿って思いついた話や、脇キャラの話などを掲載予定です。
※更新頻度は低めです。
※全ての完結作品が登場するとは限りません。
※全て作者の脳内異世界のお話です。
攻略失敗99回目。もう諦めました。
VVV
恋愛
恋愛ノベルゲームの世界に囚われてしまったレイナは悪役ヒーロー・ロワールを99回攻略した。
しかし、レイナはヒロインではない。どんなに努力してもロワールはいっこうに振り向いてくれず、結婚を目前にして99回目の死を迎えた。
ナレーションにゲームオーバーを告げられた時、ようやくレイナの目が覚める。
やっとわかった。
ロワールは私のことなんて絶対に好きにならない。
もういい。あきらめる。
でも最後に一回だけ……自分の好きなように生きたい。
好きなものを食べ、好きなところに行って、欲しいものを買って終わりにしたい。
100回目の人生を過ごしたあと消滅することにしたレイナは初めてロワールに決別を伝えた。
私は消える。これからは思う存分ヒロインを追いかければいい。
なのに。
「レイナ。君は絶対に俺から離れられない。プレゼントを用意した。戻ってこい」
は? 寝ぼけてんの?
わたしたちの庭
犬飼ハルノ
恋愛
「おい、ウェスト伯。いくらなんでもこんなみすぼらしい子どもに金を払えと?」
「まあまあ、ブルーノ伯爵。この子の母親もこんな感じでしたが、年ごろになると見違えるように成熟しましたよ。後妻のアリスは元妻の従妹です。あの一族の女は容姿も良いし、ぽんぽんと子どもを産みますよ」
「ふうん。そうか」
「直系の跡継ぎをお望みでしょう」
「まあな」
「しかも伯爵以上の正妻の子で年ごろの娘に婚約者がいないのは、この国ではこの子くらいしかもう残っていませんよ」
「ふ……。口が上手いなウェスト伯。なら、買い取ってやろうか、その子を」
目の前で醜悪な会話が繰り広げられる中、フィリスは思った。
まるで山羊の売買のようだと。
かくして。
フィリスの嫁ぎ先が決まった。
------------------------------------------
安定の見切り発車ですが、二月中に一日一回更新と完結に挑みます。
ヒロインのフィリスが自らの力と人々に支えられて幸せをつかむ話ですが、
序盤は暗く重い展開です。
タグを途中から追加します。
他サイトでも公開中。
(完結)美貌の妹にねだられた聖女の私は妹の望みを叶えてあげました(全2話)
青空一夏
恋愛
妹はいつも思考が後ろ向きというか、私と比べて少しでも損をしていると感じると駄々をこねる。私は我が儘な妹が苦手で、なにかと譲ってしまう。妹の望みをできるだけ叶えてあげたのよ。そうしたら・・・・・・
青空異世界(独自の設定です)お金の単位は1ダラ=1円。現代日本的表現や調味料、機器など出てくる場合あります。ざまぁ、復讐。前編後編の2話。
【完結済】25年目の厄災
紫
恋愛
生まれてこの方、ずっと陽もささない地下牢に繋がれて、魔力を吸い出されている。どうやら生まれながらの罪人らしいが、自分に罪の記憶はない。
だが、明日……25歳の誕生日の朝には斬首されるのだそうだ。もう何もかもに疲れ果てた彼女に届いたのは……
25周年記念に、サクッと思い付きで書いた短編なので、これまで以上に拙いものですが、お暇潰しにでも読んで頂けたら嬉しいです。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる