その幸せ(偽物の)欲しいなら差し上げます。私は本当の幸せを掴むので

瑞沢ゆう

文字の大きさ
3 / 5

3「話し合いの顛末」

しおりを挟む
「それでグレン、何か言い訳はある?」

 重苦しい雰囲気の中、最初に口を開いたのはアリーナだった。

 その口調は冷淡で、みなまで言わずとも分かる筈。そんな含みが見える。

「えっと……これは……」

 一方、グレンの口調は歯切れが悪い。バツが悪そうに眉を下げ泣きそうな顔で下を向く。

(情けない男ね。自分がした事でしょ)

 この男はなんて情けないのか。
 
 今まで優しいと思っていた目の前の男は、ただの臆病者だったのだと、アリーナは自分まで情けなってくる気持ちだった。

「自分がした事でしょ! ハッキリ言いなさいよ!」

 バコンッッ!!!!

 我慢出来なかったアリーナが、思わずテーブルを叩く。

「ひっ……」

 すくみ上がるグレンに対して、横に座ったミレナは微動だにしない。こういう時に肝が据わっている女は、完全に覚悟が決まっている。

「アリーナ、あなたが怒る気持ちは分かる。でも、グレンを責めないで。これは、私のせいでもあるのだから」

 じゃあ、あんたを殴ってやろうか。そんな気持ちでグッと拳を握りしめたアリーナだが、ふと冷静になる。

(私、こんな男のために人生を捧げようとしてたの?)

 一旦冷静になると、今まで高まっていた怒りと熱がどんどん下がっていく。

 今まで仲良くやっていた光景が如何に仮初めだったかと気づき「ふっ」という、乾いた笑いがアリーナから溢れる。

「ミレナは少し黙っててくれる? グレン、ミレナは妊娠してるそうよ」
「そ、それは本当なのかいミレナ!?」

 グレンはクルッと、ミレナに振り返り手を取る。

(教えたのは私なんですけど……)

「黙っていてごめんなさい。私、この子を産みたい! あなたとの愛の結晶を!」
「ミレナ……」

 完全に二人の世界に入ってしまったグレンとミレナ。それを見せられたアリーナは、呆れを通り越して疲れさえ感じていた。

「それで、どうする気なの? グレン」

 早く茶番を終わらせたかったアリーナは、最終確認に入った。ここで少しでもアリーナを思う気持ちを見せればまだマシだったが、そうは問屋が下さない。

 さっきまでバツが悪そうにしていたグレンは、ミレナの妊娠を聞き、キリッとしたような顔でアリーナに向き合う。

「こんな事になってすまないアリーナ。でも、俺はミレナを愛してしまった。いや、愛している。だから、俺と別れてくれ」

(気持ち悪い……)

 キッパリ言い放ったグレンに、アリーナの愛情は完全に失われた。それどころか、目の前にいるかつて愛した男が、今では汚物のようにも思えてくる。

「なら、すぐに荷物を纏めて出て行って頂戴」

 それは当然の権利だ。ここはアリーナが父から受け継いだ大事な店。そんな大事な場所に、汚物が居座るのは我慢ならない。

「なに言ってるんだい? 俺とミレナは、ここで暮らすよ?」

 だが、返ってきた言葉は、気が狂ったようなとんでも理論。アリーナの開いた口が塞がらない。

「な、なにそれ? あなた気でも狂った? ここは私の店、別れたらあなたに居座る権利なんてないのよ」
「権利? それならあるさ」

 当然の発言をしたアリーナに、グレンは飄々とした態度で一枚の紙を出した。

「それは……」

 出された紙は、自分の筆跡で名前が書かれ、血判が押された証文だった。

「ここに書いてあるだろ? 自分の愛情がなくなったら、店を俺に譲るって」

 アリーナは頭を抱えた。
 その証文は確かに自分が書いたもの。

 新婚当初でラリっていた時期に、自分の愛を表したくて書いたものだった。

(私の馬鹿っ! なんであんなものっ!)

 当時、酔って書いた事を思い出したアリーナだったが、気づいた時には手遅れ。

 血判が押された証文は、決定的な証拠として効力を発揮する。店の権利をお上に訴えた所で、あの後悔してもしきれない証文一枚で袖にされる事は間違いない。

「これで分かった? 俺はこの店の主としてここに留まる権利があるんだ。でも、アリーナの愛情がまだ残っているというなら、一緒に暮らしても良いよ? ほら、産まれた赤ちゃんのお世話もあるし、妊娠中はミレナに負担をかけされないからね。夜も頼んだよ?」
「グレン。三人で幸せに暮らしましょうね」

 この男は何を言ってるのか。
 そして、この女はどれだけ阿保なのか。

 目の前でイチャイチャとする馬鹿二人を見つめ、アリーナは絶望に堕とされたように崩れ落ちた。

 結果、アリーナがとった行動は一つだった。

(なんで私がこんな目に……)

 沈む夕陽。くたびれた馬車と老馬。
 荷台には少しの荷物と趣味の木工用品。
 手持ちは銀貨二十枚。
 
 銀貨十枚で一月と考えても、二月凌げるぐらいの現金。

 乏しい現実と荷物。
 そして、棘が刺さったようなやさぐれた心で、アリーナは古都を宛てもなく去った。

(絶対に報いを受けさせる……)

 ズタズタになった心を支える復讐心と共にーー

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)妹の身代わりの私

青空一夏
恋愛
妹の身代わりで嫁いだ私の物語。 ゆるふわ設定のご都合主義。

カナリア姫の婚約破棄

里見知美
恋愛
「レニー・フローレスとの婚約をここに破棄する!」 登場するや否や、拡声魔道具を使用して第三王子のフランシス・コロネルが婚約破棄の意思を声明した。 レニー・フローレスは『カナリア姫』との二つ名を持つ音楽家で有名なフローレス侯爵家の長女で、彼女自身も歌にバイオリン、ヴィオラ、ピアノにハープとさまざまな楽器を使いこなす歌姫だ。少々ふくよかではあるが、カナリア色の巻毛にけぶるような長いまつ毛、瑞々しい唇が独身男性を虜にした。鳩胸にたわわな二つの山も視線を集め、清楚な中にも女性らしさを身につけ背筋を伸ばして佇むその姿は、まさに王子妃として相応しいと誰もが思っていたのだが。 どうやら婚約者である第三王子は違ったらしい。 この婚約破棄から、国は存亡の危機に陥っていくのだが。 ※他サイトでも投稿しています。

お姉様のお誕生日を祝うのが、なぜ我儘なの?

月白ヤトヒコ
ファンタジー
健康で、元気なお姉様が羨ましかったの。 物心付いたときから、いつも体調が悪かった。いつもどこかが苦しかった。 お母様が側にいてくれて、ずっと看病してくれた。お父様は、わたしのお医者様の費用やお薬代を稼ぐのが大変なんだってお母様が言ってた。 わたし、知らなかったの。 自分が苦しかったから。お姉様のことを気にする余裕なんてなかったの。 今年こそは、お姉様のお誕生日をお祝いしたかった……んだけど、なぁ。 お姉様のお誕生日を祝うのが、なぜ我儘なの? ※『わたくしの誕生日を家族で祝いたい、ですか? そんな我儘仰らないでくださいな。』の、妹視点。多分、『わたくしの誕生日を~』を先に読んでないとわかり難いかもです。 設定はふわっと。

カーテンコール〜完結作品の番外編集〜

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
完結した作品の番外編を投稿する場所です。 時系列はバラバラです。 当該作品をお読みでないと理解するのが難しいかもしれません。 今後もテーマに沿って思いついた話や、脇キャラの話などを掲載予定です。 ※更新頻度は低めです。 ※全ての完結作品が登場するとは限りません。 ※全て作者の脳内異世界のお話です。

攻略失敗99回目。もう諦めました。

VVV
恋愛
恋愛ノベルゲームの世界に囚われてしまったレイナは悪役ヒーロー・ロワールを99回攻略した。 しかし、レイナはヒロインではない。どんなに努力してもロワールはいっこうに振り向いてくれず、結婚を目前にして99回目の死を迎えた。 ナレーションにゲームオーバーを告げられた時、ようやくレイナの目が覚める。 やっとわかった。 ロワールは私のことなんて絶対に好きにならない。 もういい。あきらめる。 でも最後に一回だけ……自分の好きなように生きたい。 好きなものを食べ、好きなところに行って、欲しいものを買って終わりにしたい。 100回目の人生を過ごしたあと消滅することにしたレイナは初めてロワールに決別を伝えた。 私は消える。これからは思う存分ヒロインを追いかければいい。 なのに。 「レイナ。君は絶対に俺から離れられない。プレゼントを用意した。戻ってこい」 は? 寝ぼけてんの?

わたしたちの庭

犬飼ハルノ
恋愛
「おい、ウェスト伯。いくらなんでもこんなみすぼらしい子どもに金を払えと?」 「まあまあ、ブルーノ伯爵。この子の母親もこんな感じでしたが、年ごろになると見違えるように成熟しましたよ。後妻のアリスは元妻の従妹です。あの一族の女は容姿も良いし、ぽんぽんと子どもを産みますよ」 「ふうん。そうか」 「直系の跡継ぎをお望みでしょう」 「まあな」 「しかも伯爵以上の正妻の子で年ごろの娘に婚約者がいないのは、この国ではこの子くらいしかもう残っていませんよ」 「ふ……。口が上手いなウェスト伯。なら、買い取ってやろうか、その子を」  目の前で醜悪な会話が繰り広げられる中、フィリスは思った。  まるで山羊の売買のようだと。  かくして。  フィリスの嫁ぎ先が決まった。 ------------------------------------------  安定の見切り発車ですが、二月中に一日一回更新と完結に挑みます。  ヒロインのフィリスが自らの力と人々に支えられて幸せをつかむ話ですが、  序盤は暗く重い展開です。  タグを途中から追加します。   他サイトでも公開中。

(完結)美貌の妹にねだられた聖女の私は妹の望みを叶えてあげました(全2話)

青空一夏
恋愛
妹はいつも思考が後ろ向きというか、私と比べて少しでも損をしていると感じると駄々をこねる。私は我が儘な妹が苦手で、なにかと譲ってしまう。妹の望みをできるだけ叶えてあげたのよ。そうしたら・・・・・・ 青空異世界(独自の設定です)お金の単位は1ダラ=1円。現代日本的表現や調味料、機器など出てくる場合あります。ざまぁ、復讐。前編後編の2話。

【完結済】25年目の厄災

恋愛
生まれてこの方、ずっと陽もささない地下牢に繋がれて、魔力を吸い出されている。どうやら生まれながらの罪人らしいが、自分に罪の記憶はない。 だが、明日……25歳の誕生日の朝には斬首されるのだそうだ。もう何もかもに疲れ果てた彼女に届いたのは…… 25周年記念に、サクッと思い付きで書いた短編なので、これまで以上に拙いものですが、お暇潰しにでも読んで頂けたら嬉しいです。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

処理中です...