銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 俺はトラビスを連れてフィル様から離れる。そして机の前にあるソファーに向かい合って座った。

「ネロがどうした。暴れてるのか?」
「いや、城の北側にある牢屋で大人しくしている。一日に一度、俺は尋問のために出向くのだが、三日前から興味深いことを言い出した」

 トラビスが少しだけ前のめりになる。
 俺は肘掛けに肘をつき、足を組みながら「なんだ」と聞く。

「口の軽い牢番が、交代時に他の者に話したフィル様の容態を聞いていたらしい。フィル様の目を覚まさせてやると言うのだ」
「は?デタラメだろう」
「俺もそう思った。だがネロは、自分は魔法の力も強く、医療の知識もある。何よりフィル様と近い存在だと真剣に言う」
「元より頭のおかしいヤツだと思っていたが、牢屋に閉じ込められていよいよおかしくなったか…」

 俺はため息をついてフィル様に目を向ける。そんな得体の知れないヤツに、フィル様を会わせるわけがないだろう。トラビスも下らない話を持ってくるな。

「おまえも暇ではないだろうに。そんな戯れ言、ほおっておけ」

 顔を背けたまま冷たく言い放つ俺に、尚もトラビスが食い下がる。

「待て。最後まで聞いてくれ」
「なにを」
「だからネロのことだ。ネロは信用ならないが、俺はネロの話を少しは信じてもいいと思っている」
「トラビス…おまえまでも頭がおかしくなったのか?それともそれは伝染する病か何かなのか?」
「相変わらずフィル様以外にはキツいよな、おまえは。違うんだよ。あのな、ネロには牢屋に入れてから三日おきに身体を拭くための湯を運んでやっている。その湯で身体を拭き頭と顔を洗っていたのだが」
「唐突になんだ?さっぱりしてよかったじゃないか」
「まあな。北側の牢屋は地下ではなく地上にあるのは知ってるだろう?だから日中は、天井近くの窓から日が差し込む」
「ああ。牢屋にしたら明るい」
「俺は尋問の時、腹が立つからネロの顔をあまり見ないようにしていた。だが三日前に興味深いことを言い出して、ようやくまともにネロと目を合わせて驚いた 」
「なぜ」
「おまえも見た方が早い。今からネロに会いに行くぞ」
「今から?午前の間にやるべき事を終えて、今からはフィル様のお傍を離れずお世話をしようと思っていたのに?」
「少し会うだけだ。頼む」

 トラビスが両手を膝に置き、頭を下げる。
 ネロは罪人だ。なぜわざわざ俺が会いに行かねばならない。

「断る」

 俺はトラビスの後頭部を見下ろしながら、はっきりと言う。
 トラビスは素早く俺の傍に来て、片膝を着きながら懇願した。

「ネロはフィル様の役に立つかもしれないんだ。すぐに終わるから…頼む!」
「……フィル様に…昼餉の代わりの栄養剤を差し上げる。それが終わってからだ」
「わかった」

 俺が頷かない限り、トラビスはこの場を動かないだろう。だから仕方なく頷いた。
 先に行ってろとトラビスを追い出すと、俺はフィル様の所へ行き、そっと抱きしめて耳元でいつもの呪文を囁いた。
 
 
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