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1「最悪の宣告」
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ここはセンブリア王国の古都デレアーー
古い街並みの中にその店はあった。
道具屋『ラングリア』ーー
店の店主は女性で名を"アリーナ"と言う。
アリーナは母を早くに亡くし、父と二人三脚でラングリアを切り盛りしてきた苦労人。
残念ながら、共に苦労してきた父も病気のため数年前に亡くなっている。アリーナは父から店を引き継ぎ、女だてらにラングリアを支えている。
「アリーナ、この商品は良く売れるからもっと発注した方が良いかな?」
「そうね、グレン。いつもの二割増しで発注しておいてくれるかしら」
そんなアリーナを影で支えていたのが、夫のグレンだった。グレンは元々店の丁稚でアリーナとも子供の頃からの付き合いだった。
二人は自然と惹かれ合い結婚。店を共に切り盛りしていく事を誓ったのだ。側から見ても仲の良い夫婦。ただ残念なのは、未だ子宝に恵まれていないという事だ。
「グレン、今日はどうかしら……?」
夜、夕飯を食べた後にグレンを誘ったアリーナ。そろそろ子供が欲しい。三十歳を迎えたアリーナにとって、そう思うのは自然な事だった。
「ごめんアリーナ。今日は発注先の親父さんと飲む約束をしてて……この埋め合わせは必ずするから!」
そんな事を言って家を出るグレン。
最近同じような事が多々ある。
(最近多くない? 確かに付き合いも大事だけど、私との関係を後回しにするほど? もしかして……いえ、グレンはそんな事しない)
袖にされる事が続き、さすがのアリーナも色々と勘繰ってしまっていた。
ただ、優しくて臆病な夫が、不倫などという不貞に手を染める筈はない。アリーナはそう信じていた。
だが、裏切りとは突然やって来るものだ。
「あら、どうしたのミレナ?」
数週間後。グレンが発注先へ注文に出かけていた所へ来訪者が現れる。三軒隣に暮らしていた幼馴染のミレナだ。
「アリーナ。折言って話があるの」
なにやら深刻そうな顔のミレナに、なんだか嫌な予感がしたアリーナだったが、幼馴染を無碍にも出来ず話を聞く事に。
店には準備中の看板を立て、アリーナは自宅として使用している二階へとミレナを通した。
「紅茶で良いかしら?」
「あ、うん。ありがとう」
アリーナは紅茶が好きだった。香ばしい茶葉の香りを嗅いでいると、どこか心が落ち着く気がする。
「ごめんアリーナ、レモンを垂らしてくれるかしら」
「あら? ミレナ酸っぱいのは苦手じゃなかった?」
「そうなんだけど、最近欲しくなるのよね」
「そう……分かったわ」
嫌な予感が水と共に沸々と沸いてくる。
何故わざわざ来たのか、それもグレンが留守の時を狙って。
ただ、古くからの付き合いだった幼馴染を疑いたくない。アリーナは強張る顔をひとしきり揉んでからテーブルへ着いた。
「それで? 話ってなにかしら」
「実はね……」
アリーナはテーブルの下で震える手をなんとか治めようと必死だった。
(お願いだから最悪の事態にはならないでっ)
そう必死に祈りながら。
だが、運命とは残酷だ。
いくら祈りを捧げようと、歯車は止まらない。
「私、グレンとの赤ちゃんが出来たみたいなの」
パリンッ。
アリーナの持ったティーカップが床へと落ちて砕ける。それは、仲の良かった夫婦を切り裂く暗示のようにも思えた。
古い街並みの中にその店はあった。
道具屋『ラングリア』ーー
店の店主は女性で名を"アリーナ"と言う。
アリーナは母を早くに亡くし、父と二人三脚でラングリアを切り盛りしてきた苦労人。
残念ながら、共に苦労してきた父も病気のため数年前に亡くなっている。アリーナは父から店を引き継ぎ、女だてらにラングリアを支えている。
「アリーナ、この商品は良く売れるからもっと発注した方が良いかな?」
「そうね、グレン。いつもの二割増しで発注しておいてくれるかしら」
そんなアリーナを影で支えていたのが、夫のグレンだった。グレンは元々店の丁稚でアリーナとも子供の頃からの付き合いだった。
二人は自然と惹かれ合い結婚。店を共に切り盛りしていく事を誓ったのだ。側から見ても仲の良い夫婦。ただ残念なのは、未だ子宝に恵まれていないという事だ。
「グレン、今日はどうかしら……?」
夜、夕飯を食べた後にグレンを誘ったアリーナ。そろそろ子供が欲しい。三十歳を迎えたアリーナにとって、そう思うのは自然な事だった。
「ごめんアリーナ。今日は発注先の親父さんと飲む約束をしてて……この埋め合わせは必ずするから!」
そんな事を言って家を出るグレン。
最近同じような事が多々ある。
(最近多くない? 確かに付き合いも大事だけど、私との関係を後回しにするほど? もしかして……いえ、グレンはそんな事しない)
袖にされる事が続き、さすがのアリーナも色々と勘繰ってしまっていた。
ただ、優しくて臆病な夫が、不倫などという不貞に手を染める筈はない。アリーナはそう信じていた。
だが、裏切りとは突然やって来るものだ。
「あら、どうしたのミレナ?」
数週間後。グレンが発注先へ注文に出かけていた所へ来訪者が現れる。三軒隣に暮らしていた幼馴染のミレナだ。
「アリーナ。折言って話があるの」
なにやら深刻そうな顔のミレナに、なんだか嫌な予感がしたアリーナだったが、幼馴染を無碍にも出来ず話を聞く事に。
店には準備中の看板を立て、アリーナは自宅として使用している二階へとミレナを通した。
「紅茶で良いかしら?」
「あ、うん。ありがとう」
アリーナは紅茶が好きだった。香ばしい茶葉の香りを嗅いでいると、どこか心が落ち着く気がする。
「ごめんアリーナ、レモンを垂らしてくれるかしら」
「あら? ミレナ酸っぱいのは苦手じゃなかった?」
「そうなんだけど、最近欲しくなるのよね」
「そう……分かったわ」
嫌な予感が水と共に沸々と沸いてくる。
何故わざわざ来たのか、それもグレンが留守の時を狙って。
ただ、古くからの付き合いだった幼馴染を疑いたくない。アリーナは強張る顔をひとしきり揉んでからテーブルへ着いた。
「それで? 話ってなにかしら」
「実はね……」
アリーナはテーブルの下で震える手をなんとか治めようと必死だった。
(お願いだから最悪の事態にはならないでっ)
そう必死に祈りながら。
だが、運命とは残酷だ。
いくら祈りを捧げようと、歯車は止まらない。
「私、グレンとの赤ちゃんが出来たみたいなの」
パリンッ。
アリーナの持ったティーカップが床へと落ちて砕ける。それは、仲の良かった夫婦を切り裂く暗示のようにも思えた。
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