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巻き戻った悪役令嬢
完璧超人ダリル
すごい才能……?
よくわからないけれど、ダリルには何かの才能があったということよね。
よかった。
これで公爵家を追い出されずに済むわ。
「お父様、ダリルは何の才能があったのですか?」
「……全部だ」
「え?」
「ひと通りの仕事をやらせてみたが、そのどれにも適性があるようだ」
「……」
「おそらく、人並み以上に物覚えがいいのだろう。マナーのレッスンも1日で合格したそうだし、他の職種も同様だ」
「……」
くっ、うらやましい!
わたくしにその優秀な頭脳を分けてもらいたいわね。
わたくしなんて、単語ひとつ覚えるだけでどれだけかかるか……
ダリルへの嫉妬がむくむくとわき上がる。
ダメダメ!
ダリルに嫉妬してどうするの!
わたくしが大変なのは自業自得。
コツコツ勉強していくしかないのよ!
よくない自分が顔を出しそうになるのをこらえつつ、お父様に話の続きを促す。
「それで、ダリルはどこに配属されるのですか?」
「それなんだが、実はどの職種の者もダリルのことを高く買っていて、ぜひうちにほしいとダリルの奪い合いが起きているんだ」
「そこまで……」
それほどまでにダリルが優秀だということだろう。
公爵家には優秀な人材が集まっているが、それゆえに後継を見つけるのが困難で、そんな彼らにとってダリルは弟子にするのにちょうどいい人材だったのかもしれない。
あるいは即戦力として求められている可能性も高いわね。
「ええと、それならダリル本人に決めさせては?」
わたくしがそう提案すると、お父様は苦虫を噛み潰したような顔になった。
「ダリルはジゼットの侍女になりたいそうだ」
「ぶほッ」
「ジゼット、お行儀」
「……申し訳ありません、お母様」
「まあ、ジゼットのその反応も無理はないがな」
「お父様、ダリルは本当にそんなことを?」
「ああ、間違いない。ダリルはジゼットの許可はもらっているといっていたが」
「え?」
わたくし、そんなことを言ったかしら。
言ってないわよね。
確かあの時のダリルは、わたくしの返答次第ではわたくしの従者になりそうな様子だったはず。
そうなることを望まないわたくしは、自分がいかにひどい女であるかをダリルに語って聞かせたのよ。
そして、ダリルには自分が望む仕事に就いてほしい───って、まさかそのこと!?
「ジゼットに覚えがないなら、ダリルがでまかせを言ったのだろうか」
「い、いえ、違います!ダリルは嘘を吐いていませんわ」
「では」
「ですが、ダリルにわたくしの侍女になれとも命じておりません」
「ジゼット、どういうことなの?」
「……ダリルには、自分の望むことを自由にすればいいと言いました。そして、彼はその通りに行動したのかもしれません」
「「……」」
両親はわたくしの言葉に絶句している。
でも、それも仕方のないことよね。
わたくしの言うことが事実なら、ダリルは自分からすすんで女装したいと言っていることになるもの。
いえ、正確にはわたくしの侍女になりたいと言っているだけで、女装したいとは言ってないけれど。
………侍女になるには女装するしかないのでは……?
「……お父様、ダリルが本当にわたくしの侍女を望んでいるのなら、わたくしは彼の望みを叶えてあげたいと思います」
「……少し時間をくれないか。これはすぐに決められるような案件ではないよ」
「ええ、もちろんですわ」
この件はお父様の判断に委ねられることとなった。
まさか、ダリルが今回もわたくしの侍女を望むとは思わなかった。
大抵の男にとって女装は恥ずかしいという認識だろうと思っていたけれど、そうではないのかしら。
女装への忌避感がないなら、ダリルがわたくしのそばにいてくれることは素直に嬉しいと思う。
実際に侍女の格好をしてみたら嫌だと思う可能性もあるから、あまり喜び過ぎないようにしないとね。
あくまでもダリルの望みが最優先よ。
その後、お父様はダリルと面談し、彼が間違いなくわたくしの侍女を望んでいることを知ると、お父様はダリルにいくつかの条件をつけたそうだ。
まず、ダリルはわたくしとふたりきりにならないようにすること。
ダリルは女装していようと男は男。
これは外聞の問題ではなく、父親として愛娘とふたりきりにはさせられないそうだ。
ダリルのほかにもう1人別の侍女をつけることになると言っていた。
次に、ダリルは女装と侍女の仕事を完璧にこなせるようになるまで外出禁止。
これは別にダリルを監禁するなどという目的ではなく、ダリルが中途半端な女装で外に出ると、勘のいい人間に見破られる可能性があるためだ。
わたくしに付いて外出するなら、女装だと見破られるわけにはいかない。
そして、侍女の仕事も完璧にこなせなければ公爵家の評判にかかわる。
しばらくは侍女頭の厳しい指導が待っているそうだ。
最後は、公爵家の私的な空間では従者の格好をしてもよい。
来客をもてなす場合などを除き、基本的に公爵邸の中では女装しなくても良いそうだ。
これは、同じ男としてのお父様の温情だろう。
四六時中女装させるのはあんまりだと思ったのでしょうね。
この決定にはわたくしもホッとしたわ。
そして、ダリルに他の職種から要望があった場合はできれば手伝ってほしいそうだ。
これは強制ではなく、手伝った分だけ給金に加算されるそうだ。まあ、それは当然よね。
これは未だにダリルを弟子にと望む者が多いため、折衷案としてお父様が考えたのでしょう。
……ダリルが過労死しないか心配だわ。
わたくしが見張っていたほうがいいかもしれないわね。
ダリルが正式にわたくし付きになるまではまだ時間がかかりそうだ。
わたくしは自分がやるべきことをしっかり頑張り、気長にダリルを待つことにしましょう。
「お嬢様、素晴らしいです!これならアルフレッド殿下からの視線も独り占めですね!」
「……どうしてこんなことに」
「ジゼット様、よくお似合いですよ」
「ダリル……」
今日は待ちに待ってないアルフレッド殿下の誕生祝いに出席する日だ。
マナーについては家庭教師から合格をもらえたので問題ないと思う。
そして、本日からダリルがわたくしの専属侍女として働くことになった。
侍女としての働きは問題ないと侍女頭からのお墨付きをもらっている。
さらには公爵家の護衛から主人を守る戦いの方法を教わっているらしく、今回は侍女兼護衛としてわたくしに付くことになったわけだ。
前回同様、ダリルの侍女姿は女性にしか見えない。所作も完璧だ。
今は普通の声だが、女性のような高い声も出せるようになったそうだ。
これなら勘の鋭い者にも気づかれることはないだろう。
問題はわたくしだ。
正確にはわたくしではなくわたくしのドレスだ。
おとなしい色とデザインで注文したはずだが、何故か目立つ。
色は確かに落ち着いた色だし、デザインも奇抜というわけではない。
なのに何故か目立つのだ。
「どうしてこんなに目立つのかしら」
「それは、このドレスがお嬢様のための特注品だからですよ!」
「スージー、あなた何か知っているの?」
「嫌ですよ、お嬢様!もうお忘れになったんですか?」
「え?」
「お嬢様のすべてのドレスは私に一任してくださるという約束ですよ」
「もちろん覚えているわ。──まさか」
「このドレスも私がきっちりデザインさせていただきましたよ。色とデザインは控えめですが、お嬢様の真っ赤な髪と合わせると両方の良さが際立つように頑張りました」
「………」
スージーの才能は本物だったようだ。
とても素人のデザインとは思えない。
わたくしの注文に沿いつつも、きっちり個性を出してきている。
本来ならスージーの働きを褒めてあげたいところだけれど、わたくしは目立ちたくないのよね……
かといって、今さら別のドレスを用意できるわけもない。
それに、わたくしのために頑張ってくれたスージーは決して悪くないのだ。
「スージー、わたくしのために頑張ってデザインしてくれてありがとう」
「!!ど、どういたしまして!」
スージーはお手洗いに行くと言って走っていった。
このふるまいは公爵家の侍女としては失格なのだが、彼女の目には涙が滲んでいたから、きっと努力が報われたことが嬉しかったのだろう。
わたくしは微笑ましい気持ちでスージーの背中を見送った。
「ジゼット様は目立つことがお嫌いなのですか?」
「ダリル……」
執事から敬語を学び、言葉づかいが改善されたダリルがわたくしに話しかける。
わたくしの様子がおかしいことはダリルの目にも明らかだったようだ。
「目立つこと自体は嫌いではないの。でも今回は別。ここだけの話、わたくしはアルフレッド殿下の目に留まりたくなかったのよ」
気を許した相手だからか、ついついダリルに対しては本音が口をついて出てきてしまう。
「今回のパーティーはアルフレッド殿下のお誕生祝いだそうですね」
「そうよ。わたくしはこのパーティーを目立つことなく静かに終わらせたかったの」
「殿下のことが、お嫌いなのですか?」
「ふふ、直球ね。わたくし以外の人に言うと大変なことになるから控えなさい」
「申し訳ありません」
「いいのよ。……殿下のことは、今はもう何とも思っていないの。ただ、できれば関わりたくないと思っているだけ」
「ジゼット様……」
「ジゼット、用意はできましたか?」
「おおジゼット!なんて美しい……」
両親がわたくしの様子を見にやってきた。
スージーはいつの間にか戻ってきている。
どうやらもう出発の時刻のようだ。わたくしは両親に簡潔に返事をする。
「お母様、お父様、わたくしはいつでも出発できますわ」
「ではそろそろ出発しましょうか」
「ジゼット、パーティーで悪い男に拐われそうになったら、すぐに大声で助けを呼ぶんだよ?」
「ふふ、その時はお父様が守ってくださるのでしょう?」
「もちろんだとも!!」
お父様の心配性なセリフを聞きながら、家族全員で馬車に乗り込んだ。
使用人達は一部の侍女を除き後続の馬車に乗る。
護衛達は馬で並走することになっている。
馬車は王都に向けて走り出した。
公爵領は王都のある直轄領に隣接しているため、何日もかけて馬車を走らせなくて済む。
わたくしが両親と談笑しながら馬車の旅を楽しんでいるうちに、馬車はいつしか王都のタウンハウスに到着していた。
わたくし達は王都の公爵邸で軽食をとり、身だしなみを整えた後、再び馬車に乗り込み王城を目指した。
公爵家の家紋が入った馬車は煩わしい検問を免除され、門をくぐって王城前に到着した。
「さあ、着いたよ。ジゼットは王城に来るのは初めてだから、迷わないようにしっかり着いてくるんだよ」
「はい、お父様」
「ジゼット、迷わないようにわたくしと手を繋ぎましょう」
「お母様……ありがとうございます」
王城に来るのは初めてだが、わたくしは王城内部を熟知している。
前回の人生ではアルフレッド殿下に一目惚れし、殿下に会いにたびたび王城に突撃していたからだ。
最初の頃は笑顔を取り繕っていた殿下も、だんだんと迷惑そうな表情を隠さなくなっていった。
わたくしはそれを打ち解けてきた証拠だと好意的に解釈していたが、それは自分に都合のいい解釈でしかなかった。
大丈夫ですよ、殿下。
今回は絶対に殿下に会いに行ったりしませんから。
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