その幸せ(偽物の)欲しいなら差し上げます。私は本当の幸せを掴むので

瑞沢ゆう

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3「話し合いの顛末」

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「それでグレン、何か言い訳はある?」

 重苦しい雰囲気の中、最初に口を開いたのはアリーナだった。

 その口調は冷淡で、みなまで言わずとも分かる筈。そんな含みが見える。

「えっと……これは……」

 一方、グレンの口調は歯切れが悪い。バツが悪そうに眉を下げ泣きそうな顔で下を向く。

(情けない男ね。自分がした事でしょ)

 この男はなんて情けないのか。
 
 今まで優しいと思っていた目の前の男は、ただの臆病者だったのだと、アリーナは自分まで情けなってくる気持ちだった。

「自分がした事でしょ! ハッキリ言いなさいよ!」

 バコンッッ!!!!

 我慢出来なかったアリーナが、思わずテーブルを叩く。

「ひっ……」

 すくみ上がるグレンに対して、横に座ったミレナは微動だにしない。こういう時に肝が据わっている女は、完全に覚悟が決まっている。

「アリーナ、あなたが怒る気持ちは分かる。でも、グレンを責めないで。これは、私のせいでもあるのだから」

 じゃあ、あんたを殴ってやろうか。そんな気持ちでグッと拳を握りしめたアリーナだが、ふと冷静になる。

(私、こんな男のために人生を捧げようとしてたの?)

 一旦冷静になると、今まで高まっていた怒りと熱がどんどん下がっていく。

 今まで仲良くやっていた光景が如何に仮初めだったかと気づき「ふっ」という、乾いた笑いがアリーナから溢れる。

「ミレナは少し黙っててくれる? グレン、ミレナは妊娠してるそうよ」
「そ、それは本当なのかいミレナ!?」

 グレンはクルッと、ミレナに振り返り手を取る。

(教えたのは私なんですけど……)

「黙っていてごめんなさい。私、この子を産みたい! あなたとの愛の結晶を!」
「ミレナ……」

 完全に二人の世界に入ってしまったグレンとミレナ。それを見せられたアリーナは、呆れを通り越して疲れさえ感じていた。

「それで、どうする気なの? グレン」

 早く茶番を終わらせたかったアリーナは、最終確認に入った。ここで少しでもアリーナを思う気持ちを見せればまだマシだったが、そうは問屋が下さない。

 さっきまでバツが悪そうにしていたグレンは、ミレナの妊娠を聞き、キリッとしたような顔でアリーナに向き合う。

「こんな事になってすまないアリーナ。でも、俺はミレナを愛してしまった。いや、愛している。だから、俺と別れてくれ」

(気持ち悪い……)

 キッパリ言い放ったグレンに、アリーナの愛情は完全に失われた。それどころか、目の前にいるかつて愛した男が、今では汚物のようにも思えてくる。

「なら、すぐに荷物を纏めて出て行って頂戴」

 それは当然の権利だ。ここはアリーナが父から受け継いだ大事な店。そんな大事な場所に、汚物が居座るのは我慢ならない。

「なに言ってるんだい? 俺とミレナは、ここで暮らすよ?」

 だが、返ってきた言葉は、気が狂ったようなとんでも理論。アリーナの開いた口が塞がらない。

「な、なにそれ? あなた気でも狂った? ここは私の店、別れたらあなたに居座る権利なんてないのよ」
「権利? それならあるさ」

 当然の発言をしたアリーナに、グレンは飄々とした態度で一枚の紙を出した。

「それは……」

 出された紙は、自分の筆跡で名前が書かれ、血判が押された証文だった。

「ここに書いてあるだろ? 自分の愛情がなくなったら、店を俺に譲るって」

 アリーナは頭を抱えた。
 その証文は確かに自分が書いたもの。

 新婚当初でラリっていた時期に、自分の愛を表したくて書いたものだった。

(私の馬鹿っ! なんであんなものっ!)

 当時、酔って書いた事を思い出したアリーナだったが、気づいた時には手遅れ。

 血判が押された証文は、決定的な証拠として効力を発揮する。店の権利をお上に訴えた所で、あの後悔してもしきれない証文一枚で袖にされる事は間違いない。

「これで分かった? 俺はこの店の主としてここに留まる権利があるんだ。でも、アリーナの愛情がまだ残っているというなら、一緒に暮らしても良いよ? ほら、産まれた赤ちゃんのお世話もあるし、妊娠中はミレナに負担をかけされないからね。夜も頼んだよ?」
「グレン。三人で幸せに暮らしましょうね」

 この男は何を言ってるのか。
 そして、この女はどれだけ阿保なのか。

 目の前でイチャイチャとする馬鹿二人を見つめ、アリーナは絶望に堕とされたように崩れ落ちた。

 結果、アリーナがとった行動は一つだった。

(なんで私がこんな目に……)

 沈む夕陽。くたびれた馬車と老馬。
 荷台には少しの荷物と趣味の木工用品。
 手持ちは銀貨二十枚。
 
 銀貨十枚で一月と考えても、二月凌げるぐらいの現金。

 乏しい現実と荷物。
 そして、棘が刺さったようなやさぐれた心で、アリーナは古都を宛てもなく去った。

(絶対に報いを受けさせる……)

 ズタズタになった心を支える復讐心と共にーー

 
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