悪役令嬢は間違えない

スノウ

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波乱の王立学園

貴族なダリル




「ダリル……?」


 いくら瞬きを繰り返しても、見える景色は変わらない。

 ダリルだ。どう見てもダリルだわ。

 ここは貴族のための学園であり、平民は入学できないはずだ。
 それなのに、どうしてダリルがここにいるのかしら。それに──

 新入生代表ということは、ダリルは首席だということよね。いつ入学試験を受けたのかしら。
 ううん。そんなことより何故平民のダリルが入学試験を受けさせてもらえたかのほうが重要だろう。

 そういえば先程、ダリルは家名を呼ばれていたような気がする。
 まさか、ダリルは貴族だったの?
 ……わからない。何もわからないわ。


 パチパチパチ パチパチパチ


 なんてこと!驚きすぎてダリルの挨拶を聞き逃してしまったわ。一生の不覚。

 わたくしは悔しい気持ちをひた隠しにしながら拍手を送った。
 ダリルが壇上から降り、席に戻る。

 ダリルが着席する瞬間、一瞬だけわたくしと目が合ったような気がした。
 しかし、そんなことは関係ないとばかりにアルフレッド殿下が再びわめき出す。
 

「おいお前、見ない顔だな。首席だかなんだか知らないが、私より目立つことは許さんぞ」

「申し訳ありません」


 アルフレッド殿下の俺様発言に、ダリルがまったく心のこもっていない謝罪を口にする。
 

「そこ、静かにしなさい」


 学園長がアルフレッド殿下を注意する。
 しかし、殿下がおとなしく注意を受け入れるはずがない。


「私はコイツに自分の立場というものをわからせてやっただけだ。邪魔をするな」

「立場というなら、今の君は学園のいち生徒に過ぎません。わきまえなさい、アルフレッド君」

「なっ……」

「それでも式の進行を邪魔するというなら、君の入学資格を取り消すことになりますよ」

「──クソッ、クソッ!!」


 アルフレッド殿下は自分が座っていた椅子を蹴飛ばし、肩をいからせながら会場を出ていった。

 わたくしはなんとも言えない表情で殿下の後ろ姿を見送った。
 いくらなんでもあれはひどすぎる。まるでスラム街のゴロツキのようだったわ。

 会場からはお祝いムードなどすっかり消え失せてしまっている。
 もうこれで解散してもいいような気がするが、学園としてはそうもいかないのだろう。

 それからは地獄のような静寂の中、粛々と入学式は進められた。
 入学式が終わった時は会場全体から安堵のため息が聞こえてきたほどだ。


「それでは、掲示板の案内に従い、それぞれのクラスに移動するように。解散!」


 ……クラス分け。そういえばそんなのもあったわね。

 わたくしは新入生達が集まっている掲示板の前に移動した。


「ええと、わたくしの名前は……」

「ジゼット様は特別クラスですわよ」

「メアリー様」


 いつの間にかわたくしの隣に来ていたメアリー様の言う通り、わたくしの名前は特別クラスのところにあった。

 特別クラス……前回の時と同じクラスだけど、今回は実力で勝ち取った評価のはずだ。ありがたく受け入れましょう。


「ええと、特別クラスは他に……っ、ダリル」


 掲示板にはダリル・ギムソンの名前があった。ダリルも特別クラスのようね。
 首席合格者だもの、当たり前か。

 それにしても『ギムソン』か。
 ギムソンといえばバーバラ様の家名であるギムソン侯爵家しかいないはずだけど、これはいったいどういうことかしら。

 
「ジゼット様、早く教室に行きませんと」

「あ…?え、ええ、そうね。メアリー様はどのクラスですの?」

「わたくしも特別クラスですわ。さあ、急がないと遅れてしまいますよ」

「わかったわ」


 本当はわからない事だらけだが、今は考えている時間はないようだ。

 わたくしは、成長して気弱さがなくなったメアリー様に引っ張られるように特別クラスまで移動した。


「……わたくし達が最後のようね」

「空いているのは一番後ろの席ですわね。さあ、行きましょう」

「ええ」


 席順は特に決められていない。それぞれが好きな場所に座っていいことになっている。

 わたくしとメアリー様が着席すると同時に教室のドアが開いた。入ってきたのはこのクラスの担任だ。

 茶髪で長身。少し軽薄そうな見た目だが、この先生について覚えていることはあまりない。


「よーし、全員いるな。今回は元気すぎる奴が混ざっているから心配してたんだが」


 先生がひとりの生徒に目を向ける。
 つられてわたくしも目を向けると、そこにはアルフレッド殿下らしき人物の後ろ姿があった。
 殿下は一番前の席に堂々と座っている。

 ……殿下、今回も特別クラスなんですね。

 殿下がここにいるのは前回のわたくしと同じ理由だろう。
 すなわち、寄付金を積んで入学した者として『特別』なクラスに入れられたのだ。殿下はわかっていないだろうけれど。


「なんだ。私に何か言いたいことがあるのか?」

「いいや。では説明を始めるぞ。まず俺の自己紹介からだ。俺の名はカムラン。この特別クラスの担任だ。これからよろしくな」


 パチパチとまばらな拍手が送られ、やがておさまる。


「最初に言っておくが、この学園では皆ひとりの生徒として平等に扱う。身分をひけらかしたり、下の身分の者に無理な要求をしないように」


 アルフレッド殿下以外の全員が頷く。

 アルフレッド殿下は納得していないようだが、学園長の脅しが効いているのか、面と向かって先生にたてつくことはしなかった。


「それに伴い、アルフレッド殿下とコーネリアス殿下の敬称を君、もしくは様に変えるように」

「……チッ」


 今度は耐えきれなかったようで、アルフレッド殿下…いえ、アルフレッド様の口からは短い舌打ちの音が漏れる。
 入学式で耐性がついたのか、誰もそのことに驚かない。

 わたくしは先生の発言に内心吃驚していた。

 前回の学園生活では、わたくしはアルフレッド様のことを『アルフレッド殿下』と呼び続けていた。
 きっと担任のカムラン先生は最初に今と同じ説明をしてくださっていたはずだが、わたくしは聞き流していたようだ。


「次に、このクラスの説明をする。この特別クラスは入学試験の成績が特に優れていた者達が集められたクラスだ。……まあ、一部例外はあるが」


 アルフレッド様以外の全員が例外について心当たりがあるようで、誰も先生の発言に首を傾げる者はいなかった。

 寄付金を積んでの入学って、裏では結構有名な話なのかしらね。


「特別クラスには様々な優遇措置がある」


 ここからは長々と先生の説明が続く。

 要約すると、特別クラスは授業料と食堂の料金、そして寮の使用料が免除される。

 そしてなんと、特別クラスは授業への出席義務がない。
 出席日数が足りなくても、試験の点数が問題なければ進級できる。

 前回のわたくしはこれに味を占め、ほとんど授業に出席せずに遊び暮らしていた。
 殿下を見つけては追い回し、その度に冷たくあしらわれていたわね。

 ……やめましょう。前回のことはあまりいい思い出ではないもの。
 
 とにかく、この優遇措置を使えば試験日以外は登校しなくても卒業できるということだ。
 試験の結果次第ではあるけれど。

 今回は真面目に授業を受けるつもりではあるが、病気や怪我で出席日数が足りなくても進級できるのは安心感がある。


「明日から授業が始まるが、特別クラスはおそらく全員出席することは稀になるだろう。だから今日のうちに自己紹介をしてもらうぞ。では前から順番に頼む」


 先生がいきなり自己紹介を要求したことで、教室内がざわつく。
 そんななか先陣をきって自己紹介を始めたのは、やはりあの人だった。


「では最初は私からだな。私はアルフレッド・ファルザム。この国の第一王子だ。まあ、知らない者などいないと思うがな。みな、私に話しかける時は立場をわきまえるように」

「アルフレッド君、それはダメだと言っただろう」

「ふん。私は『わきまえるように』と言っただけだ。具体的に何かを強制したわけではない」

「はあ、まったく。皆、あまり気にするなよ。何かを強制されそうになったら俺に言えー。じゃあ次」


 アルフレッド様の発言に先生がフォローを入れ、自己紹介は次の人へ。
 立ち上がったのは緑色の髪の男子生徒だ。


「クロフォード・ヘイリーだ。伯爵である父の後を継ぎ、いずれヘイリー伯爵家の当主になるつもりだ。皆、これからよろしくお願いする」


 パチパチパチ パチパチパチ

 アルフレッド様の時とは違い、普通に拍手が送られる。クロフォード様は小さく頭を下げ、着席した。


「次」

「……ダリル・ギムソン。よろしく」

「おいおい、ダリル君。他に何かないのか?」

「特には」

「はぁーー。わかった。皆、ダリル君は首席合格者だ。彼を目標に勉強に励むといい」


 簡潔すぎる自己紹介に、思わず先生が補足説明を加える。ダリルはそのまま着席した。

 ……ダリル、本当にどうしちゃったの?
 あなたがここにいる理由を知りたいのに、今の自己紹介では何もわからないわ。
 

「次」

「コーネリアス・ファルザムと申します。ファルザム王国の王太子ではありますが、この学園にいる間はクラスメイトとして気軽に接してくれることを望みます。みなさん、よろしくお願いします」


 パチパチパチ パチパチパチ

 コーネリアス様の自己紹介にアルフレッド様以外の生徒が拍手を送る。アルフレッド様は面白くなさそうな態度だ。


「次」


 先生に促されて立ち上がったのは、ここにはいないはずのご令嬢だった。



 
 
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