その幸せ(偽物の)欲しいなら差し上げます。私は本当の幸せを掴むので

瑞沢ゆう

文字の大きさ
2 / 2

2「マタニティハイ」

しおりを挟む
「悪い冗談はよして」

 最悪な告白にアリーナは割れたティーカップを集めながら必死に怒りを抑えていた。

(このティーカップ高かったのに……)

 そんな事を考えていたアリーナだが、心の奥底では様々な最悪が駆け巡っていた。

 考えれば線が繋がる事ばかりだ。
 ここ一年ほどのレス。
 頻繁に飲みに行く夫。
 朝帰りする事もざらではなかった。

 ミレナが夫を亡くしたのは、ちょうど一年前。その事と最悪な状況がピタリとパズルのようにハマってしまう。

「ごめん、アリーナ」

 ミレナは申し訳なさそうに俯く。その下で、下賎な笑みを浮かべいるは明白だった。

「ごめんで済む事? 最初から話してちょうだい」

 アリーナは拾ったティーカップを捨てると、再び紅茶を淹れ直してから席へと着く。

 この紅茶がなければ、とても冷静でいられる自信はなかった。

「うん、あれはーー」

 おずおずと、しおらしく話し出すミレナに若干の苛立ちを覚えながら、アリーナは黙って話を聞く。
 
 要約すれば、単純で馬鹿らしい事だった。

 一年前に夫を亡くしたミレナ。アリーナとグレンも、落ち込むミレナを何度も励ましに行った。

 三人は子供の頃からの付き合い。幼馴染を思いやるその行為は、当然の事でもあった。

 ただ、男女というのは不思議なもので、友情だと思っていたものが突然恋心に変わる事がある。

 グレンの励ましと甘い言葉。そんなものに傷心のミレナはどっぷりハマってしまったのだ。

 不倫の蜜はとても甘くて濃厚な毒。二人はすっかりその蜜に魅入られ、関係を深めるのに時間はかからなかった。

「あの人、アリーナとは別れるって。でも、私申し訳なくて関係を終わらせるつもりだった……」

 そこに来ての妊娠の兆候。聞けばグレンにもこの事は言ってないという。

 ならば何故来たのか。それはアリーナにとって、もっとも残酷な宣告だった。

「私、この子を産む。だから、グレンと別れて」

 目の前がクラクラするような感覚だった。
 告げられた言葉によって、今まで築いてきた関係がボロボロと崩れていく。

「本気? グレンにも聞かずに」
「あの人は、きっと私の味方になってくれる。だからお願いアリーナ。グレンを私に譲って」

 本人はすっかりその気。

(一人で勝手に動き過ぎでしょ……)

 これが所謂妊娠酔いマタニティハイかと、アリーナは呆れにも近い気持ちになっていた。

「話は分かったわ。とりあえず、グレンも含めて話し合いをしましょう」

 アリーナにとって、それが最大限言える言葉だった。本当だったら、目の前にいる阿保の顔面をひっ叩きたい所だが、相手は妊婦。

 同じ女として、子供を切望していたアリーナに、妊婦を叩く冷徹さはなかった。

「ただいま~」

 そこへ帰ってきたグレン。その声は修羅場が起こっているなど知らず、呑気なものだった。

「アリーナ! 二階? お店閉まってるけど何かあっ……た」

 二階へのほほんと上がってきたグレンは、テーブルへ鎮座する二人の女を見て口を開いたまま硬直。

 それもその筈。
 
 一人は鬼の形相で睨みを効かせ、もう一人は潤んだ瞳で自分を見ている。流石のグレンも、なにがどうなっているのかなんとなく分かってしまった。

「ど、どうしたの二人とも……?」

 恐る恐る尋ねるグレン。その顔は強張り、今にも逃げ出しそうな雰囲気を出していた。

「座りなさい。話があるの」
「わ、分かった」

 アリーナの淡々とした物言いにグレンも観念したのか、大人しく席に着く。

 ただ、座った席がミレナの隣というのが、アリーナの癇に障ったのは言うまでもない。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】探さないでください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。 貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。 あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。 冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。 複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。 無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。 風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。 だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。 今、私は幸せを感じている。 貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。 だから、、、 もう、、、 私を、、、 探さないでください。

【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました

よどら文鳥
恋愛
 ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。  ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。  ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。  更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。  再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。  ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。  後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。  ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

【完結】旦那に愛人がいると知ってから

よどら文鳥
恋愛
 私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。  だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。  それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。  だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。 「……あの女、誰……!?」  この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。  だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。 ※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

亡き姉を演じ初恋の人の妻となった私は、その日、“私”を捨てた

榛乃
恋愛
伯爵家の令嬢・リシェルは、侯爵家のアルベルトに密かに想いを寄せていた。 けれど彼が選んだのはリシェルではなく、双子の姉・オリヴィアだった。 二人は夫婦となり、誰もが羨むような幸福な日々を過ごしていたが――それは五年ももたず、儚く終わりを迎えてしまう。 オリヴィアが心臓の病でこの世を去ったのだ。 その日を堺にアルベルトの心は壊れ、最愛の妻の幻を追い続けるようになる。 そんな彼を守るために。 そして侯爵家の未来と、両親の願いのために。 リシェルは自分を捨て、“姉のふり”をして生きる道を選ぶ。 けれど、どれほど傍にいても、どれほど尽くしても、彼の瞳に映るのはいつだって“オリヴィア”だった。 その現実が、彼女の心を静かに蝕んでゆく。 遂に限界を越えたリシェルは、自ら命を絶つことに決める。 短剣を手に、過去を振り返るリシェル。 そしていよいよ切っ先を突き刺そうとした、その瞬間――。

〈完結〉デイジー・ディズリーは信じてる。

ごろごろみかん。
恋愛
デイジー・ディズリーは信じてる。 婚約者の愛が自分にあることを。 だけど、彼女は知っている。 婚約者が本当は自分を愛していないことを。 これは愛に生きるデイジーが愛のために悪女になり、その愛を守るお話。 ☆8000文字以内の完結を目指したい→無理そう。ほんと短編って難しい…→次こそ8000文字を目標にしますT_T

処理中です...