悪役令嬢は間違えない

スノウ

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巻き戻った悪役令嬢

好きに生きていいのよ

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「お父様、お母様、どうかダリルを使用人としてこの家で雇ってはもらえませんか?」

「ううむ……」


 お父様は不快な表情こそみせないものの、難しい顔で考え込んでいる。

 前回のわたくしはダリルに否定的だった両親に癇癪を爆発させ、手がつけられなくなったわたくしに両親が折れるカタチでダリルを迎え入れることが決まった。

 わたくしの気まぐれはその時だけの話ではなかったから、両親はわたくしがダリルへの興味を失った頃にダリルを解雇するつもりだったのかもしれない。

 そうならなかったのはわたくしの専属侍女が次々に辞めていき、他の侍女もわたくし付きになりたがらなかったためだ。

 あの時の両親はやむを得ずダリルをわたくし付きの侍女にした。
 女装させられ、言葉を話すことを禁じられたダリルはさぞ生きづらい生活だったことだろう。

 今回は絶対に同じことを繰り返してはならない。


「お願いします。庭師でも雑用係でもいいんです」

「……ジゼット、この公爵家で働く者は誰もがその道のプロなんだ。庭師ひとりを見ても、彼は他家からも度々スカウトを受けるほどの一流のガーデナーだ。素人に勤まる仕事ではないんだよ」

「お父様……」


 わたくし、無意識に使用人の仕事を軽く見てしまっていたのかしら。

 そうよね。庭師に限らず、公爵家で雇われている者は誰もがその道で一流と言われる存在なのよね。

 彼らをバカにしたわけではなかったが、わたくしの言ったことはそういうことなのだろう。


「ジゼット、なにも公爵家で預かる必要はないと思うわ。街には孤児院だってあるし、彼もここでは肩身が狭いのではないかしら」


 お母様がやんわりとダリルを追い出す方向で話を進めようとしてくる。

 でも、客観的に見ればお母様の意見が正しいのだろう。
 ここは公爵家。貴族の頂点ともいうべき家だ。
 今までの暮らしとはまったく違う環境に置かれることは、かなりのストレスになるに違いない。

 ……わたくし、また道を間違えたのかしら。

 ダリルは孤児院に入ったほうが幸せ?

 ……わからない。

 でも、わたくしのところに来るかと訊いた時、ダリルは「行く」と答えた。
 それはまぎれもない事実であり、ダリルが自分で選んだことだ。

 今後ダリルがこの家を出ていきたいと言い出さない限り、わたくしはダリルの希望を叶えたい。


「わたくしはダリルが希望するなら我が家で預かると言い、ダリルは『行く』と答えました。わたくしには約束を守る義務があります」

「ジゼット……」

「どうかわたくしを『嘘つき』にしないでくださいませ」

「しかし、この子どもに何をさせると言うんだい?」

「適性がわかるまではいろいろな仕事を体験させてあげたいと思っています。わたくしの従者にしたい気持ちもありますが」

「!!ならん!それはダメだよジゼット。女性の側に仕えるのは侍女の仕事だ。男の従者をつけるのは外聞が悪いんだ」

「ええ、わかっています」

「……それならいいが。ジゼット、まさかこの子どもに懸想けそうしたわけではないだろうね」


 わたくしはお父様の言葉に耳を疑った。
 違う。そんな浮かれた理由なんかじゃない。

 わたくしは……


「お父様、最初に会った時のダリルは薄汚れた黒い塊でしたよ。御者や執事に訊いてもらえればわかるばずです」

「……それでもジゼットはこの子どもを連れ帰ることにしたんだね」

「ええ。決して顔が気に入ったから連れ帰ったわけではないのです」

「その場に御者がいたなら、どうしてジゼットを止めてくれなかったのかしら」


 ……マズイ。怒りの矛先が御者に向いてしまったわ。


「わたくしが御者に無理を言ったのです。彼を責めないでくださいませ。執事も同様です。すべての責任はわたくしにあります」


 わたくしのこの発言に、両親は感慨深そうな表情になった。


「ジゼット、成長したわね…。わたくしは嬉しいわ」

「……わかった。とりあえず見習いとして公爵家で面倒を見ることにしよう」

「!お父様、ありがとうございます!」

「……ただし、どの仕事にも適性がないとわかれば孤児院に移ってもらうよ」

「それは……はい、わかりました」


 仕事の適性がないのに公爵家に居続けるのは肩身が狭いだろう。

 その時はわたくしのポケットマネーのすべてをダリルに渡し、彼の新しい人生が幸せであることを祈りながら見送るしかない。

 とりあえず話がついたので、わたくしとダリルは退室する。


「ダリル。お父様とお母様にお礼を」

「……ありがとう……?」

「フム、マナーのレッスンは必須のようだな」

「このままでは表に出すのは無理ね」

「………」

「では執事に頼んでおきましょう。お父様、お母様、お忙しい中わたくしの話を聞いていただき感謝いたします」

「いいんだよ。娘の話ならいくらでも聞くとも」

「あなたの成長が見られて嬉しかったわ」


 両親と挨拶を交わし、部屋をあとにする。

 ちょうど通りがかった執事に明日からのダリルの予定を伝え、マナーのレッスンもお願いした。

 ダリルを使用人部屋の前まで送り、「今日はもうゆっくり休みなさい」と言って別れようとしたのだが、去っていくわたくしの背にダリルが言葉を投げかけた。


「ジゼット、は……」

「え?」

「おれに、従者になってほしいのか……?」

「………」


 両親との話し合いでわたくしはうっかり本音をこぼしてしまったが、近くにいたダリルがそれを聞いていないわけがない。

 ……さて、どう答えようかしら。

 わたくしの本音を聞いて、ダリルが自分のやりたいことを諦めなければならなくなるのは避けたい。

 わたくしは静かにダリルを見つめた。


「ダリル。わたくしはあなたが自由に自分のやりたいことをしてくれるのが一番嬉しいわ。無理に従者を目指さなくていいのよ」

「………」

「じゃあね。ゆっくり休みなさい」


 わたくしは今度こそ自室に帰るつもりだったが、そんなわたくしの背中にまたしてもダリルの声がかかる。


「ジゼットは、まるで女神様みたいだ……」

「ダリル……」


 違うのよ、ダリル。
 本当のわたくしはひどい女なの。

 今回ダリルに優しくしているのはあなたへの恩返しのつもりで、決してわたくしが女神のような慈悲深い女だからではない。

 そんな幻想はさっさと捨ててしまいなさい。


「ダリル、わたくしはひどい女なの。性格が悪くてわがままで、皆から嫌われている」

「ジゼット……?」

「だから、わたくしを女神などと言うのはやめなさい。そんなセリフは将来好きになった女性に言うものよ」

「すき……」

「じゃあね」


 今度こそわたくしを引き止める声はかからなかった。

 当然だろう。
 わたくしがどんな女なのかをはっきりと教えてあげたのだから。

 こんな女を女神なんて言うものではないわ。女神様から罰を受けてしまいそう。

 ダリルはわたくしに構わず自分のやりたいことをすればいい。

 それこそがわたくしの望みなのだから。





 翌日、わたくしが目を覚ますと、目の前には専属侍女のスージーがいた。


「!?」

「お嬢様、おはようございます」

「……スージーは何故こんな至近距離でわたくしを見ていたのかしら」

「それは、私が一刻も早くお嬢様に言いたいことがあったからですよ!」

「………何かしら」

「ドレス!誕生パーティーのドレスをお決めになるなら私にもひとこと言ってほしかったんですよ!」

「……?」


 しばらくスージーの言葉の意味を考えたところ、そういえば彼女はドレスのデザインを考えるのが何よりも好きな女性だったことを思い出した。

 わたくしのドレスなのに横から口を出してくることがたびたびあり、スージーには苦手意識が強かったっけ。

 わたくしに限らず、自分のドレスに口出しする侍女は主人にはあまり好まれない。

 前回のわたくしも同様で、スージーには殊更きつく当たってしまったように思う。

 わたくしの侍女を辞めたあとはドレスのデザイナーとして成功したと聞いたような気がするが、本当のところはよく思い出せない。


「そんなにドレスのデザインを考えるのが好きなら、今後はわたくしのドレスのすべてをスージーに一任するわ」

「な……な……」


 わたくしのドレスの趣味は決していいとは言えなかった。
 スージーでなくてもわたくしのドレスにひとこと言いたいと思っていた使用人は多かったのかもしれない。

 わたくしの記憶通りスージーがデザイナーになれるほどの逸材ならば、彼女に一任すれば間違いはないだろう。


「ほ、本当によろしいのですか……?」

「ええ」

「あとで気が変わったなんて言わないでくださいよ?」

「わかってるわ」

「イヤッホーーー!!」


 スージーは公爵家の侍女としてあり得ない態度で喜びを表した。
 相当嬉しかったようだ。


「私、お嬢様に一生ついていきます!!」

「ふふ、嬉しいわ」


 今度は本当にそうなってほしいわね。
 わたくしもいい主人でいられるように頑張らなければ。


 今日は遅れずに朝食の席につき、両親と和やかに朝食をとった。

 朝食のあとはお勉強だ。

 今日も家庭教師が部屋にやってくる。


「先生、今日もよろしくお願い致します」

「では、昨日の復習から始めましょうか」

「はい」


 わたくしは昨日習った通りの所作で一通りの動きをこなした。


「……まだ動きが荒い時がありますが、ひとまずこれで良いでしょう」

「!ありがとうございます」

「しかし、マナーは毎日の積み重ねが大切です。意識しなくてもこれらの動きができるようにならなければなりません」

「う……」

「お返事は?」

「はい、頑張ります」

「よろしい」


 これからはこの動きを普段の生活に取り入れ、意識せずとも洗練された動きになるのが目標だ。

 マナーのレッスンは一旦これで終わり。

 これからは遅れがちだった勉強に力を入れなければならない。


「では今日は歴史のおさらいから───」


 薄々わかっていたことだが、わたくしはまったくと言っていいほど勉強をやる気がなかったようだ。

 覚えているところを探すほうが大変で、これなら最初から授業をやり直したほうがいいと先生に言われてしまった。

 それでもわたくしを見限らず、もう一度最初から付き合ってくれると言うのだから、先生には感謝しなければならないわ。


「先生、これからは授業に真剣に取り組むことを誓うので、わたくしを見捨てないでくださいませ」

「あなたを立派なレディに教育することが私の役目です。ジゼットさんが諦めない限り私はあなたを見捨てたりしませんよ」

「先生……ありがとうございます」


 こうして授業は最初からやり直されることになった。

 覚えることが多すぎて頭から湯気が出そうだ。
 これは、午後からも自主学習をしなければ授業についていけないかもしれない。

 わたくしは教会に行く日を除いて午後を自主学習の時間にあてることに決めた。

 これは、これまで真面目に勉強してこなかったわたくしの自業自得だ。自由時間は捨てておとなしく勉強に励もう。





「……二代目国王エイダン様の功績は……」

「お嬢様!お嬢様!もう朝ですよ!」

「ぇ……?」

「お嬢様、すごくはっきりした寝言を口に出しておられましたよ」

「……そう、気をつけるわ」


 勉強をやり直してから一週間。

 勉強しすぎてとうとう夢の中にまで勉強の内容が出てくるようになってしまった。

 前の人生でこれほど勉強に打ち込んだことは一度もなかった。

 これまでの遅れを取り戻すためにもわたくしは必死で頑張らなければならない。
 

 身支度を整え朝食の席につく。

 食事が始まると、お父様がわたくしに驚くべき報告をした。


「ジゼットが連れてきたダリルという少年だが、どうやらすごい才能の持ち主だったようだよ」
 
「え……?」


 
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