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波乱の王立学園
ようやく15歳
しおりを挟むあれから特に変わった事もなく時は過ぎ、わたくしは15歳になった。
15歳といえば王立学園の入学試験がある年である。
わたくしは猛勉強が実を結び、無事入学試験に合格することができた。
今回の試験には手応えを感じていたため、合格通知が届いた時も素直に喜ぶことができた。
そうでなければ、また両親が寄付金を積んだのかと疑ってしまうところだった。……危ないところだったわ。
「ジゼットさん、合格おめでとう。あなたはもう立派なレディです。これからは自信をもって学園生活を送ってください」
「先生……長い間ご指導ありがとうございました」
「元気でね、ジゼットさん」
「はい。先生もお元気で」
家庭教師の先生は長い契約期間を終え、公爵家を後にした。
先生の厳しい指導があったからこそ今のわたくしがある。
先生には本当に感謝しているわ。
わたくしは去っていく先生の背中にもう一度深く頭を下げたのだった。
今日は王立学園の入学式だ。
わたくしにとってこれは二度目の入学式であり、ここは通い慣れた学園ではあるのだが、わたくしはどこか新鮮な気持ちで入学式に臨んでいた。
「お嬢様、頑張ってくださいね!」
「応援してますからね!」
「アンナ、スージー、見送りありがとう。寮の片付けは任せたわ」
「「はい、おまかせください!」」
そう。今回のわたくしは最初から寮暮らしを選択することにしたのだ。
理由はいろいろあるが、一番は両親への甘えを捨て、自立するためだ。
家庭教師がいなくなった今、わたくしを厳しく叱ってくれる人間はもういない。
ここから先は自分で自分を厳しく律していかなくてはならない。
もう二度と、前回のような最期を迎えないために。
学園の門の前でアンナ達と別れたわたくしは、入学式の会場を目指して歩いていた。
さきほど見送りのなかにダリルがいなかったのは、今日は用事があるからだそうだ。
最近、ダリルは時々仕事を休んでどこかへ行っているようだ。
アンナ達は理由を知っているようだが、何故かわたくしには教えてくれない。
まあ、悪いことをしているわけではないようだし、ダリルには好きなことをしてほしいと思っているので、余計な口出しはしないようにしている。
「確か、あそこが会場だったわね」
わたくしは会場に足を踏み入れる。
案内係に名前を聞かれ名を名乗ると、席まで誘導してくれる。
「感謝します」
案内係にお礼を言うと、彼は顔を赤くしながら逃げていった。
……え、わたくし、逃げられるようなことをしたかしら。
いいえ、きっと急いでいたのよね。なんだか熱があるような様子だったし。
自分を無理やり納得させ、指定された席に座る。
「ジゼット様」
「あら、メアリー様」
偶然にもわたくしの隣には伯爵令嬢のメアリー様が座っていたようだ。
わたくし達は挨拶を交わし、再会を喜びあった。
「この席順、どういった基準で決められているのかしら」
ふと疑問に思って呟くと、メアリー様が小声で答えを教えてくれる。
「クラス順、もっと言えば成績順のようですわ」
「え、成績順?」
つまり、入学試験の点数が高い順ということだろうか。
わたくし達は最前列にいるため、おそらく成績は上位だったのだろう。
あまり周りをキョロキョロと見回すのはマナーが良くないため、正確な順位まではわからないけれど。
「メアリー様は物知りですわね」
「ふふ、わたくしには兄がいますから。兄は学園の卒業生なのです」
「まあ、そうだったの」
なるほど。それなら学園のことにも詳しいわけね。
……でも待って。
わたくし二回目の学園生活なのに、前回はそんな情報一度も聞いたことがなかったわよ。
前回のわたくし、本当にアルフレッド殿下のことしか頭になかったのね……。
無駄な二年間を過ごしてしまったわ。
「ここだけの話ですが、お金で入学を勝ち取った方々は一番後ろの席にされるようですわ」
「!!」
……危なかった。
もう少しで大声を出してしまうところだったわ。
メアリー様が言っているのは、寄付金のことよね。つまり、前回のわたくしのことだわ。
「……っ」
……わたくし、最初から皆にバレバレだったということね。まったくもって公爵家の恥だわ。
前回のお父様、お母様、本当に申し訳ありませんでした。
今回はわたくしのように寄付金を積んで入学した人はいないと思うけれど、もしいるとすれば、全生徒にそのことが知れ渡るということだ。
これから先の貴族生活に支障が出るのは確実でしょうね。
わたくしが顔を青くしていると、入学式が始まった。学園長が壇上に上がり、お祝いの挨拶を始める。
──とその時、最後列にいた新入生が突然立ち上がり、大声でわめきだした。
「おい!第一王子である私が何故こんな後ろの席に座らされるんだ。おかしいだろう!」
「……」
あたりがしんと静まる。
……アルフレッド殿下、あなた、最後列にいたんですね。
ということは、殿下は寄付金を積んで入学したことになる。これは王家の恥と言われても仕方がないことではないかしら。
というかこの学園、王族であろうと容赦ないわね。
入学は許可するが、試験に合格できなかった事実は誰であろうと隠させてくれないスタンスのようだ。
わたくしが考え事をしている間も殿下のわめき声は続いている。
「さっさと私の席を最前列に用意しろ。誰かが席を譲れば済むことだろう。早くしろ!」
「殿下、いえ、アルフレッド君。ここでは王族の権力は行使できない決まりですよ。諦めてその席に座りなさい」
「なんだと!?」
学園長が壇上から殿下をたしなめるが、殿下のほうは納得していない様子だ。
アルフレッド殿下…入学式を台無しにしているのがわからないのかしら。このままでは一向に式が進まないわ。
わたくしがそう思ってため息を吐いた時、わたくしのふたつ先に座っていた新入生が静かに立ち上がった。
「兄上、私の席にお座りください。私がそちらに座ります」
「コーネリアスか……まあいい。さっさと席を譲れ!」
「……ええすぐに。学園関係者の皆様、式を中断してしまい、申し訳ありませんでした」
コーネリアス殿下は会場の皆に謝罪の言葉を述べた後、最後列に移動した。空いた席にはアルフレッド殿下が悪びれもせずに着席する。
「えー、新入生の皆さん。ご入学おめでとうございます。本日は──」
学園長が何事もなかったかのように話を始め、ようやく入学式が始まった。
学園長の話を聞きながら、わたくしは内心ひどく動揺していた。
コーネリアス殿下、何故ここにいるの……?
前回の学園生活では、コーネリアス殿下は一学年下、つまり後輩だったと記憶している。
年齢的には今の時点で入学が可能な15歳に達しているはずだが、前回は一年遅れて入学していたはずだ。
前回と今回。違うことといえば、コーネリアス殿下が王太子になった事だろうか。
前回はコーネリアス殿下の立場が弱かったため、王妃からの圧力で入学を遅らされていたのかもしれない。
だって、アルフレッド殿下は入学試験に不合格になる程度の学力なのよ?
コーネリアス殿下が最前列に座っていたということは、上位の成績で入学したということだ。
ふたりが同学年だった場合、どうしても周りから比べられてしまう。
それを嫌がった王妃、もしくはアルフレッド殿下自身の要求により、コーネリアス殿下は一年遅れて入学したのだろう。
……あくまでもこれは推測に過ぎないけれどね。
今回のコーネリアス殿下はれっきとした王太子であるため、さすがの王妃も正当な理由もなく入学を遅らせることはできなかったのだろう。
パチパチパチ パチパチパチ
大きな拍手が鳴り響き、我に返る。
どうやら学園長の祝辞が終わったようだ。
わたくしは慌てて拍手に混ざる。
「次は新入生挨拶。新入生代表ダリル・ギムソン君」
「はい」
最前列の一番端に座っていた新入生が立ち上がり、壇上に上がる。
「え……?」
わたくしは目の前の光景を信じられない思いで見つめていた。
だって。壇上にいるのはわたくしがよく知っている人物だったから。
そしてその人物は、今ここにいるはずのない人物だったのだから。
「ダリル……?」
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