銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 今日はとてもいい天気だ。窓から射し込む陽が暖かくて心地がいい。風もなく穏やかな庭の様子を眺めていたら外を歩きたくなった。
 僕は机に向かって書類を見ているラズールを振り返る。
 
「ラズール、庭に出たい。いい?」
「いいですよ。ここ数日で一気に暖かくなりましたからね。少し歩きましょうか」
「じゃあ外でお茶を飲もう」
「わかりました。用意させますので少しお待ちを」

 ラズールが立ち上がり扉を開けて鈴を鳴らす。すぐに来た使用人に用件を言うと、ラズールは棚の上にある黒のショールを手に僕の傍へ戻ってきた。そしてショールを広げて僕の肩にかける。
 僕は右手でショールを摘んで、ラズールを見上げた。

「もう暖かいからいらないよ?」
「ダメですよ。まだ体調が戻ってないでしょう?」
「ええっ、元気だよ。あれから三ヶ月たってるんだから」
「でも念には念を。俺のいうことを聞いてくれますよね?」
「…わかったよ」

 少し口を尖らせた僕に笑って、ラズールがしっかりと僕の肩を抱く。そしてまだ思うように動かせない僕の左手を握りしめて、窓からテラスを抜け庭に出た。


 三ヶ月前、僕はバイロン国にいた。
 イヴァル帝国とバイロン国の間で戦が起こり、その時に捕虜としてバイロン国に入ったのだ。心配してついてきたトラビスと一緒に。
 そしてその時に、バイロン国の第二王子に左腕を斬り落とされ重傷を負った。流れすぎた血と雨に打たれて冷えすぎた身体で死にかけた。トラビス以外の味方がいない国では確実に死ぬしかなかった。
 だけどラズールが来た。僕の代わりに毒矢を受けて動けなかったラズールが、回復して国境を越え助けに来てくれたのだ。
 実のところ僕はラズールが来る直前に気を失ってしまい、前後のことをよく覚えてはいないのだけど。前後どころか、捕虜になってからのこともぼんやりとしか覚えていない。僕は十日間も意識が戻らなかったから。そのせいでバイロン国にいた時のことを思い出そうとすると、頭の中に靄がかかったみたいになる。
 だから今覚えていることは、全てラズールから聞いた話だ。

 僕は意識が戻るとイヴァル帝国の王城にいた。城の中で一番日当たりのいい一階のこの部屋で、ラズールに手を握られていた。
 ラズールは僕と目が合うなり顔を伏せて震えた。顔が見えなかったけど、泣いていたと思う。しばらくして顔を上げたラズールの目が、真っ赤になっていたから。長いまつ毛が湿っていたから。
 僕が「ごめんね」と掠れた声で言うと、「本当にですよ…」と泣き笑いの顔で、僕の髪を撫でた。

「フィル様…左手ですが、今できうる限りの治癒をしました。動かせますか?」
「左手…?」
「斬り落とされたでしょう?」
「あ…そうか…」
「少し赤く痕が残ってしまいましたが…」
「そうなんだ。ありがとう、ラズール」
「いえ…、間に合わなくて申しわけありません」
「…よく覚えてないのだけど、僕は…金髪の男に斬られた…?」
「はい。彼はバイロン国の第二王子です。俺は彼を絶対に許しません。そしてあなたも許してはなりません」
「わかった」

 ラズールがとても怒っている。なにが理由で斬られたのか思い出せないけど、僕も許す気はない。
 僕はゆっくりと左手に力を入れる。ひどくゆっくりとだけど、なんとか指が動く。でも物を持ったり掴んだりは難しそう。
 僕がそう言うと、ラズールは「そうですか」と苦しそうに顔を歪めた。
 
 
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